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waste monster  作者: 白銀みゆ
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終りなき戦い 4

KTは、上司にメールをした後、返信を待っている間、再度VR機器に接続して、国会議事堂の観光用ロボットに接続した。

歴史の授業で見たことがあった、国会議事堂の立ち入り禁止エリアを確かめたかったからだ。

それを確かめると、次に国会図書館に向かった。

国会図書館は現在外観のみが見学可能となっていて、中に入る事はできない。

MKが言っていたように、閲覧可能な文書は既にデータ化され、わざわざ国会図書館に行く必要がない状態になっているのだろう。


おそらく紙媒体の情報はここに集約されている。

この施設こそが、MKの言うレベル11エリアなのだろう。

街を見回すと、そこには警備ロボットや観光ロボットが数機あるだけで、実に静かなものだ。

国会議員すら、国会に足を運ぶことがないこの世界。

すべては、100年ほど前に起きた新型ウィルスのパンデミックがきっかけだった。

調べることのできるあらゆるデータを見て、学んだKT。


かつてのこの国は今より混沌とした世界だった。

これはあくまで主観だが、今の世界は、通常生身の人間が外を出歩くことがほとんどない。

それゆえに混雑と言うものが存在せず、かつて利用されていた移動手段の鉄道で、満員電車と言う呼び方をされる、ラッシュアワーに起きる乗車率100%を大きく超えた、すし詰め状態の電車に乗るなどと言う事は、まるで想像すらできない。


ウィルスが猛威をふるっている中、電車で平均1時間移動して会社に行き、仕事をして帰宅する。

その時に乗る電車が、満員電車であれば、感染リスクは当然高いものになるだろう。

当時、各国で様々な対策が行われたが、その中でもこの国の政策は、後手後手に回り国民の評価も低いものであった。

そもそも、こういった事態が起きるまで対策をされてこなかった問題がこの時浮き彫りになったと言える。


だが、これらを学ぶ人間は現在ほぼいないと言って良い。

なぜ、現在のこのような社会が形成されたのか、多少歴史の中で学ぶ事はあるが、実は100年ほど前に起きたパンデミックの事は、明言されていない。


隠されてもいないが、必ず学ばなければならないこととはされていないのだ。

そもそも、100年ほど前に起きたパンデミックの際、この国で開催されるはずだった国際的スポーツの祭典が、長い歴史の中で初めて延期になった。

この国際的スポーツの祭典は、今や行われていない。


未曾有の災害は、ウィルスのパンデミックに止まらず、続けざまに、それよりも前から懸念されていた、この国で最も標高の高い火山の噴火、広範囲にわたる断層のずれによる大地震は、次々と容赦なく襲いかかり、この国は半分以上が大きな被害を受け、復興を必要とする状態になった。

そのことにより、ウィルスのパンデミックがきっかけで計画された都市計画に反対していた者も、賛成派に転じ、現在に至る。


だが、現在の都市は、想定された災害には強いが、想定外の災害には弱い。

残念ながら、その点は、100年ほど前と、何も変わっていない。

そんなことに思いを馳せながら、街を見回し見つめていると、メール着信の音がなった。


観光施設には、観光用ロボットが設置されており、どこからでも接続可能である。

どこで接続を切断しても、ロボットは自動で元置かれていた場所に戻るようになっている。

これは、警備用ロボットにも同じことが言える。

充電が切れた場合には、充電器を搭載したドローンが駆けつけ、ロボットを充電する。

故障したロボットは、回収用の大型ドローンが駆けつけ、回収する。

それらはシステムが管理しているが、施設によっては、予備的に目で監視する事もある。

その場合は、監査権限が与えられている者が、監視カメラに接続し、問題がないかを監視している。


KTは、それらの中核の一つであるVR機器に関するシステムエンジニアを生業としていた。

ゲーム好きが高じたもので、ゲームに深く関わりたかったのだが、能力の高さ故、より困難で重要な仕事を与えられる事が多く、趣味でゲームをしていた。

waste monsterが現れた時も、ゲームが得意な方を募集、と、あった為に、軽い気持ちで応募したのだ。


KTは、このように、自身の能力とモチベーションが噛み合っていない。

しかし、その能力を見過ごす事ができるものなど一人としていない為、のらりくらりと国家の最高機密にアクセスする権限まで与えられてしまった。


それでも、自分が何か役に立てるなら、という気持ちがある。

それが、KTをアンバランスに見せる最大の要因だろう。

やる気がないように見えて、与えられた仕事に関しては手を抜かない。

最も、KTが多少手抜きをしたところで、十分に事足りるし、本人は常に一生懸命にやっているわけでもない。


「面倒くせ」


は、彼の口癖だが「疲れた」とは言わない。


国家機密にアクセス許可を与えられる以前から、この国の至宝と言っても良い程に、有能な人間なのだが、本人は全く自覚していない。

そこが、危うくもあり、今回の打診には、KTを政府の監視、管理下においた方が安全であろうという目論見が裏にある事は、興味の及ばない範囲なので、気づかないし、気づいてもなんとも思わない。

それがKTだ。


興味のあることにはとことん注力し、VR空間で、本を5冊ほど並べてブツブツと独り言を言いながら調べ物をしているときなどは、他のことを一切遮断してしまう。

ソファでの生活を送るこの社会でなければ、とんでもないことになっているだろう。


ソファは、仕事のサイクルに合わせて就寝、起床時間を設定し、強制睡眠させることができる。

トイレはもちろん、食事もソファのチューブから摂る物なので、時間になれば自動的に食事が始まる。

食事の内容は、国民全員が基本的には同じものを摂取している。

これは、栄養バランスが考えられたもので、固形、半固形、液状と、状態は変化させることが可能だ。

無味無臭なので、視覚的演出、風味の調整を好みに合わせて行うのだが、KTは曜日で設定を固定しており、食べることによって曜日を認識することすらある。

むしろその為に、曜日を固定していると言っても過言ではない。

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