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いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
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拒絶

 制服に着替え終わると、俺らはまた堀田先輩の周りに集まった。

「どうです、堀田さん。これから四人で打ち上げでもやりませんか? クライミングとあなたに出会えた記念に」

 早川もクライミングが気に入ったようで、新入生から先輩に新人歓迎の打ち上げを提案するという、妙な状況を気にもしていない。

 それと、最後の一言は何だい?

「うーん、……今日は遠慮しておこうかな? それに、これは……」

「えー! やりましょうよ、打ち上げ! 俺たちもう、入部決めましたよ?」

 早川に出し抜かれて、堀田先輩を奪われまいと必死な俺だが、気にしないぜ。

「おい、川内! 失礼しました、まだ子供なもので、堀田さんの都合も考えずに……。それと先ほど、何か言いかけませんでしたか?」

 すると、今までの明るさが嘘のように、堀田先輩の表情は曇っていった。

「えっとね、実はこれって、……部活でも、同好会でもないんだよね」

「へ、どういうことだ? 普通にポスター、学校に貼ってたじゃないですか?」

 俺が質問すると、堀田先輩は無理に笑いながら、

「部活っていうのも堅苦しくって、……同好会だと人が集まりすぎちゃうし。でも学園の誰かと一緒に登りたいし……」

 あー、なるほど。あれね。

 猫の愛情表現的な、相反する気持ちってやつだね。

「じゃあ、別に組織ってわけではないんですね?」

「うん、個人で好き勝手集まってきて欲しいなー、って思ってます」

 まあ部活とかだと、どうしても堅苦しくなっちゃうからね。

「俺もそのほうが、楽でいいですよ。ちっちゃいことは気にしないで……」

「でもでもっ! やっぱりやめたほうがいいと思う! クライミング!」

「……え?」

 出会ったときの歓迎ムードから一転した、この拒絶には三人とも動揺してしまった。

「どうしたんですか、突然? あれだけ誘っておいて……、変な意味じゃないですよ」

 今度は神妙な表情になると、堀田先輩は(俺をスルーして)しゃべりだした。

「それはね、……部活じゃないから、かなりお金がかかるの。高校生は、入会金に千五百円、年間会員パスが六万円。年間会員にならないと一日の利用料金が千円かかって、加えてシューズやハーネス、ロープにもそれぞれレンタル料が数百円かかって、毎日登るとかなりの額になっちゃうの。その道具を全部揃えるとなると、また三万円以上かかって……」

 次々と料金が言われるもんだから、総額でいくらかかるのか、段々わからなくなってきた。

 はっ!

 そもそも、これって新手の詐欺なんじゃないか?

 わざと俺らがやる気になったところで拒絶しておいて、意地を張るのを待ってから、俺らが断りにくい雰囲気の中で、定価よりも高い商品を売りさばくつもりとか……?

「しかも、ぜーんぶ税抜き価格!!」

 きゃー!!!


「私は、登れるならばどうでもいい」


 それでも、三島さんは堂々としたものである(さっきはあんなにビビってたくせに!)。

「……僕だって、金の問題はありませんよ」

 若干震え声で、早川もうなずいていた。

「でも、まだ自分たちで稼いでいないでしょ? ゆっくり、お父さんお母さんと相談してから決めてもらえばいいから……」

 結局、一度親に相談してみるということで堀田先輩と別れ、俺らは帰ることにしたのだった。



「最近、新入社員が飲み会に参加しないって言うけどさ、僕は反対だね。せっかく親睦を深めて、人脈を築くチャンスなんだから。それは高校生も同じで……」

 さっきは俺に注意したくせに、早川もよっぽど堀田先輩と打ち上げがしたかったのか、靴を取り出しながらオヤジ臭い小言をぶつくさ言っていた。

「打ち上げはともかく、俺らがクライミング始めますって言ったら喜ばないで、逆に沈み込んじゃったよな。それが、謎だった」

 そういえば、堀田先輩は名前すら訊いてこなかったな。

 まさか、俺らに興味ないとか?

「川内もそう思っていたのか。ポスター貼るくらいなら、人は集まって欲しいんだろうけど。ま、不思議ちゃんなんだろう」

「そうかなあ……。ねえ、三島さんはどう思う?」

「え?」

 急に俺が話を振ったものだから、通りに出ようとしていた三島さんは振り返り、横から歩いてきた女子高生たちとぶつかってしまった。


「いったぁ……」

「………………」

 

ちょ、三島さんなぜ無言!

 そりゃ、あんたは筋トレしてるから、人にぶつかっても動じないんだろうけど、相手は痛がってるでしょ!?

「あの、ごめんなさい! よく前を見ていなかったみたいで」

「え、人だったとか、電柱にぶつかったかと思っ……あれ、あなたたちって後楽学園?」

 三島さんが衝突したのは、どうやら俺らと同じ学園のJK三人組のようだった。

 そして、その中の真っ赤なカーディガンを着た、ちょっと気の強そうな感じのキレイなギャルが話しかけてきたのだった。

「もしかして、今まで堀田って人とクライミングしてた?」

「あー、はい。いかにも!」

「やっぱりねえ……」

 赤カーディガン氏はそう言うと、隣の紺のカーディガンを着たやつと、その後ろにこそこそ隠れている小さなおかっぱ少女に、嫌な感じの目配せをしていた。

 早川はこいつらと話す価値がないと見抜いているのか、まったく話に入ってこない。

「クライミングのこと、ちゃんと指導してもらえた?」

「はあ、……そういえば、道具の名前もろくに教わらなかったような。登り方の指導も特になくって、注意事項だけで自由……」

 すると突然、紺カーディガン氏が食いついてきた。

「やっぱり! あいつの指導が下手だったから、クライミング部だって廃部になっちゃったんだよ!」

「……クライミング部? ……廃部!?」


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