列伝1 スオウとその家族
列伝 1
帝国東部の農家。そこに少女メイリンは両親と住んでいた。
少し気は弱いが優しい父スオウと、 美しい母シュアン、そして活発な少女メイリン。
貧しいけれどもしあわせに溢れた一家に突然の不幸が襲ったのはメイリンが七歳の時だった。
かねてよりシュアンの美貌に目をとめていたその地方の領主コスロフの命によりシュアンは連れ去られた。なすすべもなく、運命を受け入れるしかなかった父と母。三人家族は二人家族になった。
スオウは、美しい妻、シュアンが自慢だった。そして、明るい娘メイリン。
スオウは、この世で自分ほど幸せな男はいない。そんな風にまで思っていた。
が、その幸福な日々は突然終わった。
元々は、とても働き者で、朝早くから日が暮れるまで、畑で作業を続ける日々を送っていたスオウ。
だが愛する妻を奪われたスオウは、生きていく気力を失った。
仕事を投げ出し、以前は、祭りの際にだけ飲んでいた酒を、浴びるように飲み続けた。
母を奪われた七歳のメイリン。彼女には、一体何が起こったのか分からなかった。
メイリンも茫然自失となり、家は荒れた。
月日が経った。
メイリンは、もう母は、決して戻って来ることはないのだということが、ようやく分かった。
立ち直ったのは、メイリンのほうが早かった。
「お父さん」
メイリンは、毎日、酒浸りになってしまった父に告げた。
「お母さんはいなくなってしまったけど、ふたりで頑張ろうよ。
また前みたいに、畑で働いて。私も、一生懸命手伝うから」
その言葉を聞いたスオウの眼から泪が溢れた。
スオウは、慟哭した。
スオウは、酒を絶った。
翌日から、父娘は、ふたりで、畠での作業に精を出した。
再び妻に、そして母に会える日を夢見ながら。