IF50話 禍々しい
「あ~、あれはゴーレムだよな。誰がどう見てもゴーレムだよなぁ~」
「どうしましょうか団長。大きさから見て5メートル以上はあります」
「アレをどうやって戦えって言うんだよ・・・」
「あれだけデカければ、動きが遅いか?」
「だが大きくても動きが早い魔物はいるだろ。あのゴーレムもその類かもしれん」
「打撃系の武器はあるけど、小さいからあんまり威力は出ないわね」
「こっちもゴーレムがいればいいけど、いないからなぁ・・・」
「最悪の場合。精霊様の力を借りられるか?」
「ラザ様が許可したら、動いてくれるだろうけど。そのラザ様が・・・」
「いや話しには聞いてるけど。長男と次男よりかなり優しいから、きっと大丈夫だと思うけど。そうじゃなかったら。昨日の晩飯とか作ってくれなかっただろ」
「だけど騎士としてそれはいいのか? 先ず我々だけで戦った方がいいだろ」
騎士たちが話をしている間、プリシラは寄生種で魔物を下僕に変えていく。
「さて主よ。あのゴーレムはどう見てもデカい。かるく10メートルだろう」
「デカすぎるだろ。何かのロボットかよ・・・。で。あのゴーレムはどうやって戦うんだ?」
「一般的には数で戦うのが良いだろう。不意打ちをして一撃離脱の戦法や、大規模な魔法を使うとか。あるいはこちらもゴーレムを出す」
「でもそのゴーレムはいませんよ。いても流石に寄生は出来ませんよねぇ?」
「無理だな。アイツは基本的に鉱石や土で出来ている。ウッドゴーレムも無理だな。アレはどうやってもウッドゴーレムに持っていかれる」
「じゃあどうするんですか?」
「なに簡単だ。今ここに寄生させた下僕共がいる。それを木の根っこでくっ付けて、ゴーレムにする」
「出来るのかそれ?」
「出来るとも。早速やるぞ」
プリシラは寄生している魔物に命令して、魔物の身体から出ている木の根っこが、他の魔物の身体から出ている根っこと結合する。結合を繰り返し大きくなり。大きさは出入口にいるゴーレムと同じ大きさになる。
「デカい・・・。迫力があるな」
「こんなもんだろ。ほれ他の奴らをどけさせろ。あのゴーレムより、妾のゴーレムの方が強いと。見せつけてやろう」
オレとヴィクトさんは、すぐに騎士たちにどくように言う。騎士たちはどいてオレたちもどく。道が開けてプリシラのゴーレムが移動する。
「団長。自分は初めて見ました。あんな禍々しいゴーレムを」
「僕も初めて見た。何かこっちが悪みたいだな・・・」
オレも何かそう思う。
「名づけるなら、ウッドキメラゴーレム。だな」
「嫌な名前だな・・・。アレで勝てるのか?」
「勝てるだろ」
オレたちは戦いが見れる所に移動する。ウッドキメラゴーレムは魔物のゴーレムまで近づき、戦いが始まる。先ずは魔物のゴーレムが攻撃をするかと思ったら、右手が剣に変わった。
「あちゃ~、可変ゴーレムですかぁ~」
「可変・・・。つまり色々と形を変える事が出来る、ゴーレムですか。これはヤバいな・・・」
可変ゴーレムは右手でウッドキメラゴーレムに攻撃をする。ウッドキメラゴーレムは左手で、攻撃を受け止める。ウッドキメラゴーレムの左手は、攻撃を受け止める前に分厚くしてたから、最後まで斬られなかった。
「凄いな。あのまま剣を取り込めたり出来ないのか?」
「無理だな。形を変えられるんだ。すぐに違う形にして、抜け出すだろ」
可変ゴーレムは剣の状態から違うものに変える。
「あっ! あの形はチェーンソー!? 皆さん耳を塞いで口を開けてください!」
「その必要は無い。防音結界を張る」
プリシラは防音結界を張る。チェーンソーが回転したのか可変ゴーレムの右腕は、ウッドキメラゴーレムの左手から離れている。
「あ、あの野郎。木を切るなら、チェーンソーが一番って言うのが分かっていたのか・・・。ズルいだろ!」
「何故そのような知識を・・・。さてはあのたちの悪い神の仕業か・・・」
「あのぉラザさま。そのちぇーんそーって言うのは、何ですか?」
「木を切るための道具ですよ。音はうるさいですが、楽に木を切れますよ。使った事は無いですが」
「そうなんですか」
可変ゴーレムは左手もチェーンソーに変えて、ウッドキメラゴーレムに襲い掛かる。ウッドキメラゴーレムは左手を治してから伸ばし、可変ゴーレムのチェーンソーになって無い部分を殴り、隙を作って可変ゴーレムを強く殴る。可変ゴーレムよろけて後ろに下がる。そこから殴り合いが始まる。
「迫力が凄い。アニメや映画で見るよりも凄い」
「嬉しいのは分かるが、気を引き締めておけよ」
「分かってるよ」
ウッドキメラゴーレムは右手をハンマーにして、可変ゴーレムに殴りかかる。可変ゴーレムは左手を盾に変えて、ハンマーを防ぐが、ハンマーの方が威力があって盾が壊れる。ウッドキメラゴーレムは左手を伸ばし、可変ゴーレムを殴り完全に地面に倒れさせる。
「・・・これ出入口は大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。あれでも出入口から離れておる。それに出入口もそう簡単には壊れんだろ」
「だといいんだが。・・・何か馬乗りになって一方的に殴ってるな。しかも動かさないように、木の根っこで可変ゴーレムの全身を封じてるな」
ウッドキメラゴーレムは馬乗りしながら、可変ゴーレムを殴り続ける。可変ゴーレムは何かに変形させたいのだろうが、木の根っこが強く締め付けられているから、変形が出来ない状態だった。
「決着がついたな。あれでは逃げられんだろ」
「いや変形出来るんだろ。あのゴーレムは核があるかは知らないけど、あるならその周りだけ囲んで逃げるだろ」
「ゴーレム系は基本的には核が無いですよ。ただ人為的に造るなら、必要になりますけど」
「じゃああれで終わりか」
ウッドキメラゴーレムは両手を上に上げて、大きなハンマーにする。そのハンマーを勢いよく振り下ろし、可変ゴーレムに叩きつける。ハンマーが可変ゴーレムに当たった衝撃が、オレたちがいる所まで来た。
「妾のゴーレムが勝ったな。では行くぞ」
騎士団は先に進み、オレたちはその後に付いて行く。ウッドキメラゴーレムは役目が終わったのか、ゴーレムから個別の魔物に戻っている。可変ゴーレムから何か素材が出てないかを見る。
「黒くて線が入った鉱石だ。可変鉱石か」
「消える前に全部取っちゃって。後で分配するから」
「分かりました」
グレイル団長の指示で可変鉱石を回収する。
「ところでプリシラ。あの魔物たちはどうする気だ?」
「ふむ・・・。このまま殺めても良いが。今回は良い働きをしたから、ここから離れて寄生を外してやろう」
プリシラは寄生した魔物に命令をして、森の方に行く。完全に寄生が無くなった事が分かったら、ダンジョンから出る。家に戻って一度第9の宿舎に行く。
「何か凄く久しぶりの地上って感じがする。そんなに長くいたわけじゃ無いの」
「そんなもんですよぉ~」
「なぁプリシラ。寄生されていた魔物たちの身体は、どうなったんだ?」
「アタシも気になります」
「木の根っこが栄養になって、すぐに身体を治す。ついでに記憶も消される」
「凄いな。いつかオレも使えるのか?」
「使えるとも。あのゴーレムが気に入ったのか?」
「ゴーレム同士の戦いが気に入った。ってところかな」
「そうか」
「―――あぁラザ様。素材の分配だけどね。ラザ様の空間の中に入って素材は、全部そちらに譲るよ」
「全部ですか!? でもそちらの利益が・・・」
「良いんだよ。別に少なくても問題ないからね。それに今回はかなり危険だったからね。ラザ様たちがいなかったら、僕たちは帰って来れなかったよ」
「そ、そうですか・・・。分かりました。ありがたくいただきます」
「そうしてくれ。んじゃこっちは報告書とか書くから」
オレとヴィクトさんはお辞儀をして部屋から出る。家に戻るとネルディアさんがいた。
「ラァァァザ様! 何か鉱石出ましたかぁ!?」
「休ませてはくれんのか?」
「休むことなんて後で出るじゃ無いですか! 鉱石関しては今じゃ無いと聞けないんですよ!」
「それも後で聞けますよね。まぁ良いですけど」
オレは喋るより先に、空間から鉄鉱石を出す。
「やっぱり鉄鉱石が最初ですか。他は?」
鉄鉱石をプリシラに持たせて、オレは可変鉱石出す。
「可変鉱石ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? マジですか!?」
「マジですよ。まさか出るとは思いませんでしたよ」
「ください! いくら払えば譲ってくれますか?」
「えっ、譲る気は無いですよ」
「譲る気、ない? え、ウソですよね?」
「嘘じゃ無いですよ。これは明日ドワーフの方々に渡して、武器を作ってもらいますよ」
「ドワーフに・・・? 渡しちゃダメですよ! 渡したら厭らしい事をしますよ! この鉱石が、あんな事やこんな事になるんですよ!」
「一体どんな考えをしたらそんな事になるんですか!? そんな事をするのは貴女だけじゃないんですか!?」
「ワタシはそんな事しませんよ! ちゃんと綺麗に飾って崇めるだけですよ。そこらの鍛冶師と一緒にしないでください」
「やっぱりこの人、変人ですねぇ~」
「そう言う訳なのでください」
「あげません」
「分かりました・・・。では譲ってくれたら、一生この身体を好きにしても構いません」
「お前目の前で鉱石を粉々にしてやろうか? それともお前だけクビになるか? どっちがいい?」
「わ、敬語無しのガチギレだ・・・」
「調子に乗りました・・・。すみませんでした・・・」
「分かればいいんですよ。では部屋に戻るので、失礼します」
「あ。明日鉄鉱石は買わせてください」
「分かりました」
プリシラから鉄鉱石を回収して、オレたちはネルディアさんを置いて、部屋に戻る。