夢の食材 ~もしアレが食べられたら~
きっとみなさんも食べてみたいと思ったはず……頼む、あると言ってくれ……。
お願い私を一人にしないで……。
皆さまごきげんよう。ひだまりのねこですにゃあ。
私は子どものころから、あるものをずっと食べたいと思っておりました。
アレが好きなだけ食えたなら……そんな某CMのようなことを夢見てきたのです。
そう、私は木が食べたい。
木曜日ではない。曜日なら火曜日と水曜日の方が美味しそうだ。そうではなく樹木のツリーの方。
あのお菓子のような可愛い見た目、きっとウエハースやチョコレートみたいな味がするに違いない。幼い私は本気でそう思っていた。
輪切りにした時のあの年輪、まさにリアルバームクーヘン!!
見ようによっては、マンモスの輪切り肉に見えなくもない。つまり美味しそう。
小枝を折って、口に入れれば、とろけるような口溶けとちょっとビターな甘みが口いっぱいに広がって……そんな想像をしていたのです。
しかし、現実は厳しい。木製のおもちゃを齧ってみても、ちっとも美味しくない。やはり生えている生の木でないと美味しくないのだろうか?
やがて木は食べられないものだと学んだ私は、その想いを封印したまま成長した。
でも、秋が来るとどうしても思い出してしまう。色づいた紅葉、どんぐり、銀杏、栗たちが、私の木に対する封印した食欲をこれでもかと刺激してくる。
そんな私が大学生になった頃、ある日ふと思ったのだ。
待てよ……本当に食べられないのか? もしかして知らないだけで、食べられるんじゃないか?
常識を疑え!! 好奇心を燃やせ!! 私は調べた。食欲には勝てないから。
そして、結論は出た。
……食えません。
本当に残念ながら食えません。大事なことなので二度言いました。
いやいや、歴史上、飢餓に陥ったとき、最後の手段で木の皮を食べた話とかあるじゃん!!
ニホンザルが真冬に食べ物が無くて木の皮食べたりしているじゃないか!!
ええ、おっしゃる通り、木の種類にもよるけれど、樹皮であれば、一番外側の皮の内側にある「形成層」という部分なら食べられないこともない。形成層は、光合成で作り上げた栄養を根に送る師管や根から吸い上げた水分を送る導管があって、生きている細胞が集まっているから、比較的柔らかいし、水分や樹液には栄養もある。
私も何種類か齧ったけれど、ほのかに甘みがあるものすらある。
でも、これはあくまで食べられないこともないというだけで、とうてい食品とはいえない。
なぜなら得られるカロリーを消費カロリーが上回るから。
理屈で言えば、木の皮をお腹いっぱい食べ続けても、必要なカロリー摂取出来ないので、いずれは餓死してしまう。もっとも、サルは冬を乗り越えられれば良いだけなので、水分とミネラルさえ摂取できれば、秋に蓄えた皮下脂肪でなんとか耐えられる。
人間だって、水とビタミンミネラルさえ取れれば、食事をしなくても理論上数カ月は生存可能だから、いざとなったら、食べられる木の皮なら食べないよりは食べた方がいいけどね。お腹ふくれるし。
実際に、秋田には松皮餅という、松の皮を混ぜた名物が今でもあって、戦国時代の飢饉や籠城戦のときには食事の嵩増しのために利用していたそう。死ぬまでに一度食べてみたい。冷え性にも効果があるらしいよ。
ところで、そんなお世辞にも食品とは言えない木の皮だけど、森のお友だち、鹿さんだけは木の皮を食べて食用にしている。もちろん彼らが特殊な消化器官を持っているから出来る芸当ではあるけれど。
以前は鹿が木の皮を食べるのは、冬に食べるものが無くて仕方なく……と思われていたのだけれど、最近の研究で、実はそうではなく、我々人間が、肉だけでなくサラダを食べるように、メインディッシュで偏った栄養バランスを木の皮で整えているらしいことが分かってきた。
鹿さんも実は結構なグルメだった……。もしかして私、負けているかも。
結局、人類がやがて進化して、鹿並みの消化器官を備えるか、はたまた、モノ好きな科学者が食べられる木を生み出さない限り、私の夢は叶わない。
でも、きっと夢は夢のままが良い。
だって、もし木が食べられるなんてことになったなら、きっと森は姿を消すだろう。だからこのままで良いのだ。
そんなことを夢想していたら、なんだかお腹が空いてきた。
今日は仕事帰りにスーパーで、バームクーヘン一切れと枝のチョコレートを買って帰ろうかな。
――――おまけ――――
みこと。さまにいただいた美味しそうな切り株の写真。
どうみてもドラゴンの尻尾の輪切りです。しかも数千年は生きた古竜のものでしょう。食べたら確実にステータスアップ&特殊能力が得られそう。
バターソテーにして、醤油を少々垂らしたら美味しそうなのです!!