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waste monster  作者: 白銀みゆ
6/8

終わりなき戦い 6

あっさりと仕事を辞めたKTは、ブースの初期化を行う前の準備を始めた。

滅多に起きない事なのだが、引っ越しを行う場合などにブースの初期化を行う必要がある。

国家機密に関わるような任務に就く場合は、家族も保護対象となるので、家族にも通達が送られる。

恐らく既に家族にも通達が届き、準備を始めているだろう、と思いつつ、KTは特に家族に連絡をするでもなく、淡々と整理を進めていた。


何か聞きたい事があるなら、連絡してくるだろう。

しかし、聞かれたところで、何一つ答えられる事はない。

家族もKTが無口で必要以上の事を話さないとわかっている。

それ故に、干渉しない。


KTと家族の関係は、干渉が少ないというよりは希薄と言った方が正しい。

物心ついた頃から自分の興味を示す事に夢中になると周りが見えなくなり、話をしなくなる。

邪魔をされると機嫌が悪くなるので、家族も徐々に距離を置くようになった。


勉強ができるし、悪い事をするわけでもないため、

家族も放っておくのが一番良いと考えたのだろう。

おかげで、19歳と2か月で大学の博士課程に当たる範囲までの勉強を終えることが出来た。


アルバイトは、高校生の時からやっていた。

この社会では金銭的に困る事も特になかったし、お金が欲しかったわけではなかった。

ゲーム作りに早く携わりたくて、アルバイトを始めた。

それは趣味の延長のような感覚であったが、才能を買われ、

早くから色々な仕事をやらせてもらえたから、KTにとっては楽しいと思える時間だった。


それが、つい今しがた辞めた会社だ。

アルバイトから初めて、そのまま就職し、計約6年勤めた会社だ。

あっさり辞めたが、さすがのKTもなんの感慨もないわけではない。


様々な記憶が蘇っていた。

少し痛んだ胸に無意識に手を当てる。

自分にもこんな感情があるのか、と、少し笑って、整理を再開した。


整理と言ってもバーチャル空間での整理で、

ブースに設置されているサーバーや、記録媒体の中にある情報を引っ越し先のブースに移す為、

政府が指定したクラウドに一時的に移す作業だ。

引っ越し先は、すぐには決まらない事が多いが、今回のようなケースでは、

例外的に早く決まる可能性が高い。


その上、引っ越しが行われたことを周囲に気付かれてはいけないから、

通常は外出禁止とされている時間帯に行われることになるだろう。

家族には記憶操作でもするつもりだろうか。

さすがに外出禁止の時間に引っ越しともなれば、何か聞かれそうだ。


どこへ行っても風景は変わらないし、部屋も同じ作り。

ブース内も全く同じなのだから、何も変わらない。

家族はKTに起きている事も何も知らないままで、これまでと変わらぬ日常を過ごすだろう。


これまでも、家族に何かを相談しようとしたことはないし、

共有しようとしたこともない。

だから、今回も特別何も変わらない。

友達と呼べるような人間もいないし、必要だと思ったこともない。


ただ、ゲームの中では必要な会話をすることはある。

たいてい、いつもリーダーだった。

そしてTWEでもリーダーを任された。

挙句に、waste monsterの分析チームに勧誘され、国家機密に触れるところまで来てしまった。


孤独であるが故に、辿り着けたのか。

KTは、自分を孤独だと感じた事すらないのだけれど、

時折感じる空虚さを孤独というのかもしれない、程度には思っていた。

しかし、それでも、友達や恋人が必要だと感じた事は一度もなかった。


KTにとって必要なのは、いつでも知識と技術だった。

そして、それを最大限生かせる場所。

KTは常にそこにいて、これからは更に必要な知識と技術が増え、

最大限の力を発揮するだろう。


特にKTにとって喜ばしかった事は、ソファを合法的に外せるという事だ。

時間の制約を受けずに貪るように知識を得るというのは、どんな感覚だろうか。

KTはそれまでに感じた事のない高揚感を覚えていた。

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