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未成年戦争とその真実  作者: 如月 蓮
第1章 怒涛の新政策
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第1章 2話 『対なす転入生』

 ーーキーンコーン、カーンコーンーー


 おなじみのチャイムが鳴る。ホームルームの合図だ。

 2025年9月1日。公立三原第一中学の2学期の始まりの日。

 颯那と、楓の編入の日でもある。

 30代手前である1-2クラス担任小波 雪は、始業式の数十分前にとんでもを校長に告げられ、教卓の前にしてこの荒くれ者が集うクラスにどう話を切り出すか教室の扉で頭を抱えていた。


「転入生、ですか。」


 校長から告げられた話は2学期から転入生が来る事だった。

 それ自体に大した驚きはない。2学期からの転入生などメジャー中のメジャー。


ーただ、始業式開始数十分前に告げられる事ではないだろう。そこには多少の驚きを感じた。

 通常、2学期の転入となれば夏休み中に保護者と生徒、教頭や校長、転入するクラスの担任と話し合いを密に交わしてようやく取り決めるものだ。

 ましてや、転入するその日に当の担任に話すようなことではない。

 しかし校長の次の言葉で全て納得した。


「その転入生は13歳で警察官だ。それも2人。」


 ということは今年から導入された新政策をこの日本で今最も治安の悪い学校三原第一中で使うというのはごくごく普通で納得できた。


ー「しかしなんで私のクラスなんですか?」


 小波 雪は年齢29歳ではあるが、今年からの新採用である。

 前職は普通のOL。社内のいじめに遭い、逃げるように学生時代取った教員免許を使って中学教師になった。

 そんな新人教師に与える仕事にしては荷が重すぎる。


「分からないが本部長官からの指名だ。良かったな。」


ーー「よ、よくないよーー!」



 と、叫んでやりたかった。小波ははぁぁと気の抜けたため息をつき、隣にいる2人の転入生に喋る。


「じゃ、じゃあ私が最初に他の生徒に話すから、合図したら入ってきてね。」


 なぜか緊張してしまう。若干13歳の子供2人になぜこんなに緊張するのか。


「はい。お心遣い感謝いたします。先生も不安な点が多くて大変だと思いますが、くれぐれもご自愛くださいね。」


 わざとらしいくらい上品な言葉使いと態度で応対する少女の方の転入生。

 小波は感激する。この様な少女を純粋なままにする事が教師の使命なのだと思い、気を引き締める。そして


「楓君もよろしくね!これから色々大変だろうけど、何かあったら言ってね!」


 さっきの緊張を消し、少年の方の転入生にも精一杯の笑顔で言葉をかける。

 しかし当の少年はギラリと小波を睨み、低い声で言った。


「気安く名前呼んでんな。ぶっ飛ばすぞ。」


「え、」


 小波はとにかく理解が追い付かない。今まで1学期丸々いわゆる不良と呼ばれる生徒とも接してきたが、ここまで口の悪い生徒はいなかった。

 ましてや初対面で曲がりなりにも警察官という職を持っている少年がこの様な言葉使いをするものなんだろうか。


ーいや、ツンだ。初めてで緊張して思ってもない言葉が出てしまったのだと切り替え、一応の整理をつける。


「とりあえず先に私がみんなに紹介するから声を掛けたら入ってきてね!」


 屈託無い笑顔をもう一度作り、2人の転入生に投げかける。

 しかしその言葉を少年の方がバッサリと切りかかる。


「さっき聴いたから。良いからさっさといけよ。」


ーー怖い。


ーガラガラー


「みんなホームルーム始めるよー席についてー。」


 顔は引きつったままだがそれでも笑顔を作り生徒達に声掛けする。


「うるせー!」


「黙れー!」


 多数のヤジが返ってくる。もう今日だけで心が折れてしまいそうだ。

 しかしその不良達も次の小波の声で驚く程に静まる。


「今日から転入生が2人来ました!新しい仲間が増えます。仲良くしてね。」


 驚く程にヤジは止まり、不良の生徒達は一瞬静かになり、すぐさまザワつき始める。

 それもそのはず。普通転入生が入るなんて事は事前に生徒にも情報が入るものだ。なのに前情報が0だったのに動揺を隠せない。


「じゃあ入ってきて!」


 小波の合図で2人の転入生が教室に入る。


ーおお〜〜!

 少女の転入生皇 颯那の美貌に男子が歓声を挙げる。それ程に常軌を逸した颯那の美貌は常識の範囲外であった。

ーおぉ〜…お?あん?

 と言った声が次いで入った転入生排村 楓に浴びせられる。

 少女同様整った容姿ではあるが目つきは悪く、態度の悪さは自然と伝わって来るものだった。


「今日から皆さんと共に過ごさせて頂く、皇 颯那と申します。よろしくお願いいたします。」


 その気品溢れる佇まいと言葉遣いに小波がそうであったように教室の生徒も感動を覚える。

 暴言が飛び交うこのクラスで初めて出会ったであろうお嬢様の風貌。

 女子生徒の多少の嫉妬を買った形ではあったが、それ以上に颯那はクラスの信頼をある程度自分のものにした。

 次いで挨拶をしようと、楓が一歩前に出る。

 クラス中が颯那の次の挨拶という事もあり期待の眼差しを向ける。


ーだがそんな期待などあっさりと切り捨てるのがこの男、排村 楓である。

 生徒達に向かってふんっと鼻で笑い、直後強く言い放つ。


「デレデレこの女にどいつもこいつも鼻の下伸ばしてんじゃねーよ。」


 クラス中が呆気にとられる。颯那が小声で


「ちょっと….よしなさいよ。」


 と声をかけるがそれを無視して楓は続ける。


「ゴミの集まりと聞いていたがここまでだったとはな。まぁせいぜい俺の迷惑にならないように過ごせや。よろしく。」


ーーやってしまった。ーー


 颯那と小波はお互い不安にしていただろう事が目前で起きて頭を同時に抱えて震わせる。

 瞬間とんでもない罵声が楓にかかる。


「なんだとゴラァ!」


「テメェかかって来いや!」


「ツラ貸せテメェ!」


 タチの悪い罵声を多数浴びながらもニヤニヤと不敵な笑みを浮かべたまま、空いてる席に勝手に楓は座る。


「じゃ、じゃあえっと…あそこの席に颯那さんは座ってくれるかな…」


 小波はもう完全に心が折れていた。大変なクラスに更に大変過ぎる転入生。

 これでは昔の職場の方が良かったのではとすら思う。

 しかし、


「申し訳ありません。あいつには私からよくよく、伝えますので。」


 悪くないはずの少女が申し訳なさそうに頭を何度も下げる。

 あぁこの子がいて良かったと小波は心の奥底から思う。彼だけが転入生出会ったらまた職探しをする羽目になっていたであろう。

 この少女を純粋なままにする為に私はこの仕事を続けようと小波は決心し直す。



ー多数の罵声が飛び交い、楓が完全なアウェーな中、ホームルームを終了にするチャイムが鳴る。


ーキーンコーン、カーンコーンー

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