第6話 召喚
3週間後。放課後図書室にて。
入学して3週間たった。その3週間でエリオットを尾行していたが、特に攻略対象と話そうとしてなかった。その攻略対象を高嶺の花として見ているから、声をかけようとはしてないんだろう。最も身分差があり過ぎるのも原因なのか、あるいはオレと友達になってないからか、攻略対象と会話が出来てないのか? 仮にそうならこれから起きるストーリーイベントと、学校生活を専念させてもらおうかな。丁度ストーリーイベントが4月29日に起きる。特に死者は出ない。が、オレが犯人に仕立て上げられる可能性がある・・・。
4月29日に起きるイベントは、エメリー様の下着が盗まれる事だ。盗んだ犯人はウチのクラスにいるが、名前と顔が思出せない。まぁその時なった時に考えよう。それにしてもゲームやっている時は何も思わなかったが、今思うと王族に対して盗みを働くとか。正気には思えない。よく処刑や終身刑にならなかったな・・・。でも学園からは去ったな。とにかく、オレが疑われないようにしないよな。
オレは少し身体を動かす。
―――そろそろ目の前の事を終わらせないとな・・・。
オレはチラッとある女性を一度見て、すぐに違う所を見る。
・・・バレてる? バレてるかな? バレてますね。そう言ってくださいよ。クリス様・・・! オレが一体何をしたって言うんですか・・・!?
オレを見ていたのはリトリ公爵家のご令嬢、クリス・アリー・リトリ様だ。
いやいやいや、本当に何ですか!? オレの心は一般庶民ですよ! それ以上見られると死んじゃいますよ!!
オレは頭を下げる。多分少しづつ顔が青くなる。
「キミ・・・、大丈夫・・・?」
オレは驚きながら声がした方を見る。
「は、はい・・・」
「いきなり声をかけてごめんね。ボクは2年生のクリス。クリス・アリー・リトリ。気軽にクリスって言ってね。キミがラザ、だよね?」
「はい。ラザ・メルト・カルバーンです・・・。それでオレに何か御用で?」
「うん、同じクラスのエメリーを知ってるよね?」
「はい」
「エメリーからね、凄い人がいるって聞いてね。キミは気配遮断が出来て、属性魔法の8つをすぐに使えたんでしょ」
「そうですね。でも気配遮断に関しては、もうバレていますね。いつから気付いていました?」
「キミが初めて図書室来た時からかな。あ、勿論ボクがいつもここにいるわけじゃないよ」
「えっ・・・。それって最初っから見つかっていたって事ですか?」
トーマスさんからお墨付きだったのに・・・。
「そうだね。最初はね、何でここでは使う必要がないのに、気配遮断を使っているんだろう。って思ってキミを見ていたんだよ。何か悪さをするんじゃないかってね」
「は、はぁ・・・」
「後々エメリーから聞いて分かったよ。キミは授業以外では気配遮断を使ってる事が。何で?」
「感覚を忘れないようにする事と、上達させる事ですよ」
「ふ~ん・・・」
あ、絶対にそれだけじゃない。って思われてる。
「―――おーい! クリスはいるかー!」
「――――――ッチ。メンドクサイの人が来た・・・」
何かトンデモナイ言葉を聞いてしまった。
「ごめんね。ちょっと友達が呼んでるから行くね。また明日」
「あ、はい。さようなら」
クリス様は呼ばれた人の元に行く。
・・・恥ずかしぃぃぃぃぃぃ。
オレは顔を赤くして両手で顔を隠す。
ゲームでも意外と綺麗だなー、って思っていたけど。近くで見ると凄く綺麗・・・。あんな事されると普通の人は勘違いするよ・・・。クリス様を呼び出した人には感謝するよ。落ち着くまでちょっと待ってよ。
それから落ち着くまでに1時間かけて、ようやく男子寮に戻れた。
4月29日。午後の授業中庭にて。
「よーしそろったな。今からオメェーらにある魔法陣が書いてある、紙を渡す」
「先生。質問いいでしょうか?」
「何だ?」
「何で私たちは練習着に着替える必要があったのですか?」
「答えは簡単だ。オメェーらには『使い魔』を召喚してもらう。使い魔は『精霊界』から召喚される。精霊界については後日話す。その精霊界から召喚した使い魔と契約して、その後は契約した使い魔と遊ぶために、練習着に着替えてもらった。分かったか?」
「分かりました」
「よし。早速渡すぞ」
イゼベル先生は1人1人に紙を渡していく。終わったら元に位置に戻る。
「召喚する時は魔力を流して『召喚』か『サモン』と言えば召喚される。召喚出来たら、そいつに名前を付ければ契約が出来る。やってみろ!」
イゼベル先生にそう言われ、各生徒たちは召喚を始める。
「何が出るか楽しみですね」
「そうだねー。アタシはこうなんと言うか・・・。そう! カッコいい使い魔を召喚したい!」
「アバウト過ぎじゃないですか? ラザさんは?」
「そうですね・・・。フクロウ辺り、ですかね」
「フクロウ? 何かカッコよくないよ」
「エディスはちょっと言い過ぎですよ」
「そうかなー」
ついに来た。ストーリーイベントとエリオットの上級精霊の召喚する日が。実は重なっているだよ、ストーリーイベントと召喚する日が。一応ゲーム通りなら、イゼベル先生に具合が悪いと言って保健室に行くが、保健室に行かないで女子更衣室でエメリー様の下着を盗む。一見オレは関係が無いように思えるが、オレは自己紹介の時に気配遮断が使えると言っていたから、一番最初に疑われる可能性がある。念のためアリバイを作るために、出来るだけイゼベル先生の傍にいようとしたけど・・・。何故かエメリー様とエディスさんと一緒にいる。そのせいか男子生徒から嫉妬の目が痛い。だが同時にアリバイが作れる。
「では、私からやりますね」
エメリー様が持っている紙は光出す。多分魔力を流すと魔方陣が光るのだろう。
「召喚!」
エメリー様がそう言うと、紙が盛大に光出す。すぐに光が収まり紙が消えていた。その代りに小さい竜が宙に浮いていた。
「ほぅ、クリスタルドラゴンの子供か。ドラゴンと言うだけで珍しいが、その中でも特に珍しいクリスタルドラゴンが召喚されるとはな。良かったな」
「はい!」
周りの生徒はエメリー様を見る。ある者は称賛しある者は嫉妬する。
「エメリー。この子に名前を付けたら?」
「名前。名前は・・・ミラワール、貴方の名前はミラワール!」
クリスタルドラゴンの子供は、名前を貰えて嬉しかったのか。エメリー様の周りを飛びまわる。
「よし次はアタシだ! 召喚!!」
エディスさんは気合を入れて召喚をする。紙が消えて出て来たのは狼だった。
「カッコいい!! えっとねー、君の名前は・・・、ミスベル!」
ミスベルと名前を付けられた狼は、エディスさんに近づいてじゃれつく。狼犬の間違いじゃないか?
「最後はラザの番だ―――」
「うおおおおおお! スッッッッゲェェェェェェェェ! エリオットの奴精霊を出しやがった!!」
「す、凄いですよ! 精霊を召喚するなんて!」
「凄いって・・・、俺はただ普通に召喚しただけだよ」
エリオットの周りに人が集まる。勿論イゼベル先生もそこに行く。
やっぱり召喚したか。これで攻略対象が全員揃った。この4人あるいは3人の中から誰を選ぶか、それとも誰とも選ばずにこのまま過ごすか。どっちにしろもう少し尾行する必要があるな・・・。
「――――――よしお前の名前はフランシスだ!」
「うむ、今日から妾の名前はフランシスだ」
名前も同じだな。そろそろオレも召喚するか。
紙に魔力を流し召喚の準備を始める。
「召喚・・・」
紙は光って消える。光が消えると水色の狐が出てくる。
・・・あれ狐? フクロウじゃなくて?
「・・・キュ~?」
水色の狐はオレを見て不安そうな顔をしている。
「あ、あぁそうか。名前を付けないと・・・。」
名前か・・・。ラザの時はどんな名前を付けていたんだっけ? そもそもラザの使い魔を見たのって、そんなに・・・。
オレはしゃがんで少し考える。2分くらいで名前が決まった。
「ペール。お前はペールだ」
「キュ!」
ペールは嬉しかったのか、オレに抱き着いてくる。
可愛い・・・。この狐可愛すぎる。今までこんな可愛い狐を見た事あった? いや無い。俺は一度も無い。
オレはそのままペールを撫でまわす。
「―――ラザ。お前がそんな顔をするとはな」
「!?!?」
オレはすぐに声がした方に顔を向ける。そこにいたのはイゼベル先生だった。
「お前は何処か、追い詰められているような顔をしているから。学園生活に不安があると思ったが・・・。その顔が出来るならわたしの杞憂だったな」
オレはそんなに追い詰められてる顔をしてたか?
「しかし。まさかそのデレデレの顔を見るとはな! その言う顔を好きな女の前でその顔をしろ」
「・・・・・・」
オレはペールを触るのをやめて、顔を両手で覆う。
「その状態で話しを聞け。お前が召喚したのは『アイスフォックス』だ。普通のフォックス自体珍しくはないが、アイスフォックスに関しては別だ。アイスフォックスは神出鬼没のお陰で、情報が少ない。いいかラザ。クリスタルドラゴンや精霊も貴重だが、お前のアイスフォックスも貴重だ。研究者や上級貴族共には気を付けろ。何かあったらすぐにわたしの所に来い。分かったか?」
「はいぃぃぃ・・・」
「情けない声を出すな・・・。まぁ無理もないか」
イゼベル先生は他の所に行く。そしてすぐに他の人が来る。
「いやーラザもそんな顔をするんだね~。ちょっと見せてみ」
「や、止めた方がいいのでは?」
「えぇ~何言ってのエメリーは~。さっきまで見て見たいって言っていたのに」
「エ、エディス! 余計な事を言わないでください!」
「アッハハハハ!」
2人が喋っている間に、オレは元通りになる。オレは顔を覆っている両手をどかす。
「ありゃりゃ。フツーに戻ってる」
「流石に普通に戻りますよ。それより召喚した使い魔を放置していいんですか?」
「「――――――ッハ!」」
2人はすぐに使い魔の所に行って、こっちに戻って来る。
わざわざこっちに来なくても・・・。ほとんどの人が召喚が終わったようだな。後は・・・。
オレはチラッとイゼベル先生の方を見る。見ると、イゼベル先生と具合が悪そうな生徒と話している。
あれは・・・。そろそろ始まるのか。