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黒歴史

若いって、良いね。

作者: 朱雪藍

実話です。若さを実感した出来事だったので、書いてみました。

あれは、僕が中学生だった時の話。


ピアノのコンクールを目前に控えていた僕は、学校に行って部活から帰ったらすぐにピアノの練習をする、というような生活を送っていた。


そして、ある日。


体育で、ハンドボールを使った授業を行った。何のことはない、ただのキャッチボールをしていただけだったのだが、僕はボールを取り損なってしまい、右手の小指を突き指してしまった。


カラダが丈夫なのは昔からのとりえで、捻挫とか突き指なんて少し冷やしておけば治る、とか能天気に思っていた。まだこの時は。


ただ、いつもより少し痛かった。


とりあえず、保健室に行ってシップをはってもらい、授業に戻った。さすがにキャッチボールは見学していたけど。


その日は、ピアノのレッスンの日だった。まあ、突き指くらいしててもピアノは弾ける、とか思ってがっつり一時間レッスンを受けた。


そして、お風呂に入ろうとしてシップを外した僕は、自分の指の状況をしっかり理解することが出来なかった。


まず、青紫ではなく、「どす黒く」変色していた。そして、第二関節よりも下の部分が中指よりも太くなっていた。小指だというのに。


何が何だかわからなかった僕は、とりあえず親に言った。「骨折れてるかもね」ということで、病院に行くことになった。


コンクールまであと三週間を切っていた。


親の都合が合わず、結局病院に行けたのは突き指してから三日後だった。


レントゲンを撮り、医者の話を聞いた。

どうやら、第二関節のところが「欠けた」らしい。

扱いとしては、「骨折」なのだそうだ。


医者によると、治るのに十日から二週間はかかるらしい。

しっかり固定された僕の指は、まるで自分のものではないような気がして、現実だと認めたくなかった。


ピアノを弾く人にとって、指は命だ。自分の気持ちを音として伝えるためのツールが使えないのでは、意味がない。しかも、治ってからまた練習できるようになったとして、一週間ほどしかないのでは、絶望的な状況だといえるだろう。


コンクールだけが怖いのではない。ちょうどその時期に、ある合唱団の伴奏で本番があった。代役は効かない。本当にアカペラ(注、ピアノ伴奏なしで歌うこと)にしてもらおうかとまで思った。

でも、幸い僕の指は完全に固定されている。しかも、そこまで難しくない伴奏だった。これなら、と思い、


本番は右手の小指以外の九本の指で弾いた。グリッサンド(注、鍵盤の上を爪でなぞるようにして弾く奏法。デュアァァァァァ、のように切れ目なく音が出る。)も入っていたが、無事本番は成功した。


一週間後、また病院に行った。これで「あと一週間かかる」とか言われたらもうおしまいだろう。


レントゲンを撮るために固定していたものを外した僕の指は、どす黒くて、まだ腫れていて、いっそのこと小指を根元から切り取ってしまいたかった。


また医者の話を聞く。「これが、先週の写真。ここのところが、欠けてるの。わかる?そして、これが今週の写真。うーん、くっついたね。いきなりは動かないと思うけど、お風呂とかで開いたり閉じたりするのをやっとけば、前みたいに動くようになるから。黒っぽいのも、時間がたてば治るから心配しなくていいよ。」


思考が一瞬止まった。

くっついたね。

クッツイタネ……

くっついたね……

くっついたって、骨が?


にわかには信じられなかったけど、目の前の医者が笑ってそう言っているんだから、治ったんだろう。


「ハハ……ハハハハハハハ……」

もはや変な笑いしか出なくなってしまっていた。


そして家族に報告して驚かれ、学校で先生や友達に報告して驚かれ、自分が驚いた。


コンクールまであと二週間。これならもう大丈夫だ。


若いって、良いな。


二週間かかるといわれたのが一週間で治ってしまいました。今も少しいびつな形をしていますが、何不自由なく暮らしています。そしてピアノも続けています。

文中のコンクール、見事最優秀賞を頂きました!

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