こんな転生はイヤだっ!
平田雪乃
女性管理職 未婚
仕事に邁進しすぎた結果、婚期を逃して根気を得る。失うものも多かった。が、今は仕事がとても楽しい。充実、、、というまではないがそれなりの毎日。
田舎の母が未だにお見合いしろと言うけれど、無理に結婚するより一人の方がいい。
所謂、自立した女でありマンションも買ったし収入面も特に不安もなし。ここまで来ちゃうと逆にフリーダムに生きたいのだ。
配偶者がいなくとも自分のライフプランは作れる。
ーーーとは言ったけれど、実を言うと恋愛が単に苦手なだけである。
趣味は筋トレと買い物と仕事終わりのコーヒー。
そして一番は、、、推しの『寺地リョウマ』の画像見てムフフすることである。寺地リョウマは顔面国宝!!!
彼は今をときめく男性アイドルユニットの一人なのである。塩顔細マッチョ、クールな性格とたまに見せるはにかんだような笑顔は全世界のファンたちに明日への活力を与えていると言っても過言ではないッ!!
さて、紹介が長くなってしまった。
物語に戻ろう。
先に言っておくが、これから話すことは私の回想録である。
私はいつものように疲れた体を引きずり、いつものカフェへ向かう。季節は冬。冷たい風に負けぬようコートをぎゅっと引き寄せる。猫背に丸まった姿は嫌いだが仕方ない。
いやほんと今日は疲れたなあ。
商談はしごだったもんなあ。部下へのキャリア指導もあるし、、しんどい。まあ自分が選んだ道だから仕方ないんだけどさ。
裏路地に入る。この道は暗いが、大通りを回り込むより近道できる。少し行くとオレンジ色の光と古いが綺麗にしてある看板が見えて来る。「カフェ・フォレスト」私の休息の地である。
カラン
いらっしゃいませ
軽やかな音とともにコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。目線を上げると温厚そうな初老のマスターがいつも通り暖かい笑顔で迎えてくれる。
「いつものかい?」
マスターは目線を下げ、コーヒーカップを拭きながら私に尋ねる。
「いつもので。」
私もマスターを見ずに定位置に座る。
まるで家に帰ってきたかのように自然と。
この時間の窓際の四人席は私の特等席だ。
すぅ、と深呼吸する。
コーヒーの香りがしなびた身体中を駆け巡る。
「おまたせしました。」
スッとテーブルにコーヒーが乗る。
それと一緒に小さなケーキが来た。
「マスター、ケーキ頼んでないよ。」
「疲れてる時に甘い物は効くよ。ケーキは僕から。今日はいつにも増して疲れてるよ。たまにはゆっくりする時間作りなよ。」
マスターは去りながら答える。
私はケーキを見つめて考える。
イケオジ。これはれっきとしたイケオジである。と。
束の間のコーヒータイムを楽しみ店を出る。
二月の寒さは特別だ。
店内が暖かかったから余計寒く感じる。
私はポッケに手を入れ帰りを急ぐ。
もう辺りはすっかり暗い。
大通りから帰りたいが、この寒さには耐えれん。近いから裏路地を走っていこう。
この安易な選択が後の私の運命を狂わすこととなる。
裏路地の中腹あたりでのことだった。
ドクンッ、、、
ドクンッ、、、
胸が痛い。
鼓動がいつもより激しい。
なんだか頭も割れるように痛くなってきた。
歩くこともままならなくなり、その場で壁に寄りかかりながらうずくまる。
やっぱり無理しすぎてたのかな、、
最近ロクに寝てなかったし、家でも仕事してたしな。
いやまて思い当たることありすぎるなあ。
壁からズルズルと落ちてコンクリートの地面に顔がついた。呼吸がうまくできない。視界が霞む。
裏路地だから人通りもなく、助けも期待できない。
死ぬのはごめんだ。大量の冷や汗を吹き出しながら救急車を呼ぼうと震える手で携帯を探し出す。
ボタンを押そうとしたその時、無情にも私の意識は途切れてしまった。