選択
バッと目を開けると電脳世界が広がっていた。
さまざまな言語、記号が漂う空間に浮かんでいる。
複合した電子音が脳を掻き乱す。
あれ、わたし、、コーヒー飲んで、、胸が苦しくなって、、頭痛くて、アレ、、?
宙に浮かんでいるようだったが手を伸ばすと透明の壁があり、行動は制限されている。
『お目覚めですか?』
突然電子音に話しかけられ、ギョッと思わず後退りする。声の主の姿は見えない。
『私はナビゲーターでございます。突然で大変恐縮ですが、貴女は死にました。』
ーーーえ?
『貴女はカフェからの帰り道、心筋梗塞により19時25分30秒02死亡。誰からも発見されず今も遺体は裏路地にある状態です。とはいえ現時刻19時26分。まだ死にたてです。さて、貴女にはこれから別世界に転生してもらいます。』
「えっちょっと待っ、、転生?!やっぱりあの時私死んだの?!ってか普通死んだら地獄とか天国とかそういうのじゃないの?どういうーー」
『ハァー!もうキーキー煩いですねえ!天国とか地獄とか地縛霊とか諸説あるかもしれませんが、今そういう話してる時間ないんですよ。魂も死後劣化していきますから質の良い転生はスピード勝負なんですよ!!一旦ダマらっしゃい!!』
「何で私が転生するのよ!?他にも死ぬ人いっぱいいるでしょ!?よりによって何で私なのよ?お願いだから素直に天国行かせて!」
『それを説明する時間はありません。はやく承諾してください。ちなみに今天国には貴女行けません。次死ぬ時は頑張れば天国に推薦書書いときますから!煩いので次喋ったら転生承諾とみなします!』
「えっ私天国行けないの?」
『ハイ。承諾と。では転生先の姿に遺伝子改造します。下に足型のシールありますね?そちらに立ってください。5秒後開始しますが足型から外れると四肢がもげますからね注意してくださいね。』
私は口を開こうとしたが四肢がもげるというパワーワードに気圧され、慌てて足型の上に立つ。
一度死んだ身。どうにでもなれ!と投げやりな気持ちで半泣きで宙を見る。いや待て遺伝子改造て何?
と考えた刹那、再び私の意識は闇の中に消えた。
ーーーーーーーーーーーーー
きて、、おきて、、さい、、起きてください!!
ハッと目を覚まし体を起こすと病院のベッドにいた。
『あまりに寝ているので心配しましたよ。結構図太いですね。私は待ちくたびれましたよ全く。』
ベッド横にやれやれと呆れ顔の男がいる。
声色からして電脳世界での声の主だ。
黒髪に眼鏡、スーツの出立ちだ。首には十字架のネックレスを下げている。
男は演説する様に両手を掲げツラツラと話す。
『無事に遺伝子改造も問題なく済みました。この世界での姿です。遺伝子改造とは物騒な語感ですが、あなたの魂を外見に反映させることで可視化したもの。貴女の魂の質、強さ、また弱さ、闇の部分などが反映された、つまり、ありのままの本来の姿と言えるのです。』
『あなたは新しい生を受け、自分本来の姿で新しい人生を歩む。さあ、ご確認ください。』
男は柔和な笑みを浮かべ、鏡を手渡す。
転生ーーー今私はどんな姿になっているんだろう。
震える手で鏡を受け取る。
内面が外見に反映されてるってことか。
私って子供っぽい所もあるし、嫉妬してしまう所もある、、もしかしたら小さい子みたいな外見かな。
それとも実年齢にそくしたあまり変わらない姿だったりしてーーー
勇気を出し鏡を見ると
そこには屈強な男の姿がありました。
!?!!??!!?
「え?え?え!?わた、え?お、男?!誰!?」
『あなたです。』
「いや私確かに若くはないけどれっきとした女だったよ??なにこの漢、しかもちょっと待って。」
慌ててベッドから飛び降りる。
スタッと飛び降りた私の全身が壁の大きな鏡に写る。
そこにはなんとも目つきの悪い屈強な漢がいた。
黒髪短髪サイドに剃り込みがあり、猛々しく隆起した肉体には無数の傷跡がある。
これは、、、
ガチムチやないかいっ!!!
『幾多数多の男達を押しのけ、度胸と根性この年で管理職についただけのことはありますねえ。実に素晴らしい!ストイックさが筋肉に反映されてますよォ!男の噂も無く、好きな人をひたむきに応援する一途さ、額の傷は実母の必殺技「結婚まだ?」による傷ですね。職場の20代後輩による秘技「寿退社」の深い傷もありそうダァ!!』
眼鏡男は私とは真逆で大興奮。
鼻息荒く解説してくる。
いや後半なんなの。めちゃくちゃ腹立つんだけど?!
「こんな見た目絶対イヤ!!てか性別も外見も何もかも変わっちゃってるじゃん!こんなの失敗!やり直し!」
『何度やり直しても同じこと!私が故意に操作したわけではありません。先程も申し上げた通り魂の姿なのです。パラメータや能力値も魂由来です。貴女はーーーー』
眼鏡をクイッと指で持ち上げて言う
『体力と攻撃力、防御力にポイント全振りですね!魔法の才能無し!脳筋馬鹿です!』
「うるっさい!最後余計なお世話すぎるわ!」
男は人差し指を立て神妙な面持ちで続ける。
『魔法は使えませんが、武闘派大剣使いとしてはかなりの才能があります。やはり神に選ばれた魂。改めまして、転生先でのあなたの目的。それは闇の魔王を倒すことです。』
「めちゃくちゃベタだなオイ。てゆーか誰かやるんじゃないの?大体いるじゃん?俺が勇者になる!みたいな人。そういう奴に任せれば」
『天国の推薦書、、』
眼鏡の奥で鋭く光る瞳にハッとする。
「やります!やります!!絶対倒します!だけど見た目、、見た目せめて細マッチョ塩顔男子に変更してよ!」
『無理です!!さあ、しのごの言わず魔王倒して下さいよっ!!いってらっしゃーい!』
足元が光りまたもや意識がブラックアウトする。
また、、これ、、
強制的に意識奪うのずるくない?
そして私の新たな物語は大変不本意な形で始まった。




