第3話 異能力
炎が裏路地を黒く焦がし、緋に染めた。
「クソっ!!」
その炎を一跳びで避け、屋根を掴み登る。
足元を炎が焦がしたが、何とか外傷無く逃げられた。
「しっかし……手から炎なんて……ファンタジー過ぎるだろ異世界……!」
(取り敢えず、この力をモノにしないと……今回は運が良くても、逃げられない時だって…………
……なっ!?」
思考は目の前の事実を前にして消し飛んだ。
未だ炎が燻るその手、心当たりは大アリだった。
「逃げられると、思うなよ……その程度で俺から逃げ切れるとでも思ってたのかよ?その程度で!!!」
男が屋根を登り切った。
明確でおぞましい殺意が優司を刺した。
「く……くそっ!!!」
背を向けて全力疾走する。
屋根と屋根でできた谷を何度も跳び越しただ一目散に逃げる。
「だから……テメエは逃げられねえって言ってんだろうが!!!!!」
この高い身体能力は、その男との距離を数百メートルも離してくれた。
しかし、男の足元に赤が迸しり、男の身体を空へと投げ出した。
「そんなのアリかよ!!!」
「そんなのアリかって?ははは!!アリなんだよ、出来るって事はそんなの大有りだって事なんだよ!!!」
数百メートルがたった一瞬で詰められた。
その勢いのまま肩に蹴りが突き刺さる。
「ぐはッ!?」
蹴り飛ばされるままに、一瞬空を飛び、更に屋根から無様に転げ落ち、全身傷だらけになってからやっと分かった。
「逃げ……られない……。戦わなきゃ……逃げられないッ!!!!」
身体を起こし、決意を固めた。
広範囲に広がり、遠距離攻撃も可能で空も飛べる。
そんな相手と空のある場所で戦うべきではない。
「場所は路地がベスト、後はーーー」
「……経験値が入った感覚はねぇ……って事は。
まーだ生きてやがるって事だよなぁ?」
屋根の隙間から男が見下ろした。
しかし、そこに獲物の姿は無かった。
「おいおい……時間稼ぎか?ポリ公でも呼んでみるかぁ?『超能力者に殺されそうなんでしゅ!!たしゅけてくだしゃーい』ははっ!助けなんかこねぇよ!!!」
炎がゴミ箱に命中し、焼失させた。
ゴミ箱の裏に人間の体温を感じたのだ。
次の反応は、更に前……つまり、
「只の後退だと?馬鹿が!!!死にたいなら望み通りにしてやるッ!!!!」
火炎が一直線に進み、命を刈り取るまで残り数秒のその一瞬。
一瞬音が聞こえ、目の前に火炎が広がった。
「な……ッ!?何が起きた!?爆発だと!?そんな事……俺は何も……!!!!」
そう、彼は炎を放っただけだ。
だが、矛先が悪かった。
何故かスプレーの缶が纏めて置いてあったのだ。
「あの野郎か……あの野郎がッ!!!!クソッ!!!!何処だっ!!!何処だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
周囲の温度は上昇してしまっていて、熱による感知ができない。
故にしらみ潰し、腕の可動領域全てに炎を放つ。
「ここだ。」
「ッ!?」
振り向きざまに顔面に拳が突き刺さる。
強化された身体能力での、容赦など一切無い拳。
それが決着だった。
一回地面でバウンドして、男は動かなくなった。
身体の端が動いているのを見ると、死んではいないらしい。
「はぁ……はぁ……俺の勝ちだ。炎使い。」
地面に倒れ込み、荒く息を吐く。
「本当に……色々…あり……過ぎだ……異世界なんて……嫌いだ……ちくしょう…………」
そして、そのまま寝息を立てた。
読んでくれてありがとうございます。
夏休み、出来るだけ投稿していきたいです。