第91話 この手の物も
冬休みが終わり2月下旬。昼休みの中庭にて。
「それで。前に言っていた復讐ってこれですか?」
「うん。これならきっとラザは恥ずかしがると思うから」
「ラザ先輩はこの手の物も苦手だと思います」
やろうとしてるのはアレだな。よくカップルでやる「はい、あっーん」ってやつか。オレも恥ずかしいが、隣にいるエメリー様も恥ずかしがっているな。
「ほ、本気でやるんですか? 私は恥ずかしいんですが・・・」
「本気でやるよ。あの時裏切った罪は重いからね」
「裏切ったっと言ってますが。特に手を組んだ憶えは無いんですが」
「あの話をしているだけで、手を組んでると同じですよ」
「それじゃあ分かりませんよ。あれだけで分かる人はそういませんよ」
「言い訳はもういいよ。じゃ。はい、あっーん」
フォークには切り分けられた、ハンバーグが刺さってる。それをオレの口元に近づける。オレはハンバーグを食べる。
「うん。美味い」
「・・・普通に食べた!? 何で!?」
「こういうのは早く食べないと、後々恥ずかしくなるんですよ」
「そうだけど。これじゃあ復讐が出来ない・・・」
「いえまだです。何回かやればきっと、羞恥心が出てくるはずです」
サラサ様はそう言って、サンドイッチをオレの口元まで近づける。オレはサンドイッチを食べる。
「サンドイッチも美味い」
「まだです」
サラサ様は更にサンドイッチを近づける。オレはそのサンドイッチを全部食べる。
「そ、そんな。全く羞恥心が出てきません!?」
「もう終わりですか? これだとただ俺が、美味しい思いをしているだけですよ」
「ぐぬぬぬ・・・。ま、まだあるから。もっと食べさせるよ!」
「結果は変わらないと思いますが」
エディスさんは食べ物をオレの口元まで持ってくる。オレはそれを食べる。それを繰り返してると、2人が持ってきた、お弁当箱は空になる。
「ぜ、全部食べても。羞恥心が出ない・・・。実はラザじゃない?」
「ラザですよ。言っちゃいますけど。我慢してますからね。顔に出ないように」
「我慢ってレベルじゃないよね。絶対に我慢ってレベルじゃないよ!」
「困りましたね。これじゃあ復讐にはなりませんね」
「ただただオレが美味しい思いをしただけですね」
「うぅ~。これじゃあ何をすればいいか分からないよ・・・」
2人はどうすればいいかを考える。オレは2人を見ていると、肩を優しく叩かれる。オレは叩かれた方を見ると、エメリー様が顔を真っ赤にして、リンゴをオレの口元まで近づける。
「エメリーがまさかの介入してきた」
「・・・これはラザ先輩も羞恥心が出るのでは?」
オレは2人が思っていることを、裏切ってリンゴを食べる。
「残念だけど。結果はこうなりました」
「おのれラザ! 何でそこまでして羞恥心を出さない!? 何で顔を赤くしない!?」
「我慢してますから。だからエディスさん、落ち着いて」
「どうしよ。本当にこれ以外の復讐が出来ないよ」
「過度にやると、きっとラザ先輩は怒ると思うので。これ以外方法が無いですね」
「復讐は失敗に終わった。それでいいですか?」
「うん。逆にエメリーが大変な事になってるよ」
「言われてみれば確かに。ところで3人はもう昼ご飯を食べたんですか?」
「もう食べたよ。エメリーとサラサさんと一緒に」
「どうやって食べたんですかね。もしかして、早く食べ始めたのですか?」
「そうだよ。まだ残りもあるから、大丈夫だよ」
「そうですか。エメリー様は大丈夫ですかね」
「大丈夫では無いですね。自分たちが見ておくので。ラザ先輩は先に、冒険科の教室に行っても大丈夫ですよ」
「ならお言葉に甘えて」
オレは立ち上がって冒険科の教室に行く。その日の夜。オレはベッドで顔を赤くして、掛け布団を被ってうずくまる。
休みの日。オレは買い物を済ませて、寮に戻る。移動中にカフェに目が止まる。
カフェあったんだ。ん? イゼベル先生と知らない女性がいる。邪魔するわけにはいから、気配遮断を使って帰ろっと。
気配遮断を使って、帰ろうとしたら。右肩に誰かの手が置かれる。
「おい待て。見かけたら声ぐらいかけろ」
「かけませんよ。2人で楽しく会話をしてる所に、声をかける度胸はありませんよ。それで何で分かったんですか。いくら強く使ってないとは言え、こっちは気配遮断を使ってるんですが」
「お前のお陰で、こっちは少し気配察知が出来るようになった」
「使い過ぎたか・・・。変な所で成長しても困るぞ・・・」
「聞こえてるぞ。ちょっと付き合え」
「嫌です。オレは寮に帰って、買った物を確認するんです」
「それは明日でも出来るだろ。つべこべ言わずに付き合え。今日は奢ってやるから」
オレに有無を言わせないで、服の後ろ襟を引っ張られて、カフェに連れて行かれる。
「その子? イゼちゃんが言っていた、ラザって言うのは」
「おいネリア! 人がいる前でちゃん付けは止めろ!」
「えぇ~いいじゃん、可愛いんだから」
イゼちゃん・・・。駄目だ。笑いそうになる。
「ラザ。お前笑ったらどうなるか、解ってるだろうな?」
「解ってます。解ってますが、ちょっと我慢出来るか分かりません」
「座ったら? ずっと立ってるのは辛いでしょ」
そう言われて、オレとイゼベル先生は座る。
「ラザ。コイツは元『果て無き夢』の初期メンバーの1人だ」
「元果て無き夢メンバーのネリアでーす。よろしくね」
「ラザです。果て無き夢の初期メンバーにしては、かなり若く見えるのですが。オレの気のせいですか?」
「若く見える? やっぱり若く見えるかぁ・・・」
「どう見ても若く見えるだろ。わたしと会ってから、もう10年以上は経ってるだろ」
「そんなに経ってるんだ。私にはもう時間って言うのは、ほぼ無いなぁ~」
「可笑しいだろ。まるで不死者になったみてぇな、言い方じゃねぇか」
「アハハハ。案外当たってるかもよ、不死者って言うのは。ラザちゃんはどう思う?」
「不死者って言うより、不老不死でしょうか。ところで何でちゃん付けですか?」
「そっちの方が可愛いから。何か問題ある?」
「ちゃん付けは止めてください。恥ずかしいので」
「昔もイゼちゃんも恥ずかしがってたなぁ~。今もそうだけど」
「諦めろラザ。ネリアはそう簡単には言い方を変えねぇ。我慢するしかねぇ」
「マジかよ・・・」
「で、学園でのイゼちゃんはどう? ちゃんと教師の仕事してる?」
「ちゃんとしてますよ。省略するところは省略してますが、基礎はちゃんと教えてもらってますよ。ただ午後は・・・」
「何だラザ。不満があるのか?」
「無いです・・・」
「ふ~ん。ちゃんと教師の仕事をやってるんだ。それは良かった。私はまだ昔のイゼちゃんかと思ったよ」
「ネリア。余計な事を言うな」
「昔のイゼベル先生はどうだったんですか?」
「ほら見ろ。余計な事を言うから、食いついたじゃねぇか」
「別にいいじゃん。イゼちゃんの可愛い教え子でしょ。過去を知ったところで、問題は無いでしょ」
「確かに問題はねぇけど・・・」
「アレですか。今より言葉使いが悪いとか、すぐに問題を起こすとか」
「問題児扱いをすんじゃねぇよ」
「言葉使いが悪いは合ってるね。お前とは言わずに、てめぇって言うのが普通だったね」
「今はあんまり言わねぇな」
「後はちょっと狂暴だったかな。魔物とか盗賊と戦う時は、ぐちゃぐちゃだったしね」
「ぐちゃぐちゃって・・・。今じゃあ想像も出来ませんね」
「昔の話だ」
「そうだね。じゃあ私は先に失礼するね。お金は置いておくよ」
ネリアさんは立ち上がってお金を置いて、何処かに行く。
「色々言いたいところがありますが。結局何で若いか、分かりませんでしたね。オレが話を変えるような事をしたせいですが」
「まぁいいじゃねぇか。何か飲むか?」
「紅茶で」
イゼベル先生は店員さんを呼んで、紅茶を注文してくれる。その後は雑談をする。