第2話 邂逅
どうやらこの惨状は夢ではないらしく、彼はせっせと掃除を行っている。
「……どういう事なんだ……?やっぱりあの夢ーーー
ーーいや、転移が関わっているのか?」
細かい所まで掃除を始めるとキリがないので、辞めにして立ち上がる。
「玲音…心配してるよな…?」
今度は壊さないようにゆっくりと扉を開け、洗面所へと向かう。
顔を洗い、歯を磨く。
(……昨日のは夢じゃなかったんだよな。)
空いた左手を何度も開閉する。
力加減に気を付けなければいけない。
今ならば、簡単に人を殺しかねないのだ。
「あっ、おはようゆーじくん。
遅かったねぇ。昨日夜更かしした?」
「……いや、凄く寝た。布団が気持ちよすぎてな。」
そして、ハムエグハムハムパンにかぶり付く。
命名は優司の母だ。
中々ご機嫌なネーミングセンスだと思う。
「あぁ〜あるよね。早く寝過ぎて寝過ごしちゃうの。特に春はねぇ〜〜。」
流石に「異世界転移したんですよ。お嬢さん。」
とは言えない。
そんなこと言った日には、名前が主人公(笑)になってしまうことだろう。
「じゃあ、外で待っとくよ、着替えといてね!」
「あ、あぁ。」
例に漏れず、着替えはカットだ。
ーーーさらに、登校中の時間もカットされた。
因みに玲音のパンツカウントは29回。まだまだだ。
「よっ!リア充!校内新聞のネタにしてやろうか?」
帽子を被った赤毛のクラスメイトが肩を組んでそう言う。
コイツの名前はケイト・アニマ。
写真部で、俺の多くはない友人だ。
「それだけは許してくれ、玲音のファンに殺されるわ。」
実際、「幼馴染だから許すけど付き合ったら殺す」と釘を刺されている。
そいつらが玲音の本当の姿を知った時、どんな反応をするのか楽しみだ。
「フン。その程度の事で死ぬ貴様ではあるまい?」
制服の上に羽織ったマントがひらひらと揺れた。
組んだ腕には包帯が巻かれている。
独創的なファッションのその友人は灰打理貴。
「いや、普通に死ぬわ。お前が言う『フォース』って奴があってもな。」
「記事にするのはやめてあげてね?優司くんが、かわいそうだから……」
そう言ったのは唯一の良心寄木采久。
ちっこくて可愛いので、結構女子に弄られる。
その度に「ふわぁぁぁ!?」なんて声を出すので、ますます女子に弄られる。
『テーレ♪テテレ♪テテレ♪テレレレレレレレ♪』
(以下二回繰り返し)
そんなラスボスのテーマのような巫山戯たチャイムが鳴り響くと同時に担任と副担任が入って来た。
朝田先生と春咲先生、美男美女だ。
「今日は、編入生を紹介する。入って来なさい。」
ガラリと開いた扉から覗くのは、整った顔立ちと腰まである長い髪。
その少女は淡々と歩き、黒板に到達すると、淡々とチョークで名前を書いた。
「世与八代。」
『無口だけど可愛いな。』
クラスの大半の声はそんな感じだ。
実際のところ優司もそう思っていた。
「…………うん、仲良くしてやってくれ。席は……右側の一番後ろ。そこが良いだろう。」
また淡々と歩き出し、席に着く。
「や…やばい!!やばいよゆーじくん!」
「…玲音、どうした?」
「あの子……ノーパンだ。」
ノーパン、つまりはパンツを着用していないという事だ。
彼は幾度と無く、他人のパンツの色をシェアされて来たが、流石にノーパンは初めてだった。
「え!?………」
思わず体が動き、机に足をぶつける。
「女子が増えて嬉しいのは分かるが落ち着け。
別に1日や2日で居なくなる訳じゃないんだからな。
それにお前には玲音がーーー
「先生!すみませんでしたッ!!」
………??なにも謝る事は無いんだが……?」
溜息を吐く優司を見て首を傾げる。
隣の春咲先生が白い目で見ているのにも気付いていないとは、天然にも程があるだろう。
(……でも、よくよく考えれば転校生がこのタイミングでこっちに来るのはおかしくないか?)
学期の始まりに編入生が来るのはおかしくは無いと思うのだが、彼の妄想は止まらない。
(ということは……やはり異世界人!?俺を監視するため……?人を問答無用で召喚するような世界だし、やりかねないな。)
というように、思春期の高校男児らしく妄想を始めたのだが、それがどうにも止まらず、
『テーレ♪テテレ♪テテレ♪テレレレレレレレ♪』
ラスボスのテーマが鳴り響いた。
「ゆーじくん、ノート取ってたの?シャーペン一切動いてなかったけど……?」
「……なぁ、玲音。」
「ん?なに?」
「ーーー異世界って、あると思う?」
玲音は一瞬だけ、沈黙した。
そして、周りを軽く見渡してから
「……あるんじゃない?」
と耳打ちした。
それ以降の授業は呆気ない程滞りなく進んだ。
「ぁ〜〜終わったぁぁ!!玲音、今日は……」
「あっ!ごめん!今日は寄るところあるから!!」
「そっかぁ……」
そして、そのまま帰路に着いた。
何故、玲音にしか話しかけなかったのか。
それは勿論、帰宅部で帰路が同じなのが玲音しか居なかったからだ。
ーーだが、今日は好都合かも知れない。
監視役の転校生や、連れ戻しに来る異世界人に対抗する為、もっとこの力について知らなくてはならないからだ。
因みに、これはこの青年のゲキイタな妄想である。
そういった事があり、彼は1人寂しく空を見上げていた。
高速道路で、空の4割が塗り潰されたこの街。
未だに工事を続ける意味がわからない。
「おい、そこのお前。」
突然声をかけられ振り向く。
そこにいたのは名も知らない少年。
「え?俺ですか?俺になんかーーーッ!?」
その時、その少年の掌には、確かに炎が灯っていた。
その少年が、手を突き出すと同時に、火炎が直進する。
「なっ!?」
反射的に炎から逃れようとして地を蹴る。
結果的に言えばそれで炎から逃れる事ができた。
しかし、勢い余って背中から壁に突っ込んだ。
「く………いってぇ……!!」
「やはり体温が高いと能力者なのか……。
さて、能力者はどれだけの経験値が貰えるのか、楽しみだ!!」
「く……くそっ!!遂に殺しに来たか!!異世界人!!!」
ここまで読んでくれてありがとうございます!