第39話 羨ましい
次の日の放課後。オレは別校舎に行って、普段使われてない教室に入る。
「来たか。そこの椅子に座るといい」
知らない人にそう言われ、オレは椅子に座る。
「先ずは初めまして。自分はベイフ。非公式のロザリー様ファンクラブの会長だ」
ついに出たな。いつかオレに何かしらの接触があると思ったが、ロザリー様がいない日に接触されるとはな・・・。
「周りに座っている人がいるが、それは気にしなくていい」
「そ、そうですか・・・」
「ラザ・メルト・カルバーン。貴様がここに呼び出された理由を知っているか?」
「ロザリー様の事ですよね。それとも他の理由があるんですか?」
「勿論ロザリー様の事だ。呼び出された理由を解っているなら、説明が省けるな。簡潔に言おう。我々ファンクラブは、貴様を殺したほど憎い」
教室にいる全生徒か殺意の目で見られる。
「そ、そう言われましても。オレがロザリー様に、近づいている訳ではないんですが」
「それは知っている。貴様からロザリー様の所に行っていないのは、常に調査済みだ」
調査? まさか運動会が終わってから、調査を始めたのか? 遅くないか?
「昨日まで貴様の行動を見ていたが。何故ロザリー様は貴様みたいなやつと、一緒にいる時間が長いんだ?」
「それはオレも知りたいです。本人は特に何も言ってこないんですよ」
「ほう。ロザリー様相手に緊張せず、普通に会話をするか。それはそれで羨ましいが、同時に許せんな・・・」
どうしろと? 一体オレにどうしろって言うんだ?
「そもそも我々の活動を知っているか?」
「いや知りませんよ。非公式のファンクラブの活動なんて、聞いた事ないですよ」
「ならば聴け。我々の活動はロザリー様を見守る事や、迷惑をかける奴の取り締まり。クラブ会員を増やすこと、そして何より大事なのは・・・。貶される事と虐げられる事だ!!」
「・・・・・・はい? 何か最後の所で「貶される事と虐げられる事だ」って聞こえたのですが。オレの幻聴ですか?」
「幻聴では無い。自分は確かに「貶される事と虐げられる事だ」っと言った」
「・・・そんなにロザリー様に、貶されたり虐げられたいのですか?」
「当然だ! ここにいる我々はそれが目的で集まっている! が、頼んだところでドン引きされて、白い目で見てくるだろう。それはそれで捨てがたいが・・・」
・・・ここにいる人たちは、ただのマゾヒストの集団だ。
「っと。我々の事は話した。次は貴様の番だ」
「オレの番って言われましても。何も話すことは無いですよ」
「我々は知っているぞ。貴様の実家にロザリー様が、遊びに行っていることを」
「何で知ってるんです!? そんな事一言も喋ってませんよ!」
「ふっ、先程言っただろ。我々はロザリー様を見守っていると」
「それって世間で言う「尾行」って言うのでは?」
「違う、断じて違う。それよりも早く言え。一体何をされた? ビンタか? 腹を殴られたか? 木剣でボコボコにされたのか?」
「何もされてませんよ! それにロザリー様以外にエメリー様たちもいましたよ!」
「知るか! どうせ人目がつかない所で、殴られたり蹴られたり罵声を貰っていたのだろ! 正直に答えろ!」
「だからそんな事をされてませんよ! 一体ロザリー様を何だと思ているんですか!?」
「女王様だ! 王女では無く女王―――」
急に喋るのを止めて考え始める。考えるのを止めて、オレを見る。
「まさか、まさか貴様の首の周りに、キスマークでは無く噛み跡が残ってるのか・・・? 貴様はもうロザリー様の物なのか・・・?」
「一体何があったらそんな風に妄想が出来るんですか!? ロザリー様がそんな事をすると思ってるんですか!」
「黙れ! そこのお前、すぐにラザの首周りを調べろ!!」
オレはすぐに動こうとしたら、身体が動かなかった。
「う、動けない!?」
「フフフフハハハ・・・。その椅子はな、ちょっと特殊な椅子でな。少しづつ貴様の身体に重力が増しすようになっている」
女性クラブ会員がオレの方に来て、ワイシャツを脱がされて、オレの首周りをじっくりと見て調べられる。
「会長。ラザの首周りは特に何もありません」
「何も無いのか? 噛み跡どころかキスマークも無いのか?」
「無いですね。仮にあったとしても、もう治っているでしょう」
「そうか・・・。元に戻せ」
女性クラブ会員に元に戻されて、女性クラブ会員は元の席に戻る。
「ッチ、運のいい奴め・・・。これでは始末が出来ないではないか・・・」
「始末って言ってますけど。学園でそんな事をしたら、退学だけではすみませんよ」
「安心しろ。名目上、貴様は自主退学にするからな」
そんな事が出来るのか!? そこまでの権力があるのか!?
「そ、そんな事をすれば。ロザリー様たちが捜索に出るかもしれませよ」
「そうかもな。その時は潔く自首をしよう」
「えっ、潔く自首するんですか? 捕まった後、最悪処刑されますよ」
「構わん!! その処刑を下すのがロザリー様なら、我々とっては本望だっ!!」
周りに座っているクラン会員は頷く。
「こ、怖い・・・。ここまで来ると、もう病気じゃないですか?」
「誰が病気だ! 我々は普通だ」
無自覚って怖い・・・。な、何とかしてここから出ないと。じゃないと永遠に話が続きそう・・・。
「あの、もう話は終わりですよね? 帰っていいですか?」
「まだ駄目だ。貴様を始末出来なければ、もう1つ方法がある・・・。ラザ・メルト・カルバーン。―――我々の同士にならないか?」
「――――――は? この話の流れで、なんでその言葉が出るんですか?」
「悪い話じゃないだろ。先ほども言ったが、貴様からロザリー様の所に行っていない。それは知っている。だが貴様が我々のファンクラブに入れば、ロザリー様と関わらないように手配をしよう」
「「手配をしよう」って言いますが。それほどの権力があるんですか?」
「この程度の事で権力は使わんよ。我々は貴様の友達として行動すれば、少なくともロザリー様は貴様に近づかないだろう。これは非公式のクリス様ファンクラブのやり方と同じだな」
そこまで調査してたのか。いや当たり前か。
「後は正当な理由を作って、ロザリー様を違う所に行かせるか。生徒会の仕事を正当な理由で増やせばいい」
「やり方が姑息なのですが」
「姑息の方がいいだろ。その他諸々の問題はこちらが修正をする。少し考える時間をやろう」
考える時間を貰っても、もう答えが出てるのだが。ここは考えるフリをするか。
オレは考えるフリをして、時間を潰す。
「もういいだろう。改めて聴くぞ。我々の同士ならないか?」
「お断りします」
「ほう。断る理由を教えてもらおうか」
「ファンクラブに入れば、ロザリー様と関わらないように手配をしてくれるのは。正直魅力的だと思います。そちらの方で全て手配をしてくれるので、こちらは何もせずいつも通りに生活が出来るでしょう。ですが。このファンクラブの実態がロザリー様にバレたら、絶対に白い目で見られる気がします・・・」
「何だそんな事か。特に問題はない」
「いやこっちに問題があるんですよ・・・。そう言うわけなので、オレはファンクラブに入りません。それと気になったのですが、ロザリー様にファンクラブの存在はバレてるので。もう公式のファンクラブでいいじゃないですか? 誰か会員かは、知られてないと思いますが」
「それは駄目だ。我々は非公式を貫く。流石にロザリー様以外の人からの貶されたり、虐げられるのは嫌だからな」
「あくまでもロザリー様だけですか。オレはもう帰っても?」
「あぁ・・・。今回は諦めるが、来年は覚悟しろよ」
え、来年もやるの!?
身体にかかっている重力が無くなり、オレは椅子から立って教室から出る。