IF7話 名前が
5月29日。教室にて。運動会実行委員は黒板に何かを書く。
「今黒板に書いたのは、6月25日に開催される『運動会』の種目です。今日から明後日までにどの種目に出るか、決めてください。何分か考える時間を設けるので、どの種目に出るか考えてください。最低でも1人2種目は出てください」
黒板には種目が書かれているのは、徒競走、障害物競走、借り物競走、使い魔徒競走、二人三脚、使い魔と二人三脚(人型の使い魔)。後は団体競技のリレー、綱引き、玉入れ。聞きなれない種目が2つあるが別に難しい事ではない。先ず『使い魔徒競走』は人の代わりに使い魔が走る。使い魔の主はゴールの所に待機して、ゴールした使い魔を抱きしめる為にゴール前にいる。ただし空中移動する使い魔は出場禁止。『使い魔と二人三脚(人型の使い魔)』は使い魔の主と人型の使い魔で二人三脚をする。この2つ以外は普通の運動会だな。
「ラザはどの種目に出場するの?」
「あぁーオレは・・・。徒競走と使い魔徒競走に出ます」
「エメリーは?」
「私は障害物競走と借り物競走に出ようと思います。エディスは?」
「アタシは二人三脚と借り物競走かな。ねぇエメリー、一緒に二人三脚出ようよ~」
「ダダダダダメですよ! 私は足が遅いので足を引っ張っちゃいますよ!」
「いいのいいの。こういうのは勝ち負け気にせず、楽しんでやるのがいいんだよ」
「エ、エディスがそう言うなら・・・。私も二人三脚出ます」
「ありがとう!」
エメリー様とエディスさんは随分と仲が良い。ゲームではエメリー様は1人でいる事が多かったけど、現実ではエディスさんがいたお陰で1人じゃ無くなってる。これはこれでいい事だ。
「ところでラザは何で徒競走にしたの?」
「ただ走るだけですから。特に物凄く疲れる訳じゃ無いので、徒競走にしたんですよ。エディスさんは何で借り物競走に?」
「楽しそうだから!」
「・・・そうですか」
「そうだよ」
そんな理由で決めていいのか?
「主よ。あの使い魔と二人三脚には出ないのか?」
「やっぱり聞いてきた。別に出なくてもいいだろ。恥ずかしいし」
「・・・いや主が拒否をした所で、あの実行委員とやらが勝手に決めておるぞ。既に名前は書かれておるぞ」
「えっ!?」
オレはすぐに黒板を見ると、オレの名前が書いてあった。
「実行委員さん!? 何でオレの名前が書かれているんですか!?」
「それはラザさんが精霊を呼び出したので、出さない訳がありません。それに実行委員さんではなく、アリスです」
「出さなくていいじゃないですか! こっちは恥ずかしさと嫉妬の目線を浴びるんですよ!」
「それが何か? 私たちのクラスは人型の使い魔が不足してるので、ラザさんの拒否権無しで出場してもらいます」
「そんな無慈悲な・・・!」
「妾が言う必要が無くなったな」
その後はどの種目に出るかを決める。今日は全員決まらなかったので、また違う日に決める。なお、午後の授業はずっと走り込みだった。
6月12日。第2アリーナにて種目別の練習をする。オレはプリシラと二人三脚の練習をする。
「ちくしょうー・・・。白昼堂々とイチャイチャしやがって・・・」
「あれはただの練習だろ。羨ましいのは分かるが」
「俺もあんな精霊を召喚したいぜ」
「絶対に厭らしいこと考えてるわね」
「そそそそそそんな事ないぜ~」
「嘘ね」
「あのーエディス? さっきから私の胸を見て、プリシラさんの胸を見てますが。何でしょうか?」
「・・・・・・胸の格差」
「胸の格差?」
「そうだよ。何で2人はそんなに大きいわけ? 一体何を食べたらそんなになるわけ?」
「そ、そう言われましても・・・。私は別に特別な事はしてませんよ」
「特別な事は何もしてない? 絶対に嘘だ」
「本当ですよ! 私は何もやってませんよ!」
「本当かな~」
「本当です!」
オレとプリシラは走るのを止める。
「まぁこんなもんだろ。それにしてもプリシラも速いよな。何かやっていたのか?」
「基礎的な事はやっていたが、他はやってはいなかったな」
「マジかよ。素でこの速さかよ・・・」
「上位精霊になればこんなもんだろ。まだ走るか?」
「少し休憩をするよ。足の紐は外すぞ」
「妾はこのままでいいのだがなぁ」
「オレは嫌だ。恥ずかしい。・・・何かプリシラが来てから『恥ずかしい』が口癖になってきてないか?」
「なってるだろうな。前はそんなに言わんかったのか?」
「言わないね。そう言うのは隠していたかな。プリシラが来たことによって、言わないと長く続くからな」
「む。それはちと失敗したな」
「失敗してくれて良かったよ」
オレは左足に縛ってある紐を解く。少し端の方に移動して休憩をする。
「運動会は大丈夫だろうか・・・」
「そこまで心配する事か?」
「あたり前だろ。プリシラがいるんだぜ。絶対に嫉妬の目が来る」
「仕方ないだろ。人型でおなごって言うのは中々いないからな。おのこも同じだな」
「そもそも人型の精霊って、性別が無いのが多いんじゃないのか?」
「そうだが。妾みたいな者もおる。数は少ないがな。50もおれば良い方だろ」
「そんなに少ないのか。それで生活が出来てるのか? って出来てるか」
「出来なかったら。今頃妾は呼ばれてはおらんだろ。それに妾みたいな者は、出産率が低いのもある。元々かなり長生きするからな」
「長生きするのか。じゃあプリシラはこれからは長生き無いな」
「妾が何もしないと思っておるのか? 何とかするに決まってるだろ。例えば主を無理やり精霊にするとかな」
「そんな事出来るのか!? 流石にプリシラだけでじゃ出来ないだろ」
「出来ると言ったら、どうする?」
「全力で逃げさせてもらうぞ。オレは人のままで死にたいのだが」
「妾が許すとでも?」
「許さなよな。だがエリオットみたいに、すぐには『はい』何て言わないぜ」
「すぐに『はい』など言うのはつまらんからなぁ。まぁすぐに落ちぬことだな」
「そうさせてもらうよ。練習も戻るか」
オレは自分の左足とプリシラの右足を、紐で結んで走り出す。
6月25日。運動会が始まる。