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親しき仲にも程度あり

作者: たなか

「やはり……今回もダメだったか……」



 深い溜息を吐き出し、肩を落とす国王。



「途中までは上手くいくかと思われたのですが、残念ながらあの二人の相手をするには、彼女では力不足だったようです……それでは、今回の『男爵令嬢横恋慕作戦』のレポートを読み上げます」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 アラン第一王子とイザベラ公爵令嬢。二人は初めて顔合わせを行ったお茶会で即座に意気投合しました。仲睦まじく楽しそうに話す姿に、二人の両親は柔らかく微笑み胸を撫でおろします。その先に何が待ち受けているのかも知らずに。



 お茶会から数週間が経つと、アランとイザベラが学園の生徒達から『実に愚かップル』『歩く公然わいせつ』『恋と倫理の反面教師』などと密かに呼ばれていることが両親に告げられました。



「どうしてそんなことに……」



 調査の結果、自らの耳と二人の正気を疑うような事実が明らかになりました。


 四六時中密着して過ごしているというのはまだ序の口。お互いのことを何故か「アラぴ」「イザぴ」と呼び合っている。二人が一緒に居る時は口を開くと名前を囁き合うか互いを褒めそやすかの二択。静かにしているのは熱い口づけを交わしている間だけ。



 どうしようもない理由があって離れている時は、周囲の人間がうんざりして逃げ出すまで、誰彼構わずお互いのパートナーがどれほど優れて魅力的で素晴らしいかを話し続ける。



 画家にキューピットやハートマークを隅々まであしらったド派手なペアルックのオーダーメイド制服を作らせたり、二人の愛の崇高さについて謳った自作のラブソングを校歌にしようとしたりなどなど挙げればキリがない奇行の数々……



 このままでは、まずいと幾度も注意・説得を試みたのですが、二人共全く聞く耳を持ちません。



 やむを得ず両親四人と側近、使用人、王家の影が勢揃いし会議を開き、何とかして二人の関係を正常化(・・・)する作戦を立てることにしました。



 これまでにもイザベラが女子生徒を苛めていると噂を流したり、アランが極度のマザコンであるというデマを広めたりしたのですが、少しも効果がありませんでした。



 今回の作戦は、地方の売れない役者をルイズ男爵令嬢として身分を偽り学園に編入させ、アラン王子に接触させて誘惑し、その現場をイザベラに目撃させることで二人の熱を冷ますというもの。

 


 計画通り口論になるかと思われたのですが……



「アラぴ! その女性は誰ですか! まさか浮気じゃないでしょうね!」



「落ち着いてイザぴ。僕がそんなことをする訳ないだろう。先程彼女から声を掛けてきたんだ。地方の学園から今日編入してきたというので、この王国のことを何も知らない彼女に僕の婚約者で未来の王太子妃であるイザぴがどれほど魅力的かを語って聞かせてあげていたところだよ」



「ああ……私ったら慌ててすっかり愚かな勘違いをしてしまいました……アラぴ……許してくださいますか?」



「勿論さ。頭脳明晰でありながら、ちょっとそそっかしい所も君の煌めく魅力の一つなのだから。全く……一体どれほど僕を夢中にさせれば気が済むんだい、イザぴ」



「アラぴのそういう大海原のように寛容で慈悲深い心を持っているところが大好きですわ……」



 じっと見つめ合う二人。吸い寄せられるように唇が近付いていき……



「じゃあ、私はこれで……」



「ぷはっ……ちょっとお待ちになって!!」



 完全に存在を忘れられている隙に任務を放棄し、そそくさと退散しようとしたルイズをイザベラが呼び止めました。



「あなたのことも疑ってしまい、本当にごめんなさい。でもよく考えてみたらとっても嬉しいことだわ。アラン様に声を掛けたということは、あなたも王子の魅力に惹かれたのでしょう? もちろん絶対にアラン様を渡すつもりはないけれど、私達男性の好みが似ているのだから、きっと良い友達になれると思うの! 最近は、なかなかアラン様の素晴らしさを聞いてくれる生徒がいなくて……」



 機関銃のようにとめどなく語り始めるイザベラにがっちりと掴まれ、逃亡に失敗したルイズの顔は、みるみるうちに色を失いました。



 その様子を密かに観察していた王家の影は首を振り、心の中でルイズに手を合わせ、その場を立ち去ったのでした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……ひょっとすると我々は間違えていたのではないでしょうか?」



「ん? と言いますと?」



「『北風と太陽』の物語にもあるでしょう。逆境は恋の追い風とも言いますし、二人の距離を引き離そうとすればするほど、かえって愛を燃え上がらせる薪を次々にくべてしまっていたのですよ」



「確かに一理あるなあ……だが、それならばこれからどうしろと?」



「……そうですねえ……我々が二人の真似をしてみるというのはどうです? 自分の親の恥ずかしい姿を目にすることで羞恥心を与え、自分達の身を振り返るよう仕向けることができるかもしれません」



「なるほど! それは名案だ!!」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 とんでもない迷案を採用してしまった国王・公爵夫婦は、その日から周囲の目を憚らず、場所を選ばず情熱的なキスをし、互いをあだ名で呼び褒め合うようになりました。



 そして4人は気づいてしまったのです。これは案外悪くないかもしれない、と。



 彼らのやんごとなき王侯貴族とは思えぬ振舞いに、乱心かと騒ぎたて、嘲笑っていた周囲の人間も、徐々に考えを改めていきます。



(国のトップがあんなことをするのには何か深い意味があるんじゃないか……というより自分達だけ節度を守った交際をしているのがバカみたいだ! 紳士淑女のマナーなんて知ったことか!)



 恋人や伴侶がいるものは、次々に慎みと分別を捨て去りました。相手がいないものは嫉妬と羨望に背中を押され、真剣に伴侶を見つけようと必死になりました。その結果、未婚率と離婚率は、ほぼ0%、出生率は鰻登り……気付けば人々の笑顔が溢れ、毎日国中いたるところで愛が囁かれる平和な王国へと変貌を遂げたのでした。



 (『バカップル王国史 第三巻』参照)

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― 新着の感想 ―
[一言] この国にイザベラ教を布教したい。
[一言] なんという、やさしいせかい! ラブ&ピースですね。 平和とは、こうやってなされるものだったのか(感動) アラぴ、イザぴ、好きぴ♥️ (使い方が結局イマイチわかっていないやつ)
[一言] 抑圧無くして皆ハッピー いや、コミュニケーション能力低いと辛い世の中だろうけど
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