第12話 ファンクラブ
5月の下旬。放課後の図書室にて。
あぁここがこうなっているのか・・・。で、ここからここまでナイフで切って・・・。
オレはいま魔物の解体書を見ながら、解体書に乗っている内容を他の本に書き写している。
白紙のノートじゃなく白紙の本が売っていて良かった。これで図書室に置いてある解体書を書き写すことが出来る。普通に買えよって話だが、魔物の解体書って中々売ってない。くまなく探した訳じゃないけど、自分が確認できる範囲では図書室に置いてある、この本だけだった。借りて部屋で書き写したいけど、ここの図書室って借りるのは禁止だからな・・・。だからこの3年間でこの本の内容を全部書き写す。大変だけど・・・。
オレは一旦休憩して、太ももの上にいるペールの頭を撫でる。
学園内なら何処でも自由に呼び出せるから、図書室で呼び出しても怒られない。呼び出す使い魔によっては出入り禁止される所もあるけど。それにしてもよく寝てる・・・。ウチのアイスフォックスは夜行性のようだな。
5月から科目別授業が始まった。この科目別授業は曜日によって、授業がある日と無い日がある。理由は1年生から3年生まで教える内容が違うのと、科目によっては人が多いからである。人が少ない所では1年と2年の合同で授業をやったりする。オレがいる冒険科は1年から3年まで合同だけどな。そのおかげで1年から3年まで同じ内容をやる事になる。基本的には魔物を殺したり解体したり、簡単な調理やテントの張り方やお金の計算など。冒険者として必要な事を憶える事が出来る。後は対人戦もやる。理由は盗賊や犯罪者と戦う可能性があるからだ。そう言う理由もあり対人戦をやっている。今は冒険科の生徒とイゼベル先生で対人戦をやっている。生徒同士ならいいが、イゼベル先生が強すぎる・・・。イゼベル先生は元冒険者で実力もある。そんな人と相手をしていたら、嫌でも自分が弱いってハッキリさせられる・・・。
ここってギャルゲーの世界だよな? ギャルゲー要素何処いったんだ? ま、まぁ主人公はエリオットだから、サポートキャラのラザは恋愛要素は必要ないよな。仮にあってもオレには無理。だって貴族と付き合うとか死ぬほど怖い・・・。こっちは日本で生まれて平凡の生活してたんだぞ。それが死んでラザに転生して、貴族生活しろって? 無理だ。オレには出来ない。でも運が良くオレは三男だから条件付きで、家督を引き継がなくてもいい。ジョナス兄さんが何かしらやらかしなければ、確定で家督を引き継ぐけど。兄たちがいて良かった・・・。兄たちの顔は分からないけど。
「クゥゥゥ~・・・」
ペールが起きる。起きてオレの首の後ろまで行って、マフラーを撒くような感じで座る。座った後はある場所を見て威嚇する。オレはペールが威嚇する場所を見る。そこには椅子に座っているのは、クリス様とロザリー様だ。
ここのところずっとクリス様はオレを見ているな・・・。これはちょっとまずい。今流れている噂が中々収まらないから、クリス様の攻略ルートを出来る限り思い出してみたが・・・。何とオレは少しクリス様の攻略ルートに入っている。本来はこれはエリオットがやるはずだったが。エリオットはクリス様と話すどころか、まず図書室に来ないから。変わりがオレなんだろうな。なおヒントはあった。それは噂だ。オレとクリス様が仲が良いとか、実は婚約者じゃないかって噂が流れている。この時に気付けばよかった。早かった場合すぐに図書室に行くのをやめて、エメリー様に噂は違うと言うべきだった・・・。対応が遅かった結果、今はオレとクリス様は『結婚を前提に付き合っている』っと言う噂が流れている・・・。
「何でこうなったんだ・・・」
「クゥ?」
ペールはよく分かってないが、落ち込んでいる事はだけは分かるようで、オレの右ほっぺにペールの顔をこすり付けてくる。オレは右手でペールの頭を撫でる。
「おい。お前ラザだろ?」
左隣りに座っている人から声をかけられる。
「そうですが」
「お前に聞くけど、あのクリス様と『結婚を前提に付き合っている』いるのは本当か?」
「真っ赤な嘘です。オレは子爵家の三男なので、公爵家と関わるような身分ではないですよ」
「嘘、本当に嘘なんだ?」
「そうですよ。今流れている噂は嘘ですよ。早くその噂を消したいものですよ」
今更本人が否定しても効果が薄いと分かってるから、図書室にいても周りに人がいる所に座っている。これをすれば少しは効果があると思いたい。
「その噂を消すには、かなりの時間がかかると思うわ」
今度は右隣りに座っている人が話しかけてくる。
「貴方が子爵って言う事もあるけど、この噂は色々尾びれがついてるから、この噂を消そうにも時間がかかるのよ。でもクリス様のファンクラブ会員全員は、この噂は嘘だと解っているわ」
「ならファンクラブの皆様方が、その噂を消せないんですが?」
「無理よ。非公式のファンクラブだから生徒数も少ないのよ。それにファンクラブ如きじゃ効果が薄いのよ・・・」
「・・・あの何でそこまで知ってるんですか?」
「それはおれとアイツがファンクラブの一員だから」
「・・・・・・そうだったんですね」
「せめての抵抗でお前が図書室にいる時は、お前が座っている場所から、両側と前方斜め左右の席を、我々ファンクラブが座っているんだ」
「オレの周りに座っていたのは、ファンクラブの皆様だったんですか!?」
「そうだ」
「何か・・・その・・・。ありがとうございます」
「「「「「いえいえ」」」」」
「ただこれだけだと噂が消えないのよね~・・・」
「こうなったら一か八かクリス様にお願いして、この噂を断たせてもらうしか・・・」
「お前は馬鹿か!? そんなのやってくれるわけ―――」
「いいよ」
「「「「「「えっ?」」」」」」
急に声をかけられる。声がした方を見ると、クリス様とロザリー様がいた。
「やあラザ。息災だった?」
「は、はい・・・」
「オイクリス。コイツ顔を青ざめているが、何をした?」
「いやボクは何もしてないけど・・・。それで少し話を聞いていたけど、ボクとラザの噂だよね?」
「そ、そうです。最初の噂はまだよかったんですが、気が付いたらどんどん噂に尾びれがついて・・・」
「お互い迷惑な噂だよね。ボクとラザが仲が良いまではいいけど、流石に結婚を前提に付き合っているっていうのは・・・」
「あの、別に仲が良い訳じゃ無いですよ」
「えっ? 仲いいよね」
「いえ全く」
「・・・仲いいよね?」
ひっ!? 何か殺気が出てる・・・。何でこの人殺気とか出せるわけ? 少なくとも先生方なら分かるけど、学生だよ。学生が普通に殺気を出してるよ・・・。
「は、はいぃぃぃ・・・」
「よし」
「クリス。私は脅しはよくないと思うが」
「キミに言われたくないよ。何回もその怖い目で脅してたでしょ」
「あれはいじめが原因で説教をしていただけだろ!!」
「お2人さん、図書室では静かに・・・」
「「あっ・・・はい・・・」」
「―――えっと。とにかくボクとラザの噂は、デマだって事を言えばいいんでしょ。それなら協力するよ。っと言うよりボクが言えば解決するかな」
「そうですね。オレが言って回るより、クリス様が行った方が効果はあると思います」
「様付けなんだ・・・。まぁいいや。じゃあ今から言って回るから」
「私も行こう。私も言えば効果はあるだろ」
「お願いするよ。じゃあねラザ。噂が無くなったらまた話そうね」
クリス様とロザリー様は図書室から出る。
「・・・き、緊張したぁぁぁぁぁぁ・・・。何でこっちに来るんだよ。ちょっとドキドキするだろ」
「「「「「解る」」」」」
「あんな近くにして話をしていたら、絶対に勘違いするって」
「「「「「解る」」」」」
「とにかく慣れないと。話すたびにこっちが先に倒れそう」
「「「「「それはちょっと難しい」」」」」
「・・・さっきからなんですか?」
「なんですかって、お前に共感してるんだよ」
「そうよ。しかしラザは凄いね。あんな近くでクリス様と会話が出来てるなんて・・・。こっちは近くで見ただけで顔を両手で塞ぐよ」
「お前は普通に会話してるんだ。正直羨ましいと同時に尊敬をするよ」
「尊敬をするような事ですか?」
「する事よ。とりあえずクリス様とロザリー様が、噂がデマだって事を言ってくれるでしょう。ラザの警護は徐々に終わりにしていくわ」
「警護もやっていたんですか」
「お前に暴力を振るってくる奴らが、いるかもしれないだろ。それを阻止するためにお前を警護してたんだ」
「警護するならクリス様の方が最優先なのでは?」
「勿論してるわ。まぁ公爵家を敵に回したいって奴はいないでしょう」
「そうですね・・・」
「―――そろそろ我々は失礼する。最後に言いたいことがある」
オレの周りにいた人たちは立ち上がる。
「何でしょうか?」
「我々はいつでも君の入会を待っている」
そう言ってこっから去っていく。
・・・いや入会しないよ。
オレは立ち上がり本を持って、元の場所に戻して部屋に戻る。
後日。オレとクリス様の噂は収まり、いつもの日常に戻った。