どうしても王妃になりたい公爵令嬢の敗北
『どうしても平民になりたい王太子の計画』のシャーロットsideです!
どちらから読んでいただいても構いません。
どちらも読んでいただけると、作者が飛んで泣いて喜びます...。
「シャーロット・レーベル公爵令嬢!あなたとの婚約は破棄させてもらう!そして、私はこの可憐なルルリア・ウィング子爵令嬢と婚約する!」
パーティーを楽しんでいた私に、耳を疑うような言葉を放ったのは、我が国の王太子であるアルフォンス・ミラルディア様でした。
水を打ったような静けさが辺りに広がります。
「申し訳ありません、殿下。状況が上手く飲み込めないのですが、私は、殿下のお気に触る様なことをしてしまったのでしょうか?」
誰が聞いたって私がそう思うのも無理はないと思うでしょう。
一生に一度の卒業パーティーの最中で、両陛下と宰相夫妻である私の両親は来ていませんが、この国の重鎮たちが多く集まる中での婚約破棄と新たな婚約の宣言。しかも、お相手が学園でも悪い意味で有名なルルリア様だからなおさらに。
確かに、殿下がルルリア様に熱をあげているという噂も有名でしたけど、殿下のことだから何か考えがあってのことかと思っていました。
殿下は、昔から人の上にたつ資質がおありでしたし、何事にも秀でている方で人を見る目もありましたから。
「貴様、しらばっくれるつもりか!こんなに可憐なルルリアを苛めたこと、忘れたとは言わせんぞ!」
ああ、昔の殿下はどこにいってしまわれたのでしょう。
ルルリア様が可憐なんて、殿下の目は綺麗なガラス玉にでもなったのかしら。
そもそも、ルルリア様を苛めた?そんなことをした覚えはありませんわ。
ちらとルルリア様の方を見ると、ルルリア様は殿下の腕にしがみつきました。
「シャーロット様、どうしてそんなに私を目の敵にするんですか?私が殿下に愛されているから嫉妬してるんですか?女の嫉妬は醜いですよ!」
えっと何を言ってるんですの、この方は。階級が上の者に対する言葉ではありませんわ。不敬にも程があります。本当に貴族なのか疑ってしまうわ。
なぜ、殿下はルルリア様を選ばれたのでしょう。
その疑問が私の頭にふと浮かびました。
私では駄目なのでしょうか。幼いころから、将来殿下の隣に立って恥ずかしくないように血を吐くぐらい厳しい王妃教育にも耐えていますのに。
そう思ったその瞬間、私は一つの考えにたどり着きました。
もしかして、私がここで婚約破棄されたら、あの意味がわからないくらい辛い王妃教育が無駄になってしまうのでは?
...許せません。
婚約破棄を認めるわけにはいきませんわ。それに、やってもいない罪を被る気もさらさらございませんし、真っ向から対立させて頂きます。人生をかけたこの勝負、受けてたちますわ!
王妃になるのは、この私です。
「ルルリア様、その発言は不敬に当たります。即刻改めて下さいませ。それに、貴女を苛めた、という記憶はございません。どなたか他の方とお間違えなのではなくって?」
「まあ、どこまで酷い方なの!自分の罪を認めないなんて!それに、私は未来の王妃よ!たかが公爵令嬢のくせに不敬なのはそっちじゃない!」
皆様が信じられないものを見たかのようにルルリア様の方を見ています。
一瞬幻聴かと思いましたが、皆様の様子を見る限りそのようではなさそうですね。
はあ、婚約がまだ正式に決まったわけでもないのに、未来の王妃ですって?それに、たかが公爵令嬢?
あなたはまだ未来の王妃でもなければ、たかが公爵令嬢より3つも下の階級の子爵令嬢なんですが?ものすごく不愉快ですわ。
「そうだぞ!未来のこの国の王妃に対するその態度。貴様は本当に見下げ果てたやつだ!貴様がおとなしく自分の罪を認めれば情状酌量の余地を与えてやってもよかったのにな!無様なやつめ!ああ、安心してくれ、ルルリア。君のことは俺が守るよ。」
「アル、あなたは本当に素敵な人だわ...。」
これ、なんの茶番ですの?鳥肌がたちそうですわ。
二人とも完全に自分達の世界にはいっているようですけど、ここにいる殆どの方があなたたちに対して軽蔑するような視線をむけているのに気づかないのかしら。
皆様も貴族の制度を理解していない殿下とルルリア様に言いたいことが沢山あるのでしょう、表情を見るだけでそれがひしひしと伝わってきます。
お任せください、皆様が言いたいことは私が代弁いたします。
「未来の王妃と申しましたが、まだ口上だけで書類上での正式な婚約破棄が行われていない以上、殿下とルルリア様の婚約は成立しておりませんので、現段階での未来の王妃は私です。そして、仮に殿下とルルリア様が婚約されていて未来の王妃がルルリア様だったとしても、婚約段階ではルルリア様がたかが子爵令嬢であることは変わりません。殿下は、これほどのことまでわからなくなってしまわれたのですか?それと、先程から私の罪と申しておりますが、一体何のことです?詳しい内容を説明してくださいませ。」
言ってやりましたわ。
さあ、存在しない私の罪とやらを言って貰おうではありませんか!
「ふん、白々しいやつめ。いいだろう。ここにいる全ての人に、お前の悪行を知らしめてやる!貴様は俺の愛するルルリアに対し、ことあるごとに罵詈雑言を浴びせ、この前の夜会ではドレスにワインをかけたそうではないか!そのような者は俺の妃としてふさわしくない!俺の妃にはこの可憐でとても優しいルルリア嬢がふさわしい!」
「やだぁ、もう、アルったら」
殿下が私を睨み付けます。ですが、そんなことで私は怯みません。
頭のなかで情報を整理します。
罵詈雑言を浴びせた記憶はありませんが、ワインをかけたというのはあの時のことでしょうか。あのことを、私がワインをかけたと言うにはいささか無理があるのでは?
まあいいです。あなた方の嘘、一つ一つ潰して差し上げましょう。
「殿下、ルルリア様、もう少し詳しく内容を説明して下さいませ。罵詈雑言とはどのような内容か、私どうしてもルルリア様に罵詈雑言を浴びせた、という記憶は無いのです。」
「まだしらばっくれるつもりなんですか!酷いです!大体、ちょっと私がアルとか他の男の子にくっついただけで『婚約者のいる殿方にベタベタくっつかないで下さい』とか、私がアルと一緒に食堂でご飯を食べている時に『そこは王族とその婚約者専用の席です。貴女が座って良いところではありません』とか、他にもいろいろ――」
ルルリア様が罵詈雑言の内容について喋っていきます。
ええと、どこが、罵詈雑言なのか教えてほしいくらいですわ。私が悪いとは思えません。
婚約者のいる男性にベタベタとくっつく人に対してはしたないと注意することや学園の決まり事を守れない人に注意することは、悪いことなんでしょうか?
「ルルリア様の言い分はよくわかりましたわ。ただ、今のを聞いても私は自分が悪いとは思えないのです。ねえ、皆様もそう思うでしょう?」
周りの方にそう尋ねると、皆様私に同意してくださいました。
ルルリア様が表情を歪ませます。
「嘘だわ!さては、あなた仕組んだわね!」
仕組む必要など、どこにあるというのでしょう。
普通の貴族の方でしたら、あなたがおかしいと思うはずですわ。
「そのような事実はございません。これでも殿下は私が悪いとお思いになりますか?」
「アルは私のこと信じてくれるわよね!?」
ルルリア様が凄い形相で殿下に詰め寄ります。
そんなルルリア様を見て、殿下は少し考えているようでした。
「俺はルルリアのことを信じてるよ。だけど、今のは罵詈雑言ではないな。他に言われたことはないのか?」
「ひどいわ!アルも私のことを信じてくれないのね!」
「いや、信じているさ、俺のお姫さま。そうだ、ドレスにワインをかけた件はどうなんだ、シャーロット嬢。」
殿下の様子が急に変わって、少し驚いてしまいました。
まあ、殿下にまだ常識があってよかったということにしておきましょう。
それにしても、先程から何か違和感を感じますわ。まるで何かに手のひらの上で転がされているような。
いえ、気にしすぎね。まだ勝負は終わっていないのだから、引き締めていきましょう。
「確かに、ルルリア様のドレスにこぼしたワインは私のものですわ。」
「じゃあ、やっぱりシャーロット嬢が――」
「ですが、ワインをかけたのは私ではなくルルリア様です。あの時、ルルリア様が私のワインを持っている方の腕を急に掴んで、自らワインをドレスに溢したのですわ。」
「なっ!?そんなの嘘に決まってるじゃない!証拠はどこにあるのよ!」
確かに、証拠がないと証明はできないわね。
痛いところをつかれたわ。あの時は誰も居なかったから証言もないし、物的証拠も何もない。
どうしましょう、このままだと王妃になれなくなってしまう。私の今までの苦労が水の泡に...。
「大丈夫だよ、ルルリア。知っていると思うけど未来の王妃である王太子の婚約者には、常日頃から監視がついているんだ。映像記録魔道具というね。それがきっとルルリアの無実とシャーロット嬢の罪を明らかにしてくれるよ。」
映像記録魔道具!その手がありましたわ!
殿下のお言葉を聞いて、ルルリア様の顔色が悪くなります。
「映像記録魔道具...?そ、そんなの知らない...。」
映像記録魔道具のことを思い出すなんて、殿下はやっぱり慧眼ですわ。
ですが、先程から何か違和感を感じますわね。態度があまりにも変わりすぎではないでしょうか。怪しいですわ。
まるで殿下の手のひらの上で転がされているような気がします。
いえ、考えすぎですわね。
そう。映像記録魔道具さえ視聴できれば私の勝利は確実!ですから。
ああでも、映像記録魔道具は王と宰相の許可がないと見れないですわ。
「お言葉ですが、殿下。映像を見るには王と宰相の許可がでないと見れませんわ。」
私がそういうと、殿下は少し微笑んでいるように見えました。
バタンと扉が開きます。そちらを向くと、そこに居たのは両陛下と私の両親でした。この場にいるルルリア様以外の貴族が最上級の礼をとります。
「一体何事だ。祝いの場で何をしている、アルフォンス。」
陛下がそう問うと、殿下は陛下の前に行き少し芝居がかったような感じで喋り始めました。
「陛下、私はシャーロット・レーベル公爵令嬢との婚約を破棄し、ルルリア・ウィング子爵令嬢と婚約を結びました。そして、今は未来の王妃である我が愛するルルリアを苛めた罪で、シャーロット・レーベル公爵令嬢を断罪しているところにございます。」
殿下の言葉に陛下たちが不信感を持っているのがありありと伝わってきます。
「言葉で説明するにも限界がありますゆえ、皆様に今の状況を克明に伝えるためにも、シャーロット嬢についている映像記録魔道具の視聴許可を頂きたく思います。」
殿下が頭を下げたのにならって、私も頭を下げます。
「私からもお願いいたしますわ。」
殿下が頭を下げたのにならって、私も頭を下げます。
「私は許可を出しましょう。陛下はどうなされますか?」
「うむ、やむを得まい。私も許可を出そう。」
陛下とお父様が許可を出して下さったので、皆で映像を見ます。
まず、先程までの経緯を流したあと、あの夜会の映像を流しました。もちろん、そこには私が言った通りの映像が映しだされています。
「嘘!こんなの嘘よ!きっと、あの女が改竄したに決まってるわ!」
ルルリア様、まだ食い下がるのですね。改竄など出来るわけないでしょうに。
「王と宰相の許可がでないと見ることが出来ないのに、どうして改竄することができるのです?潔く、ご自分の罪をお認め下さいませ。」
「ルルリア、どうしてそんな嘘をついたんだ。俺は、今まで何を信じてきたんだ...。」
「ひどいわ!アル、どうして信じてくれないの!?」
殿下の目も覚めたようです。ルルリア様がすがっていますが、見向きもしていません。
ふふふ、これで私の勝利は確実ですわ!
私が勝利を確信していたときに、陛下とお父様がルルリア様の前に、王妃様とお母様が私の隣に移動していました。
「ルルリア・ウィング子爵令嬢、うちの愚息が随分お世話になったみたいだな。実はそなたには、いやそなたの家にはある罪があってな。そなたもよく知っているだろう。宰相!」
ルルリア様の家の罪?
そっと殿下の顔を伺いますが、何も動じていません。
「はっ!ただいまよりウィング子爵家の罪状を述べる。ウィング子爵夫妻及び令嬢は、隣国と通じ我が国にとって不利となる情報を流した諜報員であった。これは、王に対する立派な反逆罪である。よって、彼らを北の塔にある牢屋にて生涯幽閉、ウィング子爵家はとり潰しとする。これは、王命であるからして、反論は認めない!衛兵!ルルリア・ウィングを捕らえよ!」
「ちょっと、何すんのよ!」
ルルリア様の抵抗も空しく、衛兵達に捕らえられました。
まさか、ウィング子爵家の方々が諜報員だったとは、気づきませんでしたわ。国を裏切った者にとっては入れられて当然でしょうけど、北の塔に幽閉なんて貴族として生活してきたならば絶対に耐えられない場所です。
あら、まだ何かあるのでしょうか?陛下がもう一度ルルリア様に語りかけます。
「そして、ルルリア・ウィング元子爵令嬢。そなたにはまだ罪がある。そなたは、身分が上の公爵令嬢に対して不敬をはたらき、この場にいる全ての者に対して虚偽を申告した。つまり、不敬罪と虚偽申告罪に問われている。前述の罪と合わせ、私はこれ以上そなたを生かしておくわけにはいかないと判断した。よって、ルルリア・ウィングを死罪とする!」
会場が一気にざわめきます。
まさか、ルルリア様に死罪という判決を下すなんて...。
「死罪ってどういうことよ!?ゲームと違うじゃない!バグってんじゃないの!?ちょっと、判決を変えなさいよ!たかがモブのくせに、ヒロインに歯向かってんじゃないわよ!」
ルルリア様が陛下にむかってよく分からないことを言っています。
陛下は全く動じずに、冷たい目をルルリア様にむけると衛兵に指示を出しました。
「衛兵、連れていけ」
「いやっ、ちょっと離して、離しなさいよ!モブのくせに!ベルリオール様が私を待ってるのよ!私は、ヒロインなのよ!もうどうしてっ、ちゃんとシナリオ通りに動いたのに!」
ルルリア様が衛兵に連れられていきます。きっと、王城にある牢屋に入れられるのでしょう。
これで、私の勝利ですわね。王妃の座は私のものです。
あらなんでしょう、殿下が私の方に近づいてきますわ。
「シャーロット嬢。本当にすまなかった。俺はあなたに何て酷いことを。どれだけ罵声を浴びせてくれてもかまわない。」
殿下は正気に戻られたのですね。
それにしても、殿下に罵声を浴びせるなど出来るわけがないではありませんか。
いつもよりいっそう優雅に微笑みます。
「いえ、いいのです。殿下が正気に戻ってくれたことが、何よりも嬉しいのですから。」
私の言葉を聞くと、次に殿下は私のお父様とお母様の方を向き、頭を下げました。
「レーベル公爵夫妻、私はあなた方のご令嬢に対して取り返しのつかないことをしてしまった。本当に申し訳ない。」
「頭を上げて下さいませ、殿下。他ならぬ娘本人が許しているのです。私たちが怒る訳にもいかないでしょう。」
「いや、私は言いたいことがたくさんあるのだが」
せっかくお母様が私の意見を尊重してくださったのに、お父様はまた空気の読めないことを。
「あら、私と娘の意見に反対するとおっしゃるのですか?」
お母様がお父様に向けて少し威圧感のある微笑みを向けました。
「い、いや、何でもない。ゴホン、殿下、私も妻の言う通り娘の意見を尊重します。」
お父様、表情と言葉が一致していませんわ...。あ、お母様に足を踏まれました。もう、皆様の前で喧嘩しないで下さいませ、恥ずかしいです。
お父様とお母様から目を離して殿下を見ると、殿下は陛下の前に跪いていました。
「陛下、お願いしたいことがございます。」
「よい、申してみよ。」
「ありがとう存じます。私はこの度の件で、隣国の諜報員にまんまと騙され、卒業パーティーという祝いの場を潰した挙げ句、シャーロット・レーベル公爵令嬢を大勢の前で辱しめました。その罪は到底許されることではございません。ですので、私は王太子という立場を辞退し、貴族籍を抜け、平民として生活しようと思います。」
え、王太子の辞退!?それに、貴族籍を抜けるですって!?
そんなことになったら、私の王妃教育の意味がなくなってしまうではありませんか!
私は、怒りに身を任せて殿下の前まで行きました。
「殿下!何を言っておられるのですか!王太子の辞退どころか貴族籍を抜けるなんて!」
「シャ、シャーロット嬢?」
「あなたが王太子を辞退することは、私認めたくありませんわ!あなたは人々の上に立つ資質が誰よりもあるのです。そんなあなたにふさわしい王妃になろうと思ってここまで頑張ってきたのに、私の長年の王妃教育を棒にふるおつもりですの!?」
「シャーロット嬢、少し落ち着いて」
「落ち着いてなんていられませんわ!大丈夫ですよ、殿下。たった一度の過ちくらい心の広い皆様なら許してくれますわ。さあ、王太子を辞退するなんて馬鹿なことは言わないで下さいませ!」
「いや、表面上では許されたとしても一生醜聞はつきまとうだろう。それに、私自身が皆に顔向け出来ない。シャーロット嬢なら王妃として十分ふさわしいし、弟の第二王子の婚約者にするというのはどうだろうか?」
第二王子殿下の婚約者ですって?6つも年下ではないですか!
そもそも、私の王妃教育があそこまで厳しくなったのは、あなたが王太子として凄く期待されていたからなのですよ!あなたが王太子として、将来の王として誰よりも厳しく育てられていたから、私が隣に立って恥ずかしくないようになるには今までのどの王妃よりも厳しい教育を受けなくてはならなかったのです!私があなたの王としての資質に魅いられなければ、王妃教育を厳しくしてほしいなんて言わなかったのに!
あなたの隣で王妃になれないのならば、いくら王妃になったって私には意味がないのです。
「殿下、私を馬鹿にしてますの?私はただの王妃になりたいのではなくて、あなたが王になって隣で支えられる王妃になりたいのです。言ってしまえば、私は殿下の資質に惚れこんでいるのです!」
ああ、言ってしまいました。殿下がこれで少しでも考えを改めてくれないでしょうか...。
「シャーロットがそこまで言ってくれるのはありがたいが、もうこれは決めたことなんだ。俺は全ての責任をとって平民になる。」
まだ、駄目なのですね。殿下は頑固ですわ。
「嫌ですわ。悪いのは全てあの女でしょう?殿下が責任をとる必要などありません!憂うことはありませんわ!さあ、発言を撤回してくださいませ。」
私がそう言うと、一瞬沈黙がうまれました。
ですが、次の瞬間、凛とした声が響きました。
「いい加減になさい!先程から見苦しいですわよ。淑女たるもの、いついかなる時も美しく振る舞いなさい!」
「王妃様の言う通りですわ、シャーロット。あなたの意見はわかりましたが、それは通りません。殿下が王太子を辞退するのは当然のことだとあなたも本当はわかっているのでしょう?殿下もそれをわかっていて、陛下にお願いするという形で、貴族としての矜恃を貫こうとしたのです。それをあなたが踏みにじってどうするのですか。淑女として、背中を押してやるくらいの甲斐性をみせなさいな!」
王妃様とお母様の言葉を聞いて、少し落ち着いて考えてみました。
確かに、これだけの騒ぎを起こしておいて、王太子を辞退しないというのは反対する貴族が沢山でるでしょう。ただ、平民になりまではしなくていいのではと思いますけど...。
ああ、取り乱してしまって恥ずかしいですわ。落ち着いたらやっと、皆様がどれだけ動揺していたかわかりました。
不満はありますけど、お母様の言うとおり、殿下の背中を押して差し上げましょう。
今までの謝罪の意もこめて、皆様に淑女の礼をとります。
「王妃様、お母様。わかりましたわ。皆様、お見苦しいところを見せてしまい大変申し訳ございませんでした。そして、アルフォンス殿下。私、あなたが作る国をあなたの一番近くで見られることを、本当に心待ちにしておりました。ですが、その願いは叶わないのですね。」
祈るように指を組みます。
「あなた様の行く末にどうか幸多からんことを。」
私の王妃教育を無駄にした分はせめて幸せになって下さいませ。
「ありがとう、シャーロット嬢。陛下、私の願い、受け取ってはもらえないでしょうか?」
「アルフォンス、本当にそれで良いのだな。」
「ええ、もちろんです。」
殿下の答えに、陛下が重々しく頷きました。
「あいわかった、承諾しよう。皆の者聞いてくれ!我が息子アルフォンスは、此度の責任を取り王太子の座を辞退し、貴族籍を抜けて平民へと下ることになった!それにともない、王太子へは第二王子のクリストファーに相続ことにする!」
この場にいる全員が陛下に対して最上級の礼をとります。
こっそりと殿下の表情を盗み見ると、殿下の表情は喜びに満ちていました。
ん?喜び?なぜ?平民になるのを喜んでいるということ、ですの?貴族にとって平民になるのは喜ぶことではないですよね?
頭の中で、先程から感じていた違和感と殿下の表情がぐるぐるとしています。
そして、私は気づいてしまいました。
もしかして、殿下は最初から平民になりたかったのでしょうか?そうなると、今までのことは全て平民になりたい殿下の計画だったということなのでは...?
ああ、きっとそういうことですわ。
本当の敵はルルリア様ではなくて、殿下だったということですか。
私の完全敗北ですわ。
「さあ、卒業パーティーの続きをしよう!そんな気分ではないかもしれぬが、卒業生にとって一生に一度の卒業パーティーをこのまま終わらせるのも嫌だろう。だから、今だけは先程のことを忘れて楽しもうではないか!」
陛下がそう声をあげた後、もう一度パーティーをやり直しました。
殿下と最後のダンスを踊ったり、友人たちに詰め寄られてなぜか情熱的な告白でしたと言われたりしましたけど、今までのどのパーティーよりも楽しかったですわ。
その後、私には婚約者がいなくなったのでいくつか縁談がきました。一人一人とお会いしたのですが、どうしても殿下と比べてしまって...。殿下の方が聡明でしたとか、殿下の方が気配りが上手でしたとか。とにかく、どの方とあっても殿下の方が素敵に見えるのです。
それをお父様とお母様に相談したところ、お母様にそれは恋ねと言われました。ちなみに、お父様は般若のような形相で血の涙を流しておりました。
私、どうやら失って初めて殿下をお慕いしていると気づいてしまったようなのです。
それに気づいてからは、誰かと新しく婚約しようなどとは考えられなくなってしまいました。家のためにも結婚しなくてはいけないとわかっているのですが耐えられないのです。
だから私、家出することにしたのですわ。
計画を立て、ちょうどお父様が家にいない日の早朝を狙って決行することにしました。
そして、決行当日。髪を風の魔術で短く切り、顔の雰囲気を変えるようにいつもとは違うメイクを施し、ローブを着て計画を実行します。ことは計画通りに進んでいきましたが、家を出ようとしたちょうどその時、後ろから声をかけられました。
「シャーロット、こんな朝早くからどこへ行くの?」
え、お母様!?なんでここに...?
もう、正直に言うしかありませんわよね。
「お母様、私、家出しますわ。今までありがとうございました。」
お母様の様子をそっと伺うと、お母様は笑顔でそこに立っていました。
「行ってらっしゃい、シャーロット。お父様には私から上手く言っておくわ。」
反対されると思ったのに...。でも、きっとお母様に私の心はお見通しなんでしょう。自然と顔が綻びました。
「お母様、行って参ります!」
「たまには手紙を送るのよ」
「もちろんですわ!」
お母様に見送られて、朝の町へと歩き出しました。嬉しいことに、王都にある屋敷から町までは歩いて一時間くらいしかかからないので、ダンスで鍛えられた私の脚力ではどうってことない距離でしたわ。
ひとまず、生活を安定させるために仕事を探しましょう。
そう考えていた私の目に飛び込んできたのは、冒険者ギルドでした。
はっ!そうですわ!私、冒険者になりましょう!魔術は得意な分野ですし、魔物を倒すことに忌避はかんじませんから!
そうと決まればと、早速冒険者ギルドに入って、受付の女性に話しかけました。
「すみません、冒険者に登録したいのですが。」
「歓迎するよ!ついさっきも登録したいっていう人が来てね、今から必要な説明をするところなんだ!そうだ、良ければ二人まとめて説明してもいいかい?」
「ええ、大丈夫ですわ。」
「じゃあ、今から説明するから着いてきて!」
受付の女性についていき、ある部屋の前まできました。
「ちょっと待っててくれるかい?もう一人の子にも許可をとるから。」
それに了承した後、どうやら許可が取れたようなのですぐに呼ばれました。
もう一人の方とはどのような方なのでしょう?仲良くしてくださると嬉しいのですが...。
そう期待をこめながら中に入ると、そこには見間違えるはずのないあの方が。
「アルフォンス殿下...?」
私がそう言うと、殿下は驚いておられるようでした。目の色が違いますが、あれはまさしく殿下ですわ。
殿下は私をじっと見ると、信じられないというような顔をして言いました。
「シャーロット、嬢?」
この後、私は殿下、いえアルフォンスとパーティーを組むことになって、そこそこ有名な冒険者として活躍しました。処刑されたはずのルルリア様が魔王として私達のまえに立ちはだかったり、アルフォンスに変な虫がつかないよう牽制したり、最終的にアルフォンスが私を選んでくれて結婚することになったりしました。
人生をかけた勝負には敗北しましたが、私は今、幸せです。
お読みいただきありがとうございます!
前作同様、今作の主人公の紹介を...
シャーロット・レーベル
才能と努力の人。幼少期よりアルフォンスの人の上に立つ資質を見抜いており、将来隣に立って恥ずかしくないようにわざわざ王妃教育を厳しくしてもらった。実はこのときからアルフォンスに惚れていた。アルフォンスに再会した後は、今度こそ逃すまいと猛烈アタックをかまし見事勝ち取った。銀髪に若葉色の瞳をした涼やかな美貌をもつ女性。
実は、『私は不敵な諜報員~ターゲットとのラブロマンス!?~』という乙女ゲームの悪役令嬢。
次は、ルルリアsideを出そうと思っていますので、良ければもう一作お付き合い下さい。