正体
「すいません!」
大きな音を立てて事務所の扉が開いた。
そこには二十歳位の可愛らしい女が立っていた。
「ここ探偵さんの事務所ですよね?依頼があって来たんですけど」
女はそういうと俺の前のソファーに腰を下ろした。
「いきなり来て何だ?一階に受付が居たろ、あいつに話をしたのか?」
「誰も居なかったですけど」
そうか…休憩中か…
「とにかく、急に来て依頼とはな…俺も忙しいんだ今度にしてくれ」
喋りながら便箋をスーツのポケットにしまい電子タバコを咥えた。
「何もしてないじゃないですか、暇だったんでしょ?というかこの部屋失礼ですけど汚いですね」
何だこいつは、急に来て部屋が汚いなんて言いやがって、まあ汚いが…こいつの依頼は断ろう。
「お嬢さん、まず俺は暇じゃない。そしてこれは汚ないんじゃなくて必要な所に必要なものがきちんと置いてあるんだ。汚いと思うのは君の固定観念だ。俺には整頓されてるように見える。それじゃ帰ってくれるかな?」
俺は立ち上がり女の腕を掴み扉の前に連れて行った。すると女は腕を振りほどきうつむいた。
「兄が帰って来ないんです…」
女の頬には涙が溢れていた。
「それは警察の仕事だろう」
「もう警察には行きました、でもまともに取り合ってくれなくて、もう頼るところがなくて…」
そのまま女はしくしくと泣き出した。
「分かった…とりあえずそこに座れ、詳しく話を聞かせてもらおうか」
俺と女はテーブルを鋏んで対面するように座った。
「そういえば名前を聞いてなかったな名前は?」
「名前…あんどう…安藤ニコです。あなたは?」
「俺は斎藤仁だ。よろしくな、じゃあ話を聞かせてくれ」