第35話 見捨てる
「マルル先生! 後方にいる生徒たちから、ゴブリンの襲撃にあったとの報告がきました! 現在イゼベル先生が、しんがりを務めているようです」
「―――もうゴブリンたちがぼくたちに気付きましたか」
「マルル先生、すぐに加勢に行かせてください、今行けば間に合うかもしれません!」
「却下します。今ここでイゼベル先生の加勢に行けば、足手まといになるでしょう。それに貴女は王国の『第1王女』ここで貴女を亡き者にされる訳にはいけません。今は走って逃げる事に集中してください」
「――――――クソっ!」
さて思ったよりもゴブリンたち行動が早い・・・。これは『ゴブリンキング』か『ゴブリンクイーン』がいると考えてもいいでしょう。先回りされることも、考えないといけませんね・・・。ぼくたち先生方と2年生と3年生の騎士科と一部の冒険科の生徒は、まだ息切れをしてませんが。1年生の騎士科と一部の2年生の冒険科は、息切れを起こしている状態。かなり危険は状況になりましたね・・・。先に騎士団が来るといいのですが、まだ騎士団は来ないでしょう・・・。
「マルル先生! ロヴァン先生もゴブリンとの戦に入りました!」
「ロヴァン先生もですか!? ・・・構わず走ってください!」
「マルル先生。ロヴァン先生も見捨てるんですか!?」
「見捨てますよ。これは1人でも多くの生徒たちを、生きて帰す事です。ロザリーさん。ぼくもゴブリンと戦闘になったら、構わず見捨てて逃げてください」
「なっ・・・! そんな事出来ません!!」
「出来ませんではなく、出来ますと言いなさい。ぼくは授業で教えました「小を生かすより大を生かせと」それが今なんです」
「で、ですが・・・」
「貴女方生徒たちは『可能性』があります。その可能性をぼくたち先生たちに護らせてください」
「・・・・・・」
無理もないですね。ロザリーさんはまだ子供。何かを切り捨てるのはまだ出来ませんか・・・。ですがやってもらいます。騎士団のトップにもなれば、自ずと切り捨てる選択に迫ります。まだ早いですが、やってもらいますよ、ロザリーさん。
ぼくたちは走る。一度後ろを見て生徒を確認しては、前を向いて走る。すると右から殺気を感じ、すぐに鞘から剣を抜く。剣を抜いたのと同時にゴブリンが飛び出してきて、ぼくはそのゴブリンを斬る。
「逃げてください、ぼくに構わずに逃げてください! 指揮権はロザリーさんに譲渡します!」
「私に!? ・・・・・・っ! 生徒たちは私と一緒に逃げるぞ!」
・・・そうそれで良いです。例えぼくたちがここで死んでも。貴女方が生きて王都にさえ帰れれば、ぼくたちの勝ちです。
ロザリーさんたちが逃げるのを見て、ぼくは剣を構えてゴブリンたちを見る。
「随分と行儀よく待ってくれますね・・・。優勢の位置にいるから、せめての情けですか? あぁ答えなくて結構ですよ。どうせ言葉なんて通じませんからね」
一気にゴブリンたちの方に距離を詰めて、剣で斬り殺す。
あれでよかったのか? あのまま先生を見捨ててよかったのか? 今すぐ戻って加勢をすれば・・・。いや駄目だな、足手まといになるだけだ・・・。情けないな。私がもっと強ければ先生方と、一緒に戦う事が出来たな・・・。ここでうだうだ言ってる暇はない。今は少しでも早く王都に戻らなければ。
私たちは走り少しでも王都に近づく。
「ひ、左からゴブリンが来るぞ!」
「なっ、今私が―――」
私よりも先に動く生徒がいた。その生徒は飛び出してくる、ゴブリンを刺し殺す。
「――――――ハッ! ノロすぎるぜ!」
「スティース、あんまり無茶するなよ! こっちはビックリするだろ!」
「うるせぇー! ゴブリンが見えた途端、身体が勝手に動いたんだよ!」
「いやいやそれは無いだろ・・・」
「おいオメーら、止まってねぇでさっさと走れ。ここは俺らが足止めするからよぉ」
「何を勝手に言っている! 足止めなら私が」
「おいおいおいなに言ってるんだぁ? こんな所で王女様を捨て石には出来ねぇーだろ」
「そうですよ。大丈夫ですよ、何も最後までいるつもりはありません。頃合いを見て逃げ出しますよ」
「そう言う事ですよ。じゃあおれたちはここで足止めをするので、早く逃げてくださいよ」
「お前たち・・・。すまない・・・!」
私は他の生徒に指示を出して走り出す。
「さぁーて、無駄口を叩いていたら。随分とまぁ増えてきたじゃねぇか」
「・・・なぁこれってかなりヤバくないか? 今から逃げてもいいか?」
「駄目ですよ。一度決めたら最後で貫いてくださいよ」
「そう言う事だ。オメーら、気合いを入れろっ!!」
「「おう!!」」
俺たちはゴブリンどもに立ち向かう。
クソッ、また私は人を見捨てた・・・! 何て無様だ。私は民を護るため、家を護るために騎士科に入り学んできた。なのに未だ私は護られているだけではないか・・・。私が第1王女だからか。『第1王女』だからか!?
「報告! 左右からゴブリンを確認!」
「嘘だろ・・・・・・。一体どれだけのゴブリンがいるんだよ・・・」
「嫌だ・・・。まだ死にたくない・・・」
「・・・俺が足止めをします」
「「エリオット!?」」
「オイオイ何言ってるだよエリオット! お前1人で何が出来るんだよ!?」
「そうですよ。一緒に逃げましょうよ!」
「俺1人じゃないよ。俺にはフランがいる。そうだろフラン?」
「―――うむ。そうだ。主は1人では無い。上位精霊の妾がおるのだ。そう簡単には負けるはずがなかろう」
「そう言う事だ。俺はここで足止めをするわ!」
「「エ、エリオット・・・」」
「左からゴブリンが来ます!」
俺は鞘から剣を抜いて、飛び出してくるゴブリンを斬ろうとするが。風魔法でゴブリン腹から真っ二つにされる。
「フランか?」
「いや妾ではない。あの王族の小娘だろう」
「――――――聴け、これより私は足止めをする! 指揮権は・・・、そこのお前名は?」
「な、ナタル・二―・ペレクですわ・・・」
「ならナタル・二―・ペレクに指揮権に譲渡する。さぁ早く逃げろ!」
「お、お待ちを、ロザリー様がおやりになるのでしたら、わたくしがやりますわ!」
「駄目だ! これは王女の・・・、いや私の誇りだ! だからお前た―――」
左右からゴブリンが飛び出してくる。私は鞘から剣を抜き応戦しようとしたが、左のゴブリンは急に氷その場に落ちて、右のゴブリン頭は何かに当たり貫通して私を通り越して落ちる。
「―――あの。何かかっこよく言っている最中に、出しゃばってすみません・・・」
「「「「「ラザ!?」」」」」
「はいラザです。いきなり来てあれですが、早く逃げてください。足止めはオレがやります。あ、大丈夫ですよ。騎士団の方に手紙を渡しました」
「いやそうじゃない! 何故戻ってきた、何故王都で大人しく待っていなかった!?」
「あぁ~・・・、それを話すより周りのゴブリンを片付けませんか? 今は周りはペールが何とかしてもらってますが、ペールだけじゃ持たないですよ」
「ええい分かっている! 来い「アルマン」!」
ロザリー様はアルマンって言うライオンを呼び出す。呼び出されたアルマンはすぐにゴブリンを殺しに行く。オレもゴブリンを殺しに行く。
やっぱりライオンは強いな。ゴブリンの首を斬り裂いて、すぐに他のゴブリンを殺しに行くよ。
オレは左手の平から氷の粒を出して、ゴブリンを殺す。その途中でロザリー様が加勢に入り、一気にゴブリンを片付ける。
「―――終わりましたね。じゃあオレとペールはこのまま先に行きます」
「待て私も一緒に・・・!」
「ロザリー様は逃げている、生徒たちを護ってくださいよ。じゃ!」
オレとペールは先に行く。
「ちょっ・・・。は、速いな・・・。仕方がない、行くぞアルマン。生徒を護りに」
私はアルマンと一緒に、先に逃げている生徒たちの後を追う。