第18話 幻想
「…………」
(おかしい……妙に静かだ。)
静か過ぎて逆に不気味だ。
小さいとは言え爆発があったのだ、これだけ静かなら充分聞こえる筈なのに……
その疑問は直ぐに解消された。
(……光が漏れてる?)
その光に近付くにつれて、少女の歌声のような何かが聴こえてくる事に気付いた。
「ようこそおいで下さいました。
能力の持ち主よ。」
「ーーッ!?」
違う、それは歌声ではない、その少女の言葉だった。
脳裏に響く声が心地良く、最早気味の悪ささえ感じさせられた。
黒い空間に囲まれた少女が微笑を浮かべる。
「アナタは何を望みますか?力を何のしがらみもなく振るえる場所か。
力を持っていようとも咎められる事はない場所か。
それとも、新たな力か。」
「……お、」
目の前の少女は、少女である事に疑いはない。
……だが、その妙な既視感と雰囲気が全く一致していない。
「…お前は誰だ?」
「面白いですね。名前を教えましょうか。
……私の名前はイマジン。理想郷を見せる者。」
「……イマジン。」
あの男が様付けで呼んでいた、この少女。
この少女が、人間を金で買っていた。
だとすればコイツが誘拐の原因。
「望みだったな、じゃあ俺の望みは人質の解放だ。」
「良いでしょう、それでアナタが満足するのなら。」
あっさりとそう返され、驚いた。
だが、目の前の少女は目を細めて更に言葉を続ける。
「ふふふ……どうせ数日で人質は解放する手筈だったので。
……時に、アナタのお父様とお母様はーーー」
「ーーいない。……ッ!?」
簡単に話してしまった。
能力を使われるまでもなく、脅された訳でもない。
何故か拒否できなかったという事実が嫌悪と恐怖を呼ぶ。
「『いない』……それは都合が良かった。
では、捕まってもらうとしましょうか。」
パチンと小気味の良い音が鳴った途端に、今まで黒だった空間が一斉に動いた。
その黒い空間が人間の髪の毛で、それが一斉に振り向いたと理解した瞬間。
下から上に、震えが共鳴した。
「う……うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!???!!」
一瞬の硬直の隙に距離が詰められ、生暖かい手が腕を、脚を掴む。
「このッ!!離しやがれッ!!」
蹴りを入れた顔面がこちらを睨む。
いや、睨むなんて気迫は無かった。
例えるなら、覗く。粘着質な視線が顔をまじまじとなぞる。
「う……ッ!?くそッ!!!」
天井まで跳び、指を突き立てる。
流石に壁に張り付いたりは出来ないようで、虚しく壁を掻いているだけだ。
「なんなんだよ……気味悪いなぁ!!倒されたら絶対呪われる奴だろこれ!?もう!!!
夏休みスペシャルかぁ!?こっちは夏休みはまだなのに……!!!」
ふと、その変な集団が視線を外した事に気付く。
「……やっと諦めたか!!…………え?」
流石に猿以上の知能はあるらしい。
最前列が蹲り、その上にもう1人が被さる。
「人間タワーだって!?縁起でもないぞ!!!くそッ!!」
最頂部に脚を掴まれる前に天井を何発か殴り、穴を開ける。
「はぁ……まさかあんな展開になるとは……穴塞いどくか。」
テーブルを逆さまに置き、その上に本を数冊置いた。
ガタンガタンという音が暫く鳴っていたが、諦めたようで途中で音が止んだ。
「ふぅ……ざまぁ!」
「全く、下品な野郎ですね。」
振り向くと…そこに居たのは少女だ。
その蒼色の目が妖しく光った。
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