パウロ聖伝3 パウロ西行
その日も、パウロが眠る、帝国最東部の村の、ヨハンとケナの家には人びとが集っていた。
パウロが発する、目には見えない穏やかな光に包まれて、人びとは思い思いに、幸福感に包まれた時を過ごしていた。
その人びとの中で、
パウロの目が開いた。
パウロは、立ち上がった、
パウロは、おのれの両親、ヨハンとケナを見た。
深々と頭を下げた。
パウロは、歩み始めた。帝国の都に向かって。
そこに集っていた人びとは、全てパウロに従い、そのあとに続いた。
パウロは、歩き続けた。パウロが歩を進めていくその村村で、その地方で、新たな人びとが、パウロに従いその列に加わった。
パウロに従う人は、千を超え、万を超え、十万人を超え、さらに増え続けた。
パウロがその村を通過したとき、スオウとメイリンも、その列に加わった。
パウロは思う。
イワンとチャガタイに会わなければならない。
先日、到達した思いを、ふたりに告げなければならない。
いや、あのふたりはもう分かっているだろう。
ふたりが同意した時、この世界は、終わる。
そして、全ての生きとし生けるものは、あの超越の世界に止揚する。
大いなる価値の存する、あの理想の世界へ。完全な世界へ。
帝国東部から数十万人の民衆が、この都に向かって、歩みを進めている。
その知らせが、もたらされた時、ヴァン・トゥルクは、帝国宰相に任じられてから、初めて自らの意志で、イワンの居室を訪れ、どう対応すべきか、その判断を仰いだ。
「その集団の先頭にいるのは、パウロという若者だ。予に会うのが目的だ」
殿下は、やはり全てをご存知だ。
ヴァン・トゥルクは、一礼して、踵をかえそうとした。
「トゥルク」
イワンが呼び止めた。
「は」
「チャガタイも、都に向かっている」
「あの草原を統一されたという方ですね」
「うむ、やはり予に会うために向かっている」
何が始まろうとしているのだろう。
ヴァン・トゥルクは、思った。
「トゥルクよ」
「は」
「トクベイも同行している。到着したら会うがよい」
「殿下とチャガタイ様が会われる時、同席をお許しいただける、ということでしょうか」
「いや、チャガタイとは、パウロが到着してから三人で会う。都への到着は、チャガタイが一日早い。その日に、お前は、チャン・ターイーとともに会うがよい」
チャガタイの一行が、都に到着した。
チャガタイの姿を見た瞬間、ヴァン・トゥルクは、イワンと同じ世界におられる方であることを理解した。
ヴァン・トゥルクの紹介により、チャン・ターイーとトクベイは、初対面の挨拶を交わした。
一行には、チャガタイの異母弟、嫡子オゴタイと、同母妹クサンチッペもいた。
穏やかな風貌をした十二歳の少年が、極めて聡明な少年であることは、ヴァン・トゥルクには直ぐに分かった。
十六歳のクサンチッペの美しさもまた、ヴァン・トゥルクとチャン・ターイーを驚かせた。
運命の人に出会った。チャン・ターイーは、そう思った。
そして、クサンチッペも同じことを感じていた。
翌日、パウロが都に到着した。