終わりなき戦い 8
オンライン会議にログインすると、そこには、全部で10人の参加者が居た。
KTを含めると合計で11人。
元より存在していた分析チームは、今回再構成されることとなり、一旦解散されている。
以前の分析チームについては、詳細が伏せられており、構成していたメンバーについては、どういった人間が集められていたのかはもちろん、現在どうなっているのか不明だ。
質問しても答えてもらえない。
今回、招集された人間は、人体から排出された細胞から組成されていると推測されている事から、医学・科学者、8名。
ネットと情報収集のスペシャリストがKTを含めて3名。
随時、必要な人材は補充する可能性があるものの、初期メンバーはこの11名であると説明された。
Waste Monsterは、正体が不明であるが故に、どの分野の専門家を集めるのが正しいのかも不明と言っていい。
その上で、現時点で最有力と言えるメンバーを集めたのだという。
責任者MKの、正確な所属や役職は明かされていないが、プロジェクトは国が主体となっている事は明らかだ。
チームリーダーとしてKTが任命された事が、この会議で一番の驚きとなる。
予めKTには統括リーダーとして打診があったわけだが、メンバーに伝えられたのは、この場が初めて。
首を傾げる者もいた。
しかし、KTの経歴が伝えられると、誰もが賛成し、KTにとっては、それが一番の驚きであった。
KTは、言わばオールマイティな天才だ。
医者になろうと思えばなれただろうし、科学者や工学も同様。
その気になれば何でもできるし、ある程度の専門的な話でさえ難なく理解する。
ソファに許可なく改変を加える事は、法律で禁じられているが、KTは申請を行った上でカスタマイズしていた。
手順をすべて申告し、その通りに実行する必要がある為、工学の知識が相応に必要である。
そればかりか、申請の手順が複雑で、司法書士のような知識が必要となる為、過程で面倒になり諦める者も少なくない。
カスタマイズを実行しているのは、国民の中でほんの一握りだ。
書類の申請、改変の作業それぞれに代行業者はあるものの、信頼のおけない業者が多数あり、その実態を知りえなかったとしても、不正な改変を企てたとして、業者もろとも罰せられる事が多い。
むしろ、代行業者は、不正な改変を行う為に存在していると言っても過言ではない。
この国では、皆が平等に100歳まで生きる事となっており、法を犯した者は生存期間を短縮される。
KTにとっては何よりも避けたい事だ。
好奇心、探求心の塊である彼にとって、100年という期限がある事がもどかしい程。
許されるならば、宇宙全体を知りえるだけの時間を生きていたい。
KTは、単に好奇心があるだけではなく、いくつかの論文を発表してきた。
その内容は、分野を特定することなく注目されるものであり、勉強熱心な者は例外なく目にする物。
故に、会議に参加した者達は、皆、KTが書いた論文を目にしたことがあった。
会議に参加している者、全員が『これがあのKTか』と、思ったものだ。
論文の作者として有名であるが故に、その動向はどこからともなく噂となっていた。
TWEのどこかの班で、リーダーを務めているという情報が、ネットに流れている事をKT自身、よく知っている。
あらゆる意味で注目を浴びており、国からも目を付けられているであろうことは予想出来ていた。
KTは決して自信家ではないが、客観的な視点は持ち合わせている。
なんらかの依頼を、国から打診される日が、いつか来るに違いないと感じていた。
その時が来るのを、待ち望んでさえいた。
元より、自分の生活が24時間体制で監視されている、と、感じていたから、実際に打診された時に驚く事もなかったのだ。
こと、好奇心、探求心に関しては、敢えて目立つ事をしてきたとも言える。
それ程までに、国の中央が抱えている情報に触れる権限を欲していた。
過去にあった事件にヒントがないかという視点で、全ての情報が集約されている図書館に、好きなだけ居座る事が出来る今の状況は、正に理想と言える。
国側は、当然、KTの目的を把握した上で打診していた。
KTをチームリーダーに任命した事が、物語っている。
言葉にしないまでも、双方の目論見が、互いに透けて見えていた。
漂う違和感を察したのは、その場でただ一人。
ネットと情報収集のスペシャリストとして招集された、クレンという名のメンバーだ。
匿名性の高い社会構造である今、年齢や性別は、厳重に保護されている。
訊ねる者すら少ない。
無理に引き出そうとすれば、それが犯罪になるのだから、尚更だ。
医療の進歩により、100歳まで殆ど老化することなく生きられるため、生殖機能も維持される。
特殊な技術により、同性間でも子供を持つことが可能であり、家族の形態も様々だ。
年齢や性別は、重要ではないと言う方が正しい。
クレンは、アバター同士のやり取りでさえ、微妙な会話の間や、呼吸から、様々な意図を感じ取る事が出来る。
人数が多くなると、その情報の多さに疲弊する程、過敏だ。
だから、なるべく人との関わりが少なくて済む環境に、身を置いてきた。
一方で、情報収集には熱心で、時には、人づての情報が重要になる事も、十分に把握している。
だからこそ、クレンにとってKTの存在はとても大きかった。
KTは、あらゆる情報を検討、検証し、国の検閲を受けても、公開停止にならないギリギリのところで、論文を書いたり、ネット上に文書を掲載していた。
クレンは、それら全てに目を通している。
KTの信奉者と言っても良いだろう。
言動に、他の者よりずっと、耳を傾けていた。
だからこそ、気が付いたのかもしれない。
他のメンバーは、医師免許を所持しているが、医療研究の道に進んだクララ。
ヒトゲノム研究のスペシャリストvia。
細胞再生研究のスペシャリスト、レプロ。
植物の遺伝子研究者である、バランス。
生物分子化学研究者のBG、
構造生物学研究者StB。
ナノマシン研究者mm、nano。
ネットと情報収集のスペシャリスト、ジョーカー。
専門分野が絞れれば、その分野のスペシャリストを更に招集する事になるため、全ての分野での分析状態を、把握した上で管理監督する必要がある。
KTは、あらゆる分野の主要な論文を読み漁っている。
故に、分野を超越した論文を書く事が出来た。
内容を読めば、にわか知識でない、と、わかる。
KTがチームリーダーに選ばれたのは、この場にいる誰もが納得した、必然なのだ。