IF78話 一部を除いて
12月27日冬休み。オレとプリシラは王都にある馬車乗り場に行く。
「まさか温泉に行くとは思わなかった。しかも温泉があるとは思わなかった」
「温泉か。主の記憶にも出て来ていたな。行った事は無いようだが」
「場所によっては遠いからな。それに行こうとは思わなかったからな」
「興味が無かったのだな。なら今回は初って訳だな」
「そうだな。・・・浴衣ってあるのかな?」
「さぁな。あるなら着てみたいものだが、問題は胸だな」
「大きい人によっては、胸がキツイみたいだな」
「何とかなるだろ。先にエディスがおるようだな」
「ラザー、プリシラさーん! こっちこっち!」
エディスさんは手を振っている。オレとプリシラはエディスさんの所に行く。
「おはよー。意外と来るの早かったね」
「この辺はあんまり来ないので、少し早く寮から出て来ましたが。特に迷わず来れましたね」
「迷う事は無かろう。エディスの魔力を感じ取れば、迷う事は無い」
「アタシはいつから目印なったんだろ? まぁいいや。後はエメリーたちだけだね」
「そうですね。マルル先生にバレなければいいですが・・・」
「大丈夫でしょ。わざわざここ集合にしたし、イゼベル先生は家からここまで来るし。そう簡単にはバレないよ」
「バレそうになれば魔法で姿を隠せばよい。これならバレんだろ」
「バレないな。プリシラの魔法が簡単に消されないよな。ところで。馬車で移動するって事は、かなり遠いんですか?」
「遠いって言えば遠いね。歩きで行くと確実に1日じゃ足りないね」
「そんな遠い所に温泉宿があるんですか。馬車で行っても時間がかかるのでは?」
「今回乗る馬車は、普通の馬車とは違うよ。普通の馬とは違って、速い馬が馬車を曳くからね」
「早馬か。野営をしなくて済むようだな」
「そんな事になったら大変だよ。野営の経験無いよアタシ」
「大丈夫ですよ。すぐに慣れますから」
「何かやる流れになってない!?」
「だが一度は経験をしないと、この先大変だろ。エディスは商人になって、他の街に移動する事もあるだろ。一度も野営をしたこと無いって言うのは、ちと恥なのではないのか?」
「うっ・・・。そこまで言われると、ちょっと野営をした方が良いかな」
「今度やってみるといいですよ」
「そうだね。今度エメリーたちとやってみよ」
王族を野営の練習に誘うのか? ・・・ロザリー様やサラサ様も野営をしたな。
「あ、エメリー様たちが来ましたよ」
「本当だ。こっちこっち!」
エディスさんは手を振る。それを見たエメリー様たちはこっちに来る。
「お待たせしました」
「少し準備に時間がかかりました」
「昨日の内に済ませておけっと、わたしは言ったはずだが」
「はい。すみませんでした・・・」
「時間はまだあるので大丈夫ですよ」
「何だまだあったのか。てっきりギリギリだと思ったが」
「まだ余裕あったよ。じゃあ馬車に乗ろうか」
オレたちは一度御者の所に行って、人数確認と本人確認をする。それが終われば幌馬車に乗る。なおプリシラだけは、少しでもお金の節約のために、精霊界に帰ってもらっている。少ししたら幌馬車が動き出す。
「後はこのまま何事も無ければ、夕方にはフウオ街に着くよ。そのフウオ街に予約した温泉宿があるよ」
「気になったんですか。どうやって予約したんですか?」
「予約屋って言う店があってね。その店で予約したい店を選んで、紙に書くんだよ。書き終わったら、魔道具に置いて予約する店の方に転移されるよ。後は返答が来るまで待機だね。店以外にも船や飛行船の予約も出来るよ」
『―――便利なものだな』
オレは急にプリシラ声が聞こえて驚く。
「どうした?」
「きゅ、急にプリシラの声が聞こえたので。驚いてるだけです」
「いないのに聞こえるんだ。でもどうやって?」
「さ、さぁ・・・?」
『念話だ。念話を使えば何処でも話が出来る』
「念話だそうです」
「念話か。あんまり使われてねぇ魔法だな。だが何故使わないのが不思議だな」
「全員が全員使えばどっかしらで、知らない人の会話が聞けるからなのでは?」
「なるほど。その危険性があるか。だがほぼそんな事ねぇだろ」
「それでもですよ。ラザ先輩。自分たちの会話は、どうやってプリシラさんに聞こえてるのでしょうか?」
『主の周りを見れるように、魔法を使っておる』
「オレの周りを見るために、魔法を使ってるようですよ」
「魔法で見る事が出来るんですね。でもそんな事をしてたら、他の精霊とかに見られませんか?」
『・・・・・・』
「プリシラが急に沈黙しました。見られるようですね」
「他の精霊に見られたら、大変な事にならない?」
「大丈夫だと思いますよ。見られたからと言って一部を除いて干渉してくると事は、ないでの大丈夫だと思いますよ」
「その一部が干渉してきたらどうするの?」
「知りません。目の前にいる訳では無いので、放置します」
「自分は放置するほど度胸はありません・・・」
『これ勝手に覗くではない。其方に見せる必要は無いだろ! なに一度妾の主が見たい? 其方に見せる必要は無い! 分かったらはよ何処かに―――』
「・・・・・・念話が切れました」
「何かあったんだろうな。まぁ大丈夫だろ」
「そうですね」