終わりなき戦い 7
引っ越しが、無事に済んだ。
家族は相変わらず何も聞いてこない。
恐らく睡眠中に記憶操作をされたのだろう。
KTが記憶操作について気がついたのは、本当に偶然だった。
様々なオンラインゲームをしていたKTは、数多くの相手と連絡を取り合っていた。
例外なく、あくまでゲームをするだけの関係。
この世界では、対面するにしてもオンラインだが、1人も対面したことはない。
きっかけは、ゲームをする上で、通信に発生するタイムラグの軽微な差に気が付き、相手へ、引越したのかを尋ねたこと。
しかし、1部の者からは、引越しはしていない、と、言われた。
引越しした事を、明かせないケースもあるだろうが、明らかに認識していない例があったのだ。
そこで、疑念を抱き、調べ、記憶操作説を見つけた。
都市伝説として、存在していたその説を見た時、KTは直感で事実だと思った。
根拠は、経験。
KTは、日常的に多くの情報に触れており、閲覧制限のかかっていないありとあらゆる情報を見聞きしてきた、と、言っても過言ではない。
実際にはその全てを見尽くすことなど到底不可能。
それ故に、溢れかえる情報の真偽を見抜く眼が培われてきた。
KTは、記録操作を防御する方法について検討した事があった。
いつ実施されるかわからないし、自分自身が記憶操作をされている事実に気が付かない状態は、考えるだけで恐ろしい。
まず、この記憶操作がどのようなシステムなのかを解明する必要があると考え、違法にならないギリギリの範囲で調査を進めた。
その結果、仮説として得られたのが、この記憶操作は、夢と潜在意識に働きかけるものであるという事。
つまり、睡眠中にしか行われず、なおかつ、夢が必須である。
夢を見ない程の深い睡眠であれば、記憶操作は行えない。
睡眠時間を短くする為に、常に深い睡眠になるように設定するれば、
記憶操作は、回避できる可能性が高い。
しかし、睡眠自体を操作されてしまう可能性がある。
完全に防御は出来ない、と、いうのが、最終的な結論だった。
更に、KT自身、過去に記憶操作されているか否か、不明ということになる。
記憶操作が、記録されているなら、あるいはそのデータにアクセス出来るかもしれない。
自分が過去に記憶操作を受けているのか、可能ならば確認したい、と、考えていた。
国家機密に触れる権限を得たKTは、その他にも、知りたいことを次々に思い浮かべた。
と、同時に、全てが片付いた暁には、記憶操作されるか、処分されるのではないか?と、言う疑念が芽生える。
それでも、正しい選択をした、と、感じていた。
考える時間を得たところで、結論は同じだと想像に容易いからだ。
今は、何よりも、Waste Monsterとは一体何なのか、それを解明することを最優先しよう、と、思うKT。
役割を与えられたからと言うだけでなく、純粋に知りたいと思っている。
KTは、最前線でWaste Monsterと戦ってきたが故に、その特性をよく知っていた。
ドロドロどした物質が、まるで意志を持っているかのように動く。
突然変異と考えるには、秩序がありすぎる動きだ。
断言は出来ないが、ずっと感じてきた。
その動きは、人為的である、と。
改めて、この国の闇に、足を踏み入れる覚悟をしたKT。
ブースの細かい個人設定を終えると、ちょうどアバター会議の時間になる所だった。
Waste Monsterの正体を暴くためのチームが招集され、初めて全員が対面する場所だ。
メンバーについては、未だ知らされていない。
どんな連中でも、KTのやることは同じだ。
しかし、このような局面で集められるメンツは、きっと風変わりな人ばかりだろう。
中には、KTと気が合う人間がいるかもしれない。
友人は不要だと思っているKTだが、気の合う仲間と語り合う事には、僅かながら憧れを持っている。
新しいゲームを初めてプレイする時のような、けれども、初めて体験する期待と高揚感。
胸の高鳴りを自覚したKTは、誰にも見られていないのに、誤魔化すように咳払いを1つすると、事前に知らされていたパスコードを入力し、会議室へログインした。