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出会い



「いてて、、」



目覚めると見知らぬ路地に倒れていた。

本当に転生しちゃったんだ。

自分のゴツゴツした手をみてやっぱり夢じゃなかったんだとため息をつく。



空は青い。時間帯は昼なのか?

とりあえずこの世界のことを知らないと始まらない。

偵察してみよう。




路地を抜けると賑やかな商店街に出た。

道の両脇には果物や食べもの、アクセサリーを売る店などが続く。


動物の鳴き声、商売人たちの威勢の良い声、子供たちが駆け回る音ーーこの街は賑やかだ。




「まあ、イイ男ねえ〜。見ない顔だけど、お兄さんどこから来たの??」


酒場のドアが開きひょっこり顔を出した女は、人懐っこい笑顔でこちらに手を振る。

緑の瞳に茶髪のポニーテール姿が可愛い。



この世界ではこんな雄臭いのがモテるのか?

私は細マッチョ塩顔が希望だったんだが。

いやまて、せめて女で転生したかった。



まずは情報収集だ。

促されるままカウンター席に腰掛け尋ねる。


「いきなりですまないが、訳あって記憶喪失になってしまってな。この国の事教えて欲しい。」



女主人は困ったように人差し指を頬にあて小首を傾げる。



「その体つきや傷からしてドラゴン退治でもしてたの?まあー、、、私に分かる範囲のことなら教えるわ。ちょうどお客もいないしね。」




そういうとエプロンを外し横に腰掛ける。





この国の名前はヴィンドラ王国。

剣と魔法の国。


海に浮かぶ小国であるが貿易が盛んで、中心街では市場が栄えている。また気候も良く資源も豊富なことから農耕や鉱山なども盛んな豊かな国である。



魔術師や剣術使いだけでなく、商いや炭鉱、農業をしている一般人も多い。

街から出ると魔獣も多いので駆除の依頼もありそれで生計を立てている人が多い。

昔は戦争もあったが、現在の王は平和主義者のため概ね平和な国である。



というのがこの国の概要らしい。




「宿はどうするんだい?」


「まだ決まってないんだ」


「ならうちに泊まったらいいわ。2階が客室さ。可哀想だし安くしとくよ。そのかわり、お願いがあるんだ。森に住むホワイトモンキーの毛皮がほしいの。取ってきて。」


「ホワイトモンキー?」


「それも忘れちゃったの?猿の魔獣ね。低級魔獣だから魔法も使えないわ。あなたなら簡単に倒せると思うけど?ホワイトモンキーの毛皮は低級にしては高く売れるのよ。」


女主人が奥から図鑑を持ってくる。

パラパラとめくり、ホワイトモンキーを指さす。


「えーと、これよ。」



白い体毛に青い目をした猿。

普通に動物園にいるサイズ感。

なるほど、これなら頑張っていけそうだ。




「分かった。捕まえてくる。日没までには戻る。」




「そんなにかからないと思うけど。美味しい夕飯を作って待ってるわ。薬草なんかの薬や簡単な魔導書は向かいの商店に売ってるわ。防具や剣は街の方にたくさん売ってるわよ。ホワイトモンキーはナイフでも仕留められるみたいよ。まああなたは大剣使いだから買う必要ないでしょうけど。」



と私の背中にかかる大剣を見ながら笑う。

ホワイトモンキー。

初めて聞くが、見た感じなんか普通の猿って感じだ。大丈夫そう。

サクッととってサクッと帰ろう。

一応薬草くらいは買っといた方がいいな。




「あ!そういえばあなた名前は?」



名前!?!?

あっ!!名前考えてなかったな、、

えーい、こうなったら苗字でいいわ!



「、、、ヒラタだ。」


「ヒラタ、、、?なかなか聞かない響きね。異国出身なの?って覚えてないのよね。。ごめんなさい。私はルイズよ。よろしく!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうして今、私は深い森を歩いている。

街から離れるにつれ、魔獣達の鳴き声が聞こえるようになってきた。



ナビゲーターには体力強化されてるから戦いについては心配ないと言われたけど、リアルじゃ喧嘩もしたことない。




不安だ、、


ルイズも低級魔獣だと言っていたから心配ないはず。しかもナイフでいけるんだから、とポジティブで心を満たし、地図を見ながら目的地を目指す。




「ん?これは、、」





目の前に白い動物が倒れている。

動く様子はない。



恐る恐る近寄ると白い毛皮に青い目をしたーーーホワイトモンキーだ。

しかし血を流して死んでいる。

誰かに、、やられた、、??




その時、茂みがガサリと揺れる。




ホワイトモンキーの亡骸を抱えたままハッと音のする方を見る。

そこには大きな銀色のオオカミが顔を出していた。クルリと此方を見ると顔を歪めてグルルと唸り声を上げこちらを睨みつけた。



冷や汗が全身から噴き出す。

早く逃げなきゃ、、死ぬ。

頭では十分すぎるほど分かっているのに体は1ミリも動かせない。

手は震え、足はすくみ、瞬きさえ忘れた。



その間にゆっくりと姿を表した狼は想像より遥かに大きかった。銀色のタテガミは艶がありながらも力強く、体全体から殺気を放っている。




死を覚悟した。








「オイ、こんなところで何してんだお前」



頭上から降ってくる声に驚き顔を上げる。

木の上に一人の少年の姿があった。

14、5歳だろうか?


赤く柔らかな髪に黒いツノ。

冷たく見下ろす金色の瞳。

歪んだ笑みを貼り付けて此方を見ている。

まるでこちらが困っているのを楽しんでいるようだ。


「コイツらはシルバーハウンドって言って魔獣の中でも特に凶暴なんだよ!何してんだバカ。ホラ、戦えよ!チッ、、、しゃーねえな。」



ひらり、と着地する。

彼は左の掌を敵の前に突き出すと、挑戦的な目つきでペロリと舌舐めずりをする。


挑発された魔獣も一気に唸り声をあげ、今にも飛びかかりそうなほどだ。



ーーーこの少年、強い。

出会って5分ほどだが、分かる。

身のこなし、表情、言動。

これほどまでに凶暴な相手に怯まないとはこの歳でどれほどの経験を積んでいるのだろう。



「この俺に会ったのが運の尽きだ。死ぬ覚悟は出来たか?バカ犬。」



その言葉と同時に魔獣は地面を蹴り、真っ直ぐ力強く少年に飛びかかる。



少年の先程構えた掌に魔法陣が浮かび上がり、茶色の液状のモノが勢いよく放出された。



ギャアオオオウ!!!



液体が魔獣の目にかかると、悶絶し地面に叩きつけられた。更に追い討ちをかけるように魔獣の体にも攻撃。

茶色の液体は鞭のようにしなり、連続攻撃でたたみかける。



すごい、、!

すごいよ、、!強キャラ登場だよ、、!!







「行けーっ!少年!行けー!」


私は我を忘れて叫んだ。






少年は薄ら笑みを浮かべ攻撃の手を休めない。



イケる、、、!すごい、、!

最強のショタに出会っちまった!!

この異世界転生、余裕だ!!!

圧倒的強者!!やったどーーー!!!




私は歓喜した。

勝利を確信した。





ーーーと、思った矢先の出来事だった。





魔獣が起き上がった。




普通に起き上がった。





ノーダメージくらいの感じでスッと。  





まるでお布団から出てきたかのようにナチュラルで自然体で、それでいてベッドとカーテン見えちゃいそうな位にスッと。




茶色に濡れた前足をくんくんと匂う。

そしてペロリと舐めた。





えっ、、、??





魔獣と私は静止した。







えっ






少年を見る。

少年は鼻血を出して肩で息をしていた。







えっ







「くっ、、、強えな、、後は頼んだ。」






えっ







ええええええええ




膝からガクリと崩れ落ちる少年を光の速さでキャッチして元来た道を全力で走る。

私の第六感が言っていた。

逃げる以外の選択肢なし、と。



いやいやいやいやこの子何?

ほんと何!?!?いやまず誰?!

あっちにダメージなさそうだったけどどんな攻撃??!むしろ此方は何も食らってないのに鼻血?!一ミリもわっかんない!!ハッ!シルバーなんちゃらは!?追ってきてる!?いやいやいやいやもう振り返るの怖くて無理!!!





私は全力疾走し街まで戻った。






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