第19話 友達
7月上旬。早朝から第1アリーナで剣術の鍛錬をする。
とりあえず運動会が終わってから、ロザリー様の非公開のファンクラブからの、攻撃的な事は一度もなかった。多分証拠集めでもしてるんだろう。まぁそう簡単には証拠は出ないだろ。ほとんど生徒と話さないし、放課後は図書室にいるから証拠なんてないだろう。更に言うなら気配遮断を使っているから、オレの存在なってほぼ無い等しい。・・・自分で思っていて悲しくなってきたな。
木剣を振り回し、想像ではあるが対人あるいは魔物との戦いをする。
「―――こんなもんか」
鍛錬を止めて少し休憩を取る。
そろそろ夏休みが近づいてきたな。手紙を書いて迎えの馬車を用意してもらわないと。後はいつ家に行くかだよな~、あんまり遅いと色々文句言われそうだしな・・・。その前に期末試験があるけど。
「おいラザ!」
後ろから急に声をかけられる。オレは慌てて後ろを向く。
「な、何でしょうか。スティース先輩」
「オメ―今から俺の相手をしろ」
「あぁ・・・、はい」
オレは立ち上がり、少し下がって木剣を構える。スティース先輩は棒を構える。数秒経ったら模擬戦闘を始める。
ここ最近スティース先輩の印象が変わってきた。何と言うか面倒を見てくれる兄貴? みたいな人になってきてる。本当に最初にあった時より大分印象が変わる。
スティース先輩の攻撃を避けるあるいは防いで、こっちからも反撃をする。スティース先輩はそれらを全て避ける。これでは終わらないので、フェイントを仕掛ける。
「なっ!?」
木剣でそのまま攻撃をしてくると、思っていたのだろう。オレは木剣で攻撃をしないで左手を握り拳にして、そのままスティース先輩を殴る。スティース先輩は倒れた所で、オレは木剣で首元に突き付ける。
「オレの勝ちです」
「チィ、俺の負けだ。だが次はこうはいかねー」
「次があるといいですね」
「あぁ? あるに決まってるだろ」
「そうですか」
オレは地面に座り少し休憩に入る。
「・・・なぁラザ。オメ―学園暮らしは楽しいか?」
「学園暮らしですか? まぁ楽しいですよ。図書室で本を読んでいるだけでも、楽しいですよ」
「ッケ、まるでモヤシみてぇだな」
「モヤシって・・・。言い方酷くないですか?」
「酷くねぇーよ」
「・・・何でそんなこと聞くんですか?」
「オメー教室では1人だろ」
「はい」
「それが心配なだけだ」
「そうですか。・・・はい? 心配?」
「っんだよ! 俺が心配しちゃいけねぇのかよっ!?」
「いえ先輩の口から「心配」って言う、言葉出るとは思いませんでしたよ」
「はぁ!? いくら俺でもそれくれぇ出るわ!」
「そうなんですか。実は先輩は優しい人なんじゃないですか?」
「オメーなにキモチワリィこと言ってるんだ。俺がいつ優しいことをしたんだ?」
「例えばポーションを作ってる時に、分からないところがあったら教えてくれるし、魔物の解体のしかたも教えてくれるし、前なんてホーンラビットから助けようとしてくれたり。まだ他にありますよ」
「お、おう・・・」
スティース先輩は顔を隠しているが、耳が赤くなっているのが分かる。多分言われて初めて気づいたんだろう。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・あぁ」
どう見ても大丈夫じゃない。
「―――っ話が変わるがよー。イゼベル先生は、俺の事なんて言ってた?」
「あんまり言ってなかったんですが。3年で辺境伯でクラスのカーストトップって言ってましたね。何となくですが、辺境伯って言う地位を振りかざして、色んな悪い事をしている。とかですね」
「あぁ~そんな風に思われてたか・・・。別に俺はそんな気はねぇーんだがよー・・・」
「まぁ初対面でいきなり三下の真似事をして、相手が格下だと分かって急に態度を変えて、しかも爵位で相手を脅しをする時点で、悪い奴って思われますよね」
「しょうがねぇーだろ! これをやれば友達が出来るって、言われたからやったんだっ!」
「ハイ? 友達ですか?」
「あ゛っ」
スティース先輩はまた顔を隠す。今度はやっちまったって感じがする。
「―――あぁそうだよ! 俺はただ友達がほしかっただけだ! 文句あるか!?」
「いえ全然全く文句は無いですが」
「! お、おう、そうかよ・・・」
「「・・・・・・・」」
なにこれ気まずい・・・。まさかスティース先輩があんなことを言う何て、誰が予想できた? いや誰も予想は出来ない。何か先輩も気まずそうにしてるし。ここは話かけるべきか。
「あの、スティース先輩」
「・・・あ、あぁ何だ?」
「友達がほしいって言ってましたが、いつもスティース先輩に集まっている2人は、友達じゃないんですか?」
「アイツらは・・・、アイツらは俺の事は友達と思ってねぇーよ・・・。ただ俺のご機嫌取りみたいな感じで、俺の周りにいるだけだ」
「スティース先輩はそうかしれませんが、他の先輩方は違うかもしれませんよ」
「んな訳んねぇだろ。仮にそうなら、一体どんな生活をしたら俺みてぇーな奴と、友達になりたいと思うんだよ」
「さぁ? 何かしらスティース先輩に、惹かれるからじゃないですか?」
「惹かれるって、俺の何処に惹かれるんだよ?」
「そんなの知りませんよ。気になるなら本人たちに聞けばいいじゃないですか」
「なっ、ばばばばばばかじゃねぇの!? っんなこと聞けるかよ!!」
ヤンキー女子か。ヤンキー女子が男子に惚れたときのヤンキー女子か。
「でもいいんですか? このままよく分かんない関係のままで、卒業することになりますよ」
「んな事は分かってんだよ・・・。ただ今更聞くのはなぁー・・・」
「何も知らないで後悔するより、知って後悔した方がいいんじゃないですか?」
「オメー他人事だと思って言ってるんだろ?」
「思って言ってますが」
「・・・テメーふざけて言ってるのか?」
「真面目に言ってますが」
「・・・そうかよ」
スティース先輩は考え始める。
「―――俺、アイツらに聞いてみるわ」
「そうですか。良い結果出るといいですね」
「あぁ・・・。ってヤバ! そろそろホームルームが始まるぞ!」
「! 急いで行きましょう!」
オレとスティース先輩は立ち上がって急いで、更衣室に行って着替えてすぐに教室に向かう。
「スティース先輩! 浄化魔法で綺麗します、すぐに終わります!」
「ワリィ助かる!」
走りながら浄化魔法でスティース先輩を綺麗にする。
「じゃあなっ!」
「はい! また午後の授業で!」
別れてオレはすぐに教室に向かって、着いたら中に入る。
「ま、間に合った・・・」
オレは浄化魔法で身体を綺麗にする。そのまま自分の席に座る。
「どうしたのラザ? そんなに慌てて教室に入ってきて?」
「遅刻しそうになったので、走って教室に入ったんですよ」
「遅刻しそうになったって・・・、まだ10分の余裕があるけど。今までラザは何処にいたの?」
「第1アリーナですが」
「第1アリーナなら、すぐに教室に来れますよ」
「えっ、マジで?」
「マジだよ」
スティース先輩は時間を読み間違えたか? まぁ遅刻しなかったからいいけど。
時間が経ちイゼベル先生が教室に入ってきて、朝のホームルームが始まる。
昼休み。昼ご飯を食べ終わり、オレは別校舎の教室に行く。着いたら教室に入る。
わぁ! スティース先輩がいる場所に、生徒たちが群がってる!? 一体何があった?
オレは気になりながらも、自分の席に着く。
「オメーは何普通に自分の席に座ってるんだよ!?」
スティース先輩がこっちに来た。
「えっ? 駄目でしたか?」
「ダメじゃねぇけど空気読めよっ!!」
「空気読んで、邪魔しちゃいけないと思いましたが」
「コイツ・・・。まぁいいや。今朝はその・・・ありがとな」
「あぁ成功したんですか。ここまで成功するとは思ってなかったのですが」
「俺もだ」
「いいじゃないか! 卒業する前に友達が出来て。1人寂しく卒業するより仲良く卒業した方が、良いに決まってるだろ!」
「お、おう・・・」
「スティースが卒業する前で良かったですよ。ラザさんには感謝しますよ」
「いえ。オレは話を聞いていただけですよ」
「その結果。ワタシたちはちゃんとスティースと、話し合う事が出来たんですよ」
「そうですか」
スティース先輩はちゃんと友達が出来たんだ。これはオレがエリオットと友達にならずに、騎士科を選択せずに冒険科を選んだ結果、かな。これはこれでアリなんだろうな。
「随分と賑やかだが、そろそろ授業が始まる時間だ。サッサと席に着け」
いつの間にかイゼベル先生が来ていた。生徒たちは席に座る。
「授業を始める前に先に話しておく。夏休み中に『合宿』を行う」
合宿と聞いた瞬間にオレ含め皆驚く。
「驚くのは無理もない。今まで冒険科は合宿をするような事は無かったからな。だが今年からは合宿を行っていく。冒険家の生徒は数が少ないから、1年の騎士科と合同で合宿を行う」
「先生。何故急に合宿を行うですか?」
「言ってしまえば『野営』の訓練だ。これまで授業では野営の準備をしてきたが、実際に野営をしたことはないだろ。それの訓練とホーンラビットではなく、他魔物を殺してもらう。その他もろもろあるが解ったか?」
「解りました」
「実施日は8月の1日から8月の7日の1週間だ。集合時間と集合場所は、朝の6時場所は校門集合だ。詳しくは授業の終わりにプリントを配るから、それで確認しろ」
「「「「「はい」」」」」
「よし。なら授業を始める」
合宿の説明が終わり、授業が始まる。