ストーカーハント その1
二階堂さんから基本的なことを教えてもらってから数日、まだ堀田先輩は現れない。
トップロープだと、ロープがあらかじめ掛けてある壁しか登れないし、その壁のルートも初心者向けの簡単なルートしかなくて、俺らはあきてきてしまった。
「あー、早く堀田先輩来てくれないかなぁ……」
堀田先輩にクライミングについて、訊きたいことがたくさんあるんだけどなあ。
上手いクライマーの登りを見てみると、足をやたらとスタイリッシュに伸ばしたり、ロープに噛みついたり、腰の袋から白い煙を立てていたりと、いろいろ気になることがある。
……気になるんだけど、そのクレイジーな行動ゆえに、たじろいで話しかけられなかった。
そんな暇な俺らの味方は、やはりスマホだ。
堀田先輩の名前を検索にかけてみると、結構有名なクライマーだったのか、堀田先輩自身のブログやスポンサー契約時の写真、世界大会の記録、果ては「現役女子高生クライマー・堀田逢衣! 出身は? 性格は? 彼氏はいる!?」とタイトルのついた、ネットによくある、ゴミみたいな記事まで立っていた。
そして、スマホいじってて気づいたんだけど、なんか自分の手が臭い。
まさか、ホールドがたくさんの人に握られて、手汗にまみれて祟り神になっているのか……?
まあいい、堀田先輩の話に戻すと、ブログや記事は全部、一年前から更新がピタリと止んでいるようだった。
「すごい、世界大会でも何回か優勝してる。なんで最近は出ないの?」
「俺に訊かれてもなあ。ドーピングでもしちゃったんじゃない?」
そんな投げやりな感じで三島さんと二人、壁の下でグダグダしていると、遅れて早川がやって来た。
「おい、お前ら。とうとう秘密をつかんだぞ!」
早川は近くに来ると、変態的に興奮した様子で俺らに話しかけてきた。
「堀田さんが現れないのは、それは彼女がストーカーに追われているからだったんだよ!」
「……はあ? ストーカー!?」
「今から話す、落ち着いて聞けよ。ここ数日、堀田さんの後をつけていたのだが……」
「いや、お前がストーカーじゃねえか!」
「いいから聞け。堀田さんが去年の秋ごろから何者かに追われているって、メールで教えてくれたんだ。最近エスカレートしているようで、僕が護衛の意味でつけていたんだよ」
なるほど! その腹立たしいストーカーのせいで堀田先輩が最近来なかったのか。
個人的には早川が、堀田先輩の連絡先を知っているほうも大事件なんだけどね!!
「そしてついに、今日までの尾行……護衛で犯人の正体がわかったんだ」
「誰?」
三島さんは興味なさそうだ。
早川も尾行って失言したしね……。
「小さな女の子だ。俺らと同じ制服を着ていたけど、日によって髪型がボブや、おさげだったり、ロングだったりと変わっていたから、もしかしたら変装かもしれない」
「全然正体わかってないじゃん」
「おい、三島。俺は素人なんだから人物の特定はできない。ただ、そいつは変装していても、いつもスクールバッグに黄色いシュシュをつけていたから間違いない。とりあえず、そいつを捕獲してみないか?」
ストーカーを捕獲!
なんだか面白そうじゃないか。
ちょうど暇を持て余していたし、俺も高校生の怖いもの知らず精神なら持っている。一狩り行こうぜ!
「はいはい! 俺も捕まえるのに参加します!」
「危ないから、やめときなよ……」
フヒヒ、三島さんは何もわかってないな。
かわいい人の危機は、その娘のハートをつかむための絶好のイベント!
それには、自分の手で助けなくちゃ意味がない、これは常識だ。
「大丈夫だって、相手は小さな女の子なんだろ? とっ捕まえたら堀田先輩だって登りに来てくれるだろうし。いつまでも見学者として、クライミングをするのは嫌だろ?」
「そうだけど……」
「よし、早く解決して堀田先輩にクライミングを教わろう。で、いつ捕まえに行く?」
「堀田さんのためにも、早いに越したことはない。明日行くぞ」
そうと決まれば覚悟はできた。
俺は一つ、気合を入れて、
「一狩りするぞ、おー!」
「おう!」
「ほら、三島さんもご一緒に。おー!」
「バカばっかり……」




