表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/14

イワン本紀3 絶世の美女たち

 ヴァン・トゥルクが帝国宰相。チャン・ターイーが帝国元帥となって、三ヵ月が経過した。

 この年、イワンは、十九歳となっていた。


 イワンの命により、帝国宰相となったヴァン・トゥルク。

 イワンが最初に述べた通り、イワンは、ヴァン・トゥルクが行う政務に干渉することはない。


 様々な政務の中でヴァン・トゥルクは、時に迷うことはあった。が、イワンに判断を仰ぐという選択肢は、ヴァン・トゥルクにはなかった。

 もし、必要を感じられたなら、あの方は、私を居室に呼ばれるはずだ。ヴァン・トゥルクにはそれが分かった。

 帝国宰相としての日々。

 まだ二十一歳のヴァン・トゥルク。

 だが帝国政府を構成する大臣も官僚も、貴族たちも、帝国において最も勢力を持っているはずのローザン一族でさえも、帝国宰相ヴァン・トゥルクに服した。

 イワンが認め、帝国宰相に任じた男。

その威力は、絶大だった。

 そして、イワンに帝国元帥に任じられたチャン・ターイーについてもそれは同様だった。 

 チャン・ターイーは、軍を掌握した。帝国軍人はみな、全面的にチャン・ターイーに服した。

 最初は、イワンが発する光彩が、ふたりに及んだからだったのかもしれない。

 が、決してそれだけではなかった。


 帝国宰相、そして帝国元帥。その職に任じられたふたりは、あたかもそれが当然であったかのように、その持てる本来の才能、力量を充分に発揮した。

 ホアキンの全歴史においては、多くの人物が、帝国宰相に、帝国元帥に任じられている。名宰相。名将と讃えられた人物にも事欠かない。

 が、ふたりは、その誰をも超えた才を示したのである。


 帝国元帥は、軍令において、全権を持つ。

 軍政を含め、その余のことは、帝国宰相が全権を持つ。


 これが、イワンがふたりに告げた命である。その命は、ふたりにとって神聖なものだった。

 その意味することをふたりは誤らない。


 従って、政務に関することについて、チャン・ターイーが自らの意見をヴァン・トゥルクに具申することはない。

 が、ヴァン・トゥルクが求めれば、チャン・ターイーは、自らの意見をはっきりと述べる。

 その意見は、ヴァン・トゥルクにとって、政府における他の誰よりも耳を傾けるべき意見となっていた。


 皇帝オットー・キージンガー。

イワンのふたりに対する帝国内への布告を聞いた時、さすがに驚いた。

 が、そのことを直ぐに受け入れた。

 本来であれば、言うまでもなく、帝国最高の地位にいる人物である。

 が、オットーは、自らの上に立つイワンの存在を、ある種、淡々と受け入れた。

 

 イワンは、嫉妬の対象になるような存在ではないから。むろん、それが最大の理由であろう。

 が、皇帝という地位にあれば、色々と思うことも多いはずである。

 しかし、オットーは、そのことを態度には出さない。


 普段、全く会うことはないイワン。

それに代わるかのように、ヴァン・トゥルクは、オットーに、日常、濃密に接し、必要と考えることの報告を怠らず、その意向を、拝した。

 陛下が、その性は善良で、しかも極めて有能な方である。

 ヴァン・トゥルクには、それがよく分かった。


 そして、オットーは、それは、親友であるトクベイしか知らないことであるが、ヴァン・トゥルクの最大のライバルなのだった。



 イワンからの使いがあった。

 ヴァン・トゥルクは、イワンに呼ばれた。

帝国宰相を、拝命して以来のことである。。


 ヴァン・トゥルクは、緊張を覚えながら、イワンの居室にはいった。

 イワンは、ひとりだった。常に居室に侍している妹君のナターシャ殿下も、ペーター公、コンスタンチン公も不在だった。


 「ヴァン・トゥルクよ。頼みがある」

命ではなく、頼みとは。

ヴァン・トゥルクは、怪訝な面持ちで、イワンを、仰いだ。


 「ヴァン・トゥルク。これを見よ」

イワンが一枚の紙をヴァン・トゥルクに示した。


流麗極まりない、帝国文字が書かれていた。殿下自らがお書きになったのだろうか。

そこに書かれていたのは、女性の名前だった。

エヴァ、テオドラ、トミ(富)、クラウディア、シルヴィア、マリア、イボンヌ、スカーレット、シャオリン(小鈴)。

各々の名前の下には地名が書かれていた。

「この九人の女性を、予のもとへ連れて来てほしい。むろん、そなたが直接赴く必要はない。しかるべき者に命じよ」

「お訊ねしてもよろしいでしょうか」

「特に許す」

「どういった方々なのでしょうか」

「絶世の美女だ」

「この方々にお会いになられたことがあるのですか」

「そなたたちが使う意味では、未見だ」

では何故、とさらに訊きかえそうとして、ヴァン・トゥルクは、それをやめた。

そうか、この方には、そのことがお分かりになるのだ。


この方も、もう十九歳になられた。そのようなお気持ちには無縁な方と、お察ししていたが。そうか、そうか。絶世のか。一度に九人もか。

ヴァン・トゥルクは、嬉しくなった。

「はい、はい、殿下。承りました。このヴァン・トゥルク。直ちに命を発します。速やかに、ここに書かれた絶世の美少女たちを、殿下の御前にお連れいたします」

「トゥルク」

「は」

「少女ではないぞ」

「はっ」

「年齢は、最も若い者で二十二歳。最年長は、三十三歳だ」

「皆様、年上ですか」

ヴァン・トゥルクは、どうして、という顔でイワンを見た。

「理由は、言わん」

ん、

何かが、ヴァン・トゥルクの耳に引っ掛かかった。

ヴァン・トゥルクは、普段ではとてもなし得ないことだったが、思わずイワンを、凝視した。

心なしか、照れたような表情を浮かべられているような気がした。

まさか、今、だじゃれを言われたのか(日本語?)。

まさかな、この方にそのような下賤な感情があられる訳がない。


年齢を聞いて、ヴァン・トゥルクは、気になったことを問うた。

「皆様がそのようなご年齢でしたら、既にご結婚されておられる方も多いと思われますが」

イワン殿下は、人妻がお好きなのか、厄介なことになりそうだ。


「いや、その懸念には及ばぬ」 

「は」

「確かに、皆、既に結婚を経験している」

全員か

「が、既にその相手を亡くしている。皆、未亡人だ」

ヴァン・トゥルクは、ほっとした。

では何も支障はない。


「承知いたしました。殿下のご依頼。このヴァン・トゥルク、謹んでお受けいたしました。」

「うむ」


ヴァン・トゥルクは、退室した。

イワン殿下の女性のご趣味。

マニアックだな、

ヴァン・トゥルクは、思った。

自らを省みた。


まあ、俺も似たようなものか。



 旬日を経ずして、九人の美女が、揃ってイワンの居室に参集した。

ヴァン・トゥルクも陪席を、許された。

ヴァン・トゥルクは・・・

眼が眩んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ