第164話 陰と陽(前編)
遅れてごめんなさい。
退却する二人を『最強』が追撃する。
「くっ……『影』!!」
その呼びかけに応えるようにして、黒い影が物陰から飛び出す。
「ふん、身の程知らず共が!!」
両の手のひらを握り込むと同時、隙間から溢れ出るように合計6本の楔が、生成される。
間髪入れずに回転し、空を薙ぐ。
「『空拒』!」
流れるような回転の勢いは拡大し、まるで竜巻が如く影を薙ぎ倒す。
「あらぁ……影じゃあ、時間稼ぎにすらならないっぽいですねぇ。」
冷や汗を垂らしながら、遊夢がポツリとそう溢した。
それに対して『疑似暴食』は自信満々といった様子で言う。
「np!既に手は打ってあります。」
「……む?」
ふと、最初見たときよりも明らかに『影』の量が減っている事にバルフートは気付く。
そして同時に、奇形の『影』が増えた事にも。
「なるほど、面倒だな。」
「一部の『影』に私の分体を植え付けておきました。善戦くらいはしてくれるでしょう。
それに、運が良ければ彼女の能力の耐性が手に入るかも知れません。」
「ナイス、でぇす。
……えぇと、呼んでほしい呼び方とかありますぅ?」
「今する話ですかそれは……。」
「だって────」
ほんの数秒、彼女から目を離しただけだった。
「──見つけたぞ。」
その声は遥か上、頭上から。
「……いくらなんでも速すぎじゃないですかぁ?!」
(先程の加速能力でここまで距離を……?使用に制限はないのか……!)
『疑似暴食』の予想通り、バルフートは能力──『一気通貫』による高速移動によって、纏わりついていた『影』ごとここまで距離を詰めたのだ。
「さっきは殺り損ねたからな、今度は逃さん。」
突如、まるで重力の方向が変わったかのように、2人はバルフートに引き寄せられる。
「「ッ!?」」
否、正確にはバルフートの手のひらの上に浮かぶ『光』にだ。
「クッ……『影』ッ!!私達を守れ──────ッッッ!!!!!」
今度は『拒絶』ではなく、『融和』。
初めに空気が、次に木々、地面、風景、集まってきた『影』すらもバルフートの掌に光となって集まり────
「『融・合・砲』。」
──瞬、閃光。
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