先輩インテルメッツォ
「なんか、ごめんね。おじいちゃんが変な要求を出してしてきちゃって……」
おじいさんとの会談後、三島さんも一緒に外へ出てきていた。
「いや、人生の目標を発見したと思えばいいよ。……大会っていつあるか知らないけど」
とりあえず三か月だけでも、三島さんは登れるんだ。
マジで俺、グッジョブだろ。
「まったく、川内は妙な約束をしたものだな。大会日程どころか、僕らはルールも知らないんだぞ。そもそも、壁だって昨日登ったばかりじゃないか?」
クソっ、他人の責任の下では好き勝手主張する人っているよね。
早川とか、早川とか!
「うるさい! とりあえず、三か月は登れるんだよ。三島さん。堀田先輩に頼んで明日からでも練習に打ち込めば、あるいは……」
「そもそも、結果を出すって抽象的だよな。三島のおじいさまは、最後まで自分で裁量できる余地を残すために、わざと曖昧に言ったんじゃないのか?」
「あー……」
た、確かに早川の言う通りかもしれない。
結果って、夏に(たぶん)ある大会で優勝しなくちゃ認められないのか?
入賞レベルじゃだめなのかな?
考えれば考えるだけ、三島のおじいさんにやられた感じがするぜ……。
いや、今一番頭を悩ませてるのは俺じゃないで三島さんだよな。
元気づけてあげなきゃ。
「大丈夫、三島さんの挑戦の前には、なんだって小さな目標に違いないよ。頑張ろうぜ!」
「頑張るって、何を?」
エールに対して、冷静に返答されるとヘコむよね。
「とりあえず、堀田先輩にいろいろ聞かないと、……って、あれ? 堀田先輩じゃないか?」
今まさに話していた堀田先輩が、俺らのほうへ向かって、遠くからフラフラと歩いて来るのが見えた。
「ちょうどいい、今聞いてみるか。おーい、堀田先輩!」
「待て、川内。あの人の様子、なんかおかしくないか?」
早川の言うように、どこか様子がおかしい。
いや、ぶっちゃけ元々変な人だった気もするけど、やたらと後ろを振り返っているし、表情も強張ってる気がする。
そのうえ堀田先輩は、かなり近づかないと、俺の美声に気づいてくれなかった。
「堀田先輩、どうしたんですか?」
「うわっ、……ああ。よかった、あなたたちだったの。よかった……」
「なんかあったんですか?」
「ううん、ちょっと驚いちゃっただけ……」
なんだろう、そんな単純なことには思えない。
まさか、俺の顔ってグロテスクなのか?
「堀田さん、憶えていますか? 早川です、また明日もクライミングジムに登りに行ってもいいですよね?」
「……ええ、もちろん! 見学だって受付で言えば、お金はかからないから……」
堀田先輩はそれだけ言うと、長居は無用とそそくさ帰ってしまった。
「なんだよ、ずいぶんと素っ気ないじゃないか」
「うむ」
怪しい。
堀田先輩は何か、俺らに隠し事でもあるんじゃないか?