第80話 羨ましいお話
次の日。午前中の授業で、第3アリーナでマルル先生と模擬戦をする。
流石元騎士。隙が無い。押し負けてることは無いけど、ずっとこのまま続きそう。よし、一気に後ろに回るか。
オレはマルル先生の攻撃を避けて、すぐにマルル先生の後ろに回り込む。ただ回り込んでも、木剣で攻撃されるので、もう一度前に行く。そしてまた後ろに行く
「前!? 違う後ろっ!!」
オレは木剣でマルル先生の首元に、近づけて寸止めをする。
「参りました。ぼくの負けです」
木剣を下ろし、マルル先生から離れる。
「足の速さを活かされると、こっちは手も足も出ませんね」
「模擬戦でやるとすぐに終わってしまうのが、難点ですが。休憩をしませんか?」
「そうしましょう。他の生徒たちの邪魔にならないように、端の方に行きましょう」
オレとマルル先生は、アリーナの端に移動する。
「今年もあと半年ですね。ラザは準備の方は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。卒業試験も冒険者の試験対策をしてますよ。一番心配なのは、卒業試合ですよ。一体どんな冒険者が来るか分からないので、どう対策をすればいいか分からないんですよ」
「それはラザだけでは無いですよ。騎士科と魔法科も同じ状態ですよ」
「それもそうですね。所で気になっていたんですが。何でオレだけ呼び捨て何ですか?」
「おや、そんな事を気にしていましたか。ただ親しい人には、呼び捨てにしているだけですよ」
「いつの間に・・・。その割には。イゼベル先生の事は、呼び捨てで言わないですよね」
「好きな人の名前を呼び捨てで呼ぶのは、かなり勇気がいるんですよ」
「そうですか・・・」
何か乙女みたいな事を言ってる。
「あぁそう言えば。前にエメリー様たちと一緒に、イゼベル先生の家に遊びに行ったんですよ」
「何ですかその羨ましいお話は。ぼくは聞いてませんよ」
「今さっき初めて言いましたからね。楽しかったですよ。特に大きな事件も起きませんでしたし」
「何故ぼくを呼ばなかったんですか? ぼくを呼ぶべきでしたよね?」
「そう言われても。イゼベル先生は、元々オレを含めて4人呼ぶつもりだと、思いましたよ。そこでマルル先生を呼んだら、オレはイゼベル先生に殺されますよ」
「・・・呼ばれたのは生徒だけですか」
「そうですよ。それとマルル先生の事を聞いてみましたよ」
「! 何て言ってましたか!」
「アイツを呼ぶ必要あるのか?」って言ってましたよ」
オレがそう言うと。まるで石化魔法で石化されたように、固まっている。
「・・・大丈夫ですか?」
「――――――はい。だいじょうぶです」
あ、駄目だな。かなり心にダメージが入ったな。
「あぁでも、イゼベル先生の手料理は食べてませんよ。それに空き部屋に入りましたが、イゼベル先生の部屋には入ってません!」
「・・・そうですか」
これで少しは立ち直ったか?
「それ以外に何か見てませんか? 例えば風呂を覗いたりとか」
「そんな事はしてませんよ。それこそ殺されますよ」
「それもそうですね」
泊まった次の日に、イゼベル先生の下着姿を見てしまった。何て事は、口が裂けても言えないな・・・。
「マルル先生とラザはそこで何してるの?」
「休憩ですよ。お2人も休憩ですか?」
「はい」
「それでしたら丁度良いですね。イゼベル先生の家に泊まった時の話を、聞かせてください」
「んん~。何かあったっけ? 普通にただ楽しいお泊り会だったし」
「他に言う事もありませね。多分ラザさんが全部言ってる気がします」
「そうですか? ラザは全部言いました?」
「言いましたよ。他を言っても特に何も無いですよ。あるとしても、家に着く前に買い物をした程度ですし」
「後は恋バナくらいかな」
「恋バナ・・・」
「あ、恋バナの内容は話さないよ。これを話すと、死にたくなるから」
「エディスは途中で酔って、とんでもないことを暴露しましたからね」
「オレが風呂に入ってる時に、そんな話をしてたんですか。恋バナで一体何を、暴露したかは知りませんが。お酒はほどほどに。じゃないと取り返しのつかない事になりますよ」
「うん。気を付けるよ」
「そろそろ午前中の授業が終わりますね。一度集まりましょうか」
マルル先生は集合するように言う。集合したら、午前中の授業が終わり。更衣室で着替えて、オレは図書室に行く。
6日後。教室にイゼベル先生たちが入ってくる。バルナさんたちは、心配させたことの謝罪をする。無事に帰って来た事だし、特に怒る事は無かった。そして午後の授業。別校舎の教室にて。
「なぁラザ。サラサのやつ、怒ってねぇか?」
「怒ってますね。多分ですか。事件の解決が早く終わったら、早く無事と言う事を報告してほしかった。とか思ってるのでは?」
「ラザ先輩は読心術でも持っているのですか?」
「持ってませんよ。ただ分かりやすかっただけですよ」
「自分はそんなに分かりやすい、表情をしてましたか?」
「してましたよ。それでイゼベル先生。サラサ様に言う事は無いですか?」
「報告をしなくて悪かった・・・」
「次はちゃんと早く言ってください」
「はい・・・」
・・・何だこの雰囲気。立場が逆転してるぞ。
「んんっ。少し予定がズレたが。今日の授業を始めるぞ」
「予定ってありましたっけ?」
「さぁ?」
「オメェーら、叩き潰されたいのか?」
「「すみませんでした」」
今日から午後の授業が再開する。