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いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
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先輩たちの過去

 とりあえず、俺らはストーカーを河川敷に引きずり出して、尋問を始めた。

「お前、堀田さんにケチつけたトリオの《おかっぱ少女》だろ」

 早川の言う通り、そいつは俺らが初めてクライミングをした日、ジムの前で三島さんがぶつかった三人のうちの一人だった。

 そのおかっぱ少女なんだけど、色素の薄い黒髪で、体のパーツは何かと小作りなのに、目だけは暑苦しいほどくるりと大きな、清涼飲料水のCMに出る女優的愛らしさを持っていた。

 つまり、……かわいい!

「なんで堀田さんをつけていた? 赤カーディガンの指示でスパイ活動でもしていたのか?」

「はわわ、い、いや、ちちち、違うんです! し、指示なんかありません!」

「てことは、自主的にストーカーになったのか?」

「そそ、そんな、あの、ストーカーなんかじゃ、な、ないです!」

 早川の尋問に怯えているせいか、おかっぱ少女は吃りまくっている。

 このやりとりを見ていたら、どうしてだろう? 俺の胸が高鳴って来た。

 よし、俺も責めてみよう(ゲス顔)。

「でも、あなたが後をつけてたの、俺らは全部見てましたよ? なんでも、去年からつけていたとか?」

「そ、それは……。しし、()(かい)の術で魂が抜け出しただけで、ただ……」

 言い訳に、聞きなれない術名を出してきたぞ。こいつ、さては中二病だな?

「ただ、どうしたんですか?」

「す、すす、好きなだけで……」

「キマシタワー!」

 なんだ、こいつは単なる百合だったのか!

「ちち、違うから! わ、私が好きなのは、……その、クライミングで……」

 赤カーディガンの仲間なのに、クライミングが好き? なんか展開が変わったぞ。

「じゃあ、アンタは何をしていたの?」

 三島さんは、首根っこを(いい加減離せばいいのに)つかみながら質問した。

「その……、あ、あの三人組から、ぬぬ、抜け出して、また堀田先輩と登りたいな、って」



 おかっぱ少女は三島さんから解放されると、まずは思う存分呼吸していた。

「よし、トリオの差し金じゃないのなら人格を認めてやる。名前は?」

 早川は相変わらず高圧的な態度だけど、この人はリボンの色を見ると二年生のようだ。

「わわ、私は、か、加藤すみ、……です」

 すみ! なんか、おばあちゃんの名前って感じ。シワシワネームってやつだね。

「では、加藤さん。クライミング部ってあったのか? なんで廃部に? 堀田さんがなんで嫌われているんだ? お前らは何をしたんだ?」

「うう、一度に訊きすぎ! す、少し長くなっちゃうけど……」

 そう断ると、加藤先輩は俺らの知らない、堀田先輩との過去を訥々と語ってくれた。

 ――それによると、今から一年前、つまり加藤先輩がキャピキャピの新入生のころ、クライミング部はあったそうだ。正確に言うと、できたばかりだったそうだ。

 なんでも、堀田先輩は高校に入ると同時に、クライミング部を創部しようと奔走していたらしく、一年かけて念願を果たしたらしい。

 創部までに、どうして一年もかかったかというと、学校のマネーでクライミングウォールを買うか、否かでもめたらしく、結局建設に乗り気だった学園長以外の役員は壁の建設に反対して、クライミングジム・よしこを部活で使うことにしたんだって。

 もちろん、部活だから学校の資金援助もあって、年間会員パスや道具代に煩わされることもない、うらやましい環境だったそうだ。

 ま、学費がぶっ飛んでるんだから当たり前だけどね。

 で、そのクライミング部に加藤先輩を含めた例のトリオと、男子部員も五、六人入部したそうで、部員もそこそこ集まり出だしとしては好調だったらしい。

 ただ人数は集めても、それがいい人間だけとは限らない。言わずもがなだけど、赤カーディガン氏が中心となって、何かと堀田先輩に口出ししていたらしい。

 彼女は「私的には、みんなと和気あいあいとやりたいから、レベルの差が出てくるのはよくないっていうか。マジ平等でいたいんで、堀田先輩、下手な人の指導を重点的にしてもらっていいっすか?」という、高尚な博愛精神を部内に持ち込むことを目指していたようだ。

 それにしても、競争が基本のスポーツの世界に平等とは!

 もちろん、彼女の言う平等とは弱者を助けるためなんかじゃない。

 ただ、自分のプライドを守るために、上手な者を引きずり降ろそうという、自分勝手なものだった!

 そして彼女は博愛精神に則って、男子であろうが自分より登れるものには「スポーツは休息が重要だよ♪」と、クライミングジムから追い出し、レベルの平等化を図った。

 ただ残念なことに、部内で最も下手だったのは、その赤カーディガン氏自身だった!

 そんな下手くそにとやかく言われるのはうるさいし、かといって反発するとより恐ろしいので、男子部員はしばらくするとみんなやめてしまったそうだ。

 まあ、部員が減ったところで、赤カーディガン氏が最も下手くそであることに変わりはないので、だんだんトリオの仲も微妙になってきた。

 そこで、気を使った紺カーディガン氏が編み出したのが「堀田先輩には指導力がない」という根も葉もない、赤カーディガン氏を守るためだけの、レッテルだったってわけだ。

当の赤カーディガン氏は、自分が下手なのを認めるみたいで、乗り気じゃなかったみたいだけど。

 で、堀田先輩を悪者にしてトリオの結束は固まったけど、結局クライミング自体に嫌気が差して、三人一緒にやめてしまったそうだ。――

「か、壁は建てなかったけど、クライミング部に学園は期待していたみたいで、お金も結構出してもらってて。……そ、その、創部早々、あっという間に部員がいなくなったと学園が耳にしたら、問答無用で廃部の憂き目に……」

 なるほど、いろんな人に振り回されたから、堀田先輩は人恋しいようでいて、俺らがクライミングを始めようと言い出すことを、距離が近くなることを極度に恐れていたんだな。

「ほ、堀田先輩は、手取り足取り教えていたんですけど、そそ、そんなこと言われちゃって。ト、トラウマというか、そういう状態になってしまったんじゃないかなあ、と」

「それで、加藤さんは後ろめたいし、クライミングも好きだから、機会があれば堀田さんに声をかけて、クライミングをまたやろうとしていたってわけか……」

 早川もこの話を聞いて、いくぶん態度を軟化させたようだ。

「まったく、人騒がせなやつだな。……で、これから俺らは登りに行こうかと思うけど、お前はどうする?」

「どどど、どうするって!?」

「え、まさか、加藤先輩もクライミングに誘うのか?」

「なんだ、川内。別に悪いストーカーではないんだし、堀田さんのことも嫌ってないんなら、誘ったって問題ないだろ?」

 素晴らしい! 堀田先輩と三島さんは大女だからな。加藤先輩でロリ要素を確保できるじゃないか!

「それもそうだな! あの、加藤先輩、行きましょうよ。堀田先輩も、今の先輩の気持ちを聞いたら喜ぶと思いますよ」

「そ、そうかな? ……なんか、誘う目が怖いけど。い、行ってみようかな」

 そうと決まると、さっそく俺らは加藤先輩を交えてクライミングジムへと向かった。

 ヒヒ、これで俺の周りには日常を彩る三人目の美女が……!


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