第44話 文化祭その3
午前中にメイクと女装して呼び込みをやる。昨日の予定と今日の予定は逆になっている。オレは一番最初の呼び込みなので、急いで校門の方に行く。
朝だからまだ人は少ないけど、それでも人はいるな。恥ずかしいけど、言うしかないよな・・・
「1年Cクラス、おかしな喫茶店営業してまーす! 面白そうと思ったら、一度来店してみてくださーい!」
オレがそう言うと、学生と一般の人が一斉にオレの方を見る。見ていた人たちがこっちに来る。
「1年Cクラスってエメリー様がいるクラスだよな。今いるのか?」
「エメリー様は現在休憩中です。午後になれば会えるかもしれませんね」
「午後か・・・。午後だな」
「おかしな喫茶店って何ですか?」
「言葉通りおかしな喫茶店です。来店すると答えを教えてもらいますよ」
声でもうバレてると思うけど。
「来店すると分かるんですね。行ってみます」
「おかしな喫茶店じゃなく、メイド喫茶店じゃないのか?」
「おかしな喫茶店に来店すると分かります」
「行ってみよ」
「もしかして女装メイド喫茶店?」
「おかしな喫茶店に来店すると分かります」
「気になるから行ってみよ~」
「ステーキとかって売ってる?」
「それは他の出し物に行ってください。当店は軽食を提供しています」
「ステーキも軽食だと思うがな・・・」
ステーキが軽食って可笑しいだろ。お前は今まで何の料理を食べてきたんだよ・・・。
色んな人に質問され、大体の人はオレのクラスに行くだろう。今頃ネタバラしを聞いて、驚いてるんだろう。
「・・・はぁ、疲れた。朝ってこんなに疲れるものなのか?」
「―――随分と質問されていたな」
後ろからロザリー様に話しかけられる。オレは後ろを振り向く。
「ロザリーお嬢様とエメリーお嬢様ですか。お陰様で少し疲れました」
「お、お嬢様・・・。本当に言っているんだな」
「エディスさんが言っていましたが。まさか本当に言ってるなんて。何か嫌な事でもありましたか?」
「今この姿が嫌な事なのですが。知っていて言ってますよね?」
「? 何のことでしょうか?」
「・・・それで何しに来たのでしょうか?」
「ラザさんの様子を見に来たんですが、特に心配は無いようですね」
「そのようだな。そのまま頑張ってくれ」
「ほどほどに頑張りますよ」
オレがそう言うと、2人は何か納得して別れを言って、そのまま他の所に行く。
そんなに心配するような事をしてたか? まぁ今回は襲われる可能性があるから、それで心配してきてくれたのか? 自分も襲われる危険があるのに、心配してくれるとは。2人は優しい人だな。
「あ~そこのメイドさん。ちといいか?」
「はいなんでしょうか?」
「さっきの人は第1王女と第2王女かね?」
「多分そうだと思いますよ」
「多分。多分ね~・・・。ところでメイドさん。そのおかしな喫茶店は、おっさんが行っても大丈夫かね?」
「大丈夫ですよ。暴力や罵声などしなければ、当店は老若男女問わず来店をお待ちしております」
「お、早速行ってみるかね」
おじさんは学園の方に向かう。
・・・・・・何でも屋を見つけてしまったな。まさにゲーム通りの人物だったな。あれでもまだマシな話し方だったな。後は午後に行く場所も同じかな。それまで呼び込みをやらないと。
オレは休憩時間が来るまで、呼び込みをやる。交代が来たら看板を渡して、オレは自分のクラスに一度戻る。自分の教室に着いたら、空いているドアから入らず『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙が貼ってある方に行って、ドアを開けて中に入る。中に入るとエリオットがいた。
「お疲れ様です」
「おぉお疲れラザ! 朝からいきなり客が入ってきたぜ。このままいくと、食材と飲み物が無くなりそうだ」
「そうですか。買出しには行っているのですか?」
「いや、追加の買い出しはしないって話だ。全ての食材と飲み物が無くなったら、閉店にするって話だぜ」
「閉店ですか。午後に来るお客さんが可愛そうですね」
「まぁしょうがないよな。なぁラザ、外で怪しいやつって見たか?」
「いえ見てませんが。あの人混みで怪しい格好していたら、目立つと思うので普通格好してると思いますよ」
「それもそっか。じゃあ俺は他クラスの店に行ってみるわ!」
「お気をつけて」
「おう!」
エリオットは男子更衣室から出る。オレはメイクを落として制服に着替える。
悪いなエリオット。本当は怪しい奴はいたけど、お前には言わない事にしたよ。ゲーム通りに行ってもいいが、万が一の事もある。何でも屋はオレが何とかさせてもらうぞ。
着替え終わったら男子更衣室から出て、オレはエリオットと初めて会った中庭に行く。中庭に着いたら気配遮断を使って物陰に隠れる。
いた。何でも屋のおじさん。ゲーム通りならここで時間を潰して、エリオットがここに来る。エリオットは上位精霊のフランシスの力を借りて戦うが、あと一歩のところで逃げられたな。――――――よし、戦うか。その前に。
戦う前に中庭から離れて、ペールを呼び出す。ペールに気配遮断を使うように言う。
夏休み中に気配遮断を教えていたから、使えるようになってきてるな。
「ペール。あの中庭にはお前を攫う悪い人間がいるんだ」
「クゥ!? クゥクゥ!」
「そう簡単にお前を攫われるような事はしないよ。オレは合図札って言うのを使ってから、あの悪い人間を足止めをする。あの中庭は出入口は1つしかない。普通なら出入口を塞げばいいのだが、それじゃあ駄目だ。違う方法で逃げられる。そこでオレが合図札を使ったら、ペールはすぐの悪い人間の後ろ側を氷魔法で、大きな氷の壁を作ってほしい。後は足止めをやるぞ」
「クゥ!」
オレは空間から合図札を出す。オレとペールは歩いて何でも屋の所に行く。近くまで近づいたら合図札に魔力を流して、合図札を破る。破られた合図札から赤い煙玉が出て空に上がる。それと同時にペールは氷魔法で、出入りの左壁から氷を出して何でも屋を囲み、氷は出入口の右壁まで凍る。
「・・・・・・どうなってるの? 赤い煙玉が出たと思ったら、氷壁に囲まれちゃったよ」
オレは気配遮断を解く。
「おじさんはここで何をしているんですか?」
「えっ、人? あぁいや、おっさんはちょ~っと休憩をしてたんだが。何でおっさんを囲うの?」
「ここは一般客の立ち入りは禁止になってますよ。オレの勝手な判断で氷魔法で囲いました。おじさんが一般客なのかを知りたいので」
「おっさんはただの一般客だよぉ。この氷の壁を壊してくれたら、今なら許すよ」
「そうしたいですが。おじさんの左手に何か持っているので、そう簡単には氷の壁は壊さないですよ」
「あれバレてるぅ? おっさんはそんなに分かりやすい?」
「分かりやすいですよ。で、おじさんは何者? 一般客じゃ無いですよね」
「ん~、おっさんの正体を知っても。な~にも良い事はないぞ」
「いやありますよ。おじさんの正体が分かれば、すぐに捕まえることが出来ますから」
「あぁ~捕まえるんだ。それはちょっと困るなぁ・・・。見逃してくれたりはしないかね?」
「無理ですね。早く正体を教えてくださいよ。話が進みませんよ」
「――――――ハァ・・・。まぁいいっか。おっさんは『何でも屋』何でも屋のルイス」
「あぁ知ってますよ。最近では歳に敵わないのか、仕事が減ってますよね?」
「知っている!? おっさんを知ってるのかね? しかも最近事情まで。まさかキミィ・・・、おっさんのファンかね?」
「あ、違いますよ」
「違うの? あっそう・・・」
おじさんは何か落ち込んでいるが、オレは氷魔法で両手にガントレットを作る。
「あれ? なんで戦おうとしてるの?」
「何でって、ここで足止めをするんですよ」
オレはすぐにおじさんの所に行き、右手で殴ろうとすると避けられる。
「いぃうごきをするねぇ~。まだ粗削りだがね」
「そうですか!」
そのまま追撃をしようとしたが、いきなり氷の壁が壊される。氷の壁が壊されたと思たら、今度は目の前にいたおじさんが、右側から殴られて吹っ飛んで行く。
「・・・・・・はい?」
「よぉラザ。よく足止めしたな。お陰ですぐに捕まえることが出来る。今のジジィが何でも屋か?」
左側にはイゼベル先生がいた。いくらなんでも来るのが早い。
「来るの早くないですか!?」
「あぁ? これくらい普通だろ。で、さっきのが何でも屋か」
「そうです・・・」
「よし、サッサと捕まえるか」
イゼベル先生は何でも屋のルイスの所に行き捕まえる。オレはイゼベル先生の所に行く。
「イゼベル先生、その道具は何ですか?」
「ただの魔法を封じるための魔道具だ。ほらお前は残りの学園祭を楽しめ。ここからは大人の仕事だ」
「あ、はい」
ペールは気配遮断を解いてこっちに来る。氷のガントレットを壊して、オレとペールは中庭から出て一度クラスに戻る。数時間後文化祭の終了の放送が入る。大部分は端折るが、1年Cクラスの出し物は全学年で2位。1位はロザリー様のクラス、2年Bクラスだった。