正義の剣
※本作はカクヨムでの偽教授さん(https://twitter.com/tantankyukyu)主催の自主企画「第二回偽物川小説大賞」で大賞を受賞しました。冒頭のイラストは大賞者に進呈される尾八原ジュージさん(https://twitter.com/GNekogasuki)作のイラストになります。
「わたくしが犯した罪がなんであるか、わたくしにはいまひとつわからないものがあるのですが――」
美貌の女だった。ナターシャ・ポーラという名があるが、その名で呼ぶものは誰もおらず、人々は彼女のことをこう呼んだ。
惜しみなき愛、と。
「けれどあなた方が、その罰をわたくしに与えたいとお決めになられたのなら、この命をもってお応えすることにいたしましょう。ですが最後にひとつだけお願いしたいことがございます」
彼女は法廷にいた。手枷をはめられた囚人の姿で被告人の席に立つ彼女は、裁判官と陪審員の下した判決に対して穏やかな微笑を浮かべながら、その願い事をほんのささやかな、まるで一服の煙草を所望するように申し出た。
「この首を彼女の剣で。麗しき首斬りのコルレッタ――」
汝よ、死を想え
もはや何者も逃れられない
正義の剣がおまえの首筋を狙っている
正義の剣を振るうのは
我らが女神コルレッタ
汝よ、幸福を想え
おまえに死を賜うのは
美しき死の女神コルレッタ
コルレッタの剣が飛べば
おまえの首は
死を知る間もなく地面に墜ちる
一切の痛みもなく
一切の苦しみもなく
おまえの魂は
神の身許へと運ばれる
ああ、麗しき死のコルレッタ
その白装束は朱色に染まり
その黒髪は喝采に舞う
今日も正義の剣は美々しく振るわれ
愚かなる罪人どもに
救いある死の償いを賜うのだ
さあ、救済の剣を振るえ
麗しき首斬りのコルレッタ――
ドルネ・ダラン編『帝都庶歌集 第三集』より「ヴィッラ・コルレーネ・コルレッタ」
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“正義の剣”というものがある。
刃渡りは十ギラン(約百三十センチ)、剣幅は六クロン(約八センチ)、やや幅広の長剣で、その刃は緩やかな弧を描き、白光を放つ乱れ波紋とともに切っ先へと伸びている。
その剣身を目で追っていくと、ちょうどそのほぼ中央辺りに「正義」という文字が刻まれていることに気付く。
“正しい”ではなく、“正義”である。“正しい”とは個人の直感に基づく正誤の判断を指す言葉である。対するに“正義”とは法に基づく善悪の裁断を示す言葉である。
この言葉を剣身に刻まれた“正義の剣”とは、つまり法に基づく裁判によって下された“正義”の判定を執行するために振るわれる剣のことである。
では、この剣を必要とする“正義”とは?
それは今、この剣を手に台上へと昇る女性、コルレッタの手によって示される。