IF14話 木剣が
8月1日。オレとプリシラは校門に行く。着いたら先輩たちに挨拶をする。時間になると移動が始まる。
「騎士たちがおるが。第1王女の護衛か?」
「違うらしいぞ。前にオークの集落を見つけただろ。そのきっかけで周辺に他の集落があるかを、探しているんだと。で、今いる騎士たちはオレたちの護衛だよ。合宿が終わるまで護衛をやるそうだ」
「合宿が終わるまでか。なら来週と再来週もやるのか?」
「やるだろうな。その時は違う騎士たちが来ると思うけど」
「なるほど。まぁそう簡単に集落などありはせんだろ」
「そうだといいけどな」
「わたしはあってほしいのだが」
「イゼベル先生。そんな不吉な事言わないでくださいよ。本当にあったらどうするんですか?」
「そんなもん。すぐに集落に行って、壊滅させるに決まってるだろ。それ以外に何がある?」
「そうですけど。普通は逃げて態勢を整えて、集落を潰しに行きますからね」
「そんな事をしてたら後手後手になるだろ。だったらサッサと潰しに行った方がはぇーだろ」
「それが出来るのは腕に自信がある人だけですよ」
「それはわたしじゃねぇか」
「・・・そうですね。でも仮に本当にあったら、生徒の命が優先ですよ。逃げると思いますよ」
「少人数精鋭で潰しに行けばいいんじゃねぇか? プリシラがいるんだ。大体は何とかなるだろ」
「確かに妾がいれば、大体は何とかなるな。言っておくが。妾自身から、他者を助ける気は毛頭ないぞ」
「意外と酷いな。ラザが言えば助けるのか?」
「主の命令ならな」
「一々オレが言わないと駄目なのかよ・・・」
「ちゃんと命令を出さねぇと、こっちも困るぞ」
「分かってますよ」
「・・・何かラザの周りって、ヤベェー奴しかいねぇのか?」
「元高ランク冒険者、精霊、第1と第2王女に公爵家の令嬢。凄い人たちの集まりだよな」
「わたしくしたちの存在が、霞んでしまいますわね」
「いつかワタシたちの存在を、忘れるかもしれませんね」
「先輩方。話は聞こえてますよ」
「・・・オメーの耳は地獄耳か?」
「この距離なら聞こえますよ。そんなに話していて大丈夫ですか? まだまだ先は長いですよ」
「そーいうラザは平気なのかよ?」
「平気ですよ。ずっと走るよりかなりマシですから」
「あぁラザは運動会の練習期間中は、ずっと走っていたもんな・・・」
「あれは少し憐れに見えましたわ」
「アハハハ・・・」
数時間後。雑談して歩いていると合宿所に着く。休憩時間を貰って休憩をしたら、今度は来た道にあった変わった木まで走り込みをする。終わったら今度は夜戦の練習を始める。なお騎士科の人たちは夕飯を食べて風呂に入っている。
次の日。今日は騎士科と冒険科の模擬戦をやる。何故か2つの科目はかなりやる気がある。向こうの騎士科の生徒が出て来る。こっちはサハル先輩が出て来て戦が、サハル先輩が圧勝する。その後は他の先輩たちが勝っていく。
「冒険科が圧倒的ではないか。主が出る必要はあるのか?」
「あるだろ。ここまで勝っているなら、全部勝利したいだろ」
「そうだな。しかしここまで差が出るとはなぁ」
「冒険科は時間さえあれば、魔物を殺してるからな。色々と可笑しいけど」
「それが一番手っ取り早いからだろ。ほれ主の番だぞ」
オレは木剣を持って前に出る。対戦相手はロザリー様だ。
「意外と早く再戦出来たな」
「私は予想してましたけど。前と同じ条件で良いですよね?」
「構わない」
準備が出来たという合図を出して、試合が始まる。ロザリー様は木剣に風魔法で風を纏って、こっちに来る。オレは木剣に付与魔法と強化魔法で木剣を硬くする。
今は精霊魔法になってるけど。大丈夫か?
こっちに来たロザリー様は風を纏った木剣を振り下ろす。オレは木剣で防ぐと、ロザリー様が持っていた木剣が折れる。
「「・・・・・・ん?」」
オレとロザリー様は同時に首を傾げる。
「オイラザ。お前何かしたか?」
「木剣をただ硬くしただけですよ」
「だとしてもこの硬さは異常だろ。私の木剣が一発で折れたぞ」
「えぇっと・・・。間違いなく私の魔法のせいですね。どうします? 続けますか?」
「いや降参だ。その木剣で叩かれたら、気絶しそうだな」
「そうですか」
ロザリー様が降参したことで、オレの勝ちになる。オレはプリシラの所に行く。
「どうだ精霊魔法は。かなり強力だっただろ」
「強力だな。強化でこれなんだ。攻撃系の魔法を使ったら、どうなるんだろうか?」
「相手にもよるが即死だな。使い方には気を付けろよ」
「分かってるよ。精霊魔法は恐ろしいな・・・。付与にしたのが間違えだったな」
「確か『貸与魔法』があったな。あれなら時間が経てば、効果は消えるな」
「この木剣はどうやったら壊れるんだ? 普通の剣とかじゃ壊れないかもしれないな」
「今は考えてる暇はないぞ。他の人たちは集まっておるぞ」
プリシラに言われて、オレはすぐにイゼベル先生の所に行く。次は野営をするために準備をする。冒険科で1年生はオレだけなので、エリオットたちの所に入る事になった。一緒に野営の準備をしたら、交代制で見張りをやる。
「テントを張るのにかなり時間がかかりましたね」
「俺はラザ1人で張れば良かった思ったんだが」
「それでは練習の意味が無いですよ。皆でやる事に意味があるんですよ」
「それもそうだな。こうやってラザとゆっくり話すのは、寮の挨拶くらいか?」
「そうですね。あんまり話す機会は無かったですね。バルナさんとカウルさんとは、よく喋りますが」
「うぇ!? アイツらとは喋るのかよ! 一体どんな話をしてるんだ?」
「オレに対しての嫉妬話ですね。常にプリシラと一緒にいるので、その話が多いですね」
「あぁ確かにラザはプリシラと一緒にいる事が多いよな。なぁラザ。実際プリシラと一緒にいてどうなんだ? やっぱり恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいですよ。恥ずかしく無かったら、一体どんな精神をしているのか。気になりますね」
「そうだよな。俺は『フェア』で良かったと思うぜ」
「エリオットさんの使い魔でしたね。ちゃんと懐いてますか?」
「かなり懐いてると思うぜ。今でも俺の肩に止まってるからな」
確かにエリオットの肩に止まってるけど。ただそこにあったからって訳じゃ無いよな。
「そう言うラザはどうなんだ?」
「オレは・・・。もう少し自重してほしいですね」
「それはどういう事だ?」
「わっ!? きゅ、急に出来て来た!」
「プリシラはいつもこうなので。呼んでも無いのに勝手に出てくるんですよ」
「何か自由過ぎないか?」
「自由過ぎですね」
「これでもかなり自重はしているのだが。これ以上妾に自重しろと?」
「そうだよ。今以上に自重してくれ」
「別にそれは構わないが。どっかでタカが外れてもいいのなら、自重するが」
「・・・・・・やっぱり今まで通りで良いよ」
「ならこのままでいよう」
「ラザも大変だな」
「大変ですよ。それより構えてください。そろそろ来ますよ」