第19話 異形の司書
「あ…すみません。ってここ……図書館?いや、図書室か。」
頭を下げて謝る。
正直思い返すと、極限状態だったとは言え、擁護出来ないような自分の暴挙に目を覆いたくなる。
「すみませんって……私の本だから良かったものの……」
「うっ…すみません。」
「はぁ……反省してるんですかね?」
儚げな少女が指を鳴らすと机と本が、床すら一瞬にして元の場所に戻された。
「……能力者?敵じゃないのか?」
「えぇ……能力者ですね、敵ではありません。
ま、この時点ではその認識で良いでしょう。まだまだ時間はありますから……ね。」
儚げな白髪の少女が笑う。
「…それって……」
「出口はそちらですよ。」
少女の蒼い瞳は既に手元の本へと移されており、人差し指だけが出口らしき扉を指し示していた。
「待ってくれ、その…アナタの名前は?」
「グイグイ来ますね…初対面の女の子相手に。
只の本の虫ですよ。どうせならそう呼んで下さい。」
興味なさげにこちらを一瞥し、その細い脚を組み直す。
「本の虫…いや、司書さんで良いや。」
「話を聞かない野郎ですね。
……全くじゃあそれで良いですよ。」
「おう、じゃあな、司書さん。」
「はいはい……しかし、こんな所に居たなんて……。
まぁ、この物語で彼の力を見定めるとしましょうか。」
その存在は笑う。
今尚増え続ける物語を片手に、世界の命運を見定めながら。
彼は長い廊下を歩いていた。
あのビルの外周を歩いているとしても長過ぎる。
「司書さん…なんであんな所に居たんだろ。というか、『リスト』ありますか?って聞いた方が良かったな…もう戻るのも面倒だな。」
その瞬間だった。足元の紅に気付いたのは。
「コレ……血………ッ!?」
血から紅の双葉が生まれる。
瞬く間にそれが一面に茂り、成長した。
危機一髪にそれを躱す。
「植物……!?能力者か!!」
「話が早いわね。まぁ…この攻撃で死んでいれば、話す事も無かったのだけどね。」
右手にカッターナイフを持っている少女の左手には血の滲んだ包帯。
あの血は少女のものらしい。
「死……!殺せる能力者……アイツと同じか。」
「大人しく死になさい…貴方の死を、花達で彩ってあげる……」
少女の血がカッターに乗る。
血に塗れた刃が嫌に生々しい。
「悪いが俺はまだ死ねない……ここで死ぬ訳にはいかないんだ。」
拳を固く握り締めた。
いつも読んでくれてありがとうございます。
今日は短めとなっております。