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いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
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詳述、クライミング

 翌日、クライミングジム・よしこへ行ったが、堀田先輩は来ていなかった。

 そして、俺たちにクライミングの指導をしたのは、あの金髪の首振り男、二階堂さんであった。

「今日は、上に登、るだけ、じゃない、で、ルートを、辿って、みよう☆」

 さすがにヘッドホンははずしていたが、頭でリズムをとることはやめないらしく、そのせいで言葉がとぎれとぎれになって、まったく頭に入ってこない。

「ルック、これ、グレード。簡単に、言うと、難易度!」

 微妙に韻を踏んでるから、ラップのつもりかもしれない。

 で、彼の(クソ聞き取りにくい)説明によると、クライミングって壁にたくさんついているホールドをどれでも使っていいわけではないそうだ。

 テープがホールドの横に貼られているけど、それは登るルートを示していて、その指定されたホールドだけを辿ることが基本らしい。

 指定されているホールドが違えば、当然ルートの難易度(グレード)も変わってくるというわけ。

 まあ、簡単に言っちゃうと、路面の模様を指定して、ぴょんぴょんと辿って行った子供の遊びを、垂直の世界でやるってことだよね。

「まずは、初心者、向けの、赤色テープ、5(ファイブ)・10(テンエー)、行っちゃおう☆」

 これが、ルートのグレードの呼び名らしく、頭の《5(ファイブ)》がフリークライミングって意味なんだって。

 ちなみに《1(ワン)》は平坦地で、2乃至4とだんだん難易度が上がってく。

 ちなみに、クライミングジムのルートは頭に《5》のつくルートだけだ。

 で、その後ろの《10(テン)》と《(エー)》の部分が難しさの指標で、変動する。

 小文字のアルファベットはaからdまでの四つあって、《d》までいくと今度は《11》に繰り上がって、アルファベットと数字が繰り上がっていくほど難しいのだ。

 説明も難しいのだ。

 堀田先輩が登ればわかるって言いたくなるわけなのだ。

 俺は二階堂さんの勧めで、初心者向けの赤色の四角いテープのルートを登ってみた。

 と、さすがに初心者向けと言うだけあって、どのホールドも持ちやすい!

 はっきり言って自由に選びながら登ったときのほうが難しかったんじゃないかな?

「モチカエ、モチカエ☆」

 二階堂さんの注意通り、たまにホールドを両手で持って左右の手を変えないと、手順が狂ってしまうという、地味なトラップも仕掛けてあった。

 筋力任せじゃないで、どんな手順でホールドを辿るのかと、頭も使わなくちゃならないようにクライミングのルートは作られているらしい。

「うぐぐぐ、あっ。着いた! ゴールしました! テンション!」

 この《テンション》っていうのは、別に俺が興奮しているわけじゃなくて、《ぴんと張る》を英語で言っているんだ。

 つまり、ロープを張って俺を安全に下に降ろしてちょーだいという、合図ってわけ。

 それにしても、初めて登ったときは途中で落ちたけど、とうとうゴールしてやったぞ!

「イェーイ、完登、川内、完登☆」

 完登! 「完全に登りきる」というこの、単純な言葉の快い響き!

「でもでも、まだまだ、初心者、トップロープ・クライミング☆」

 トップロープ・クライミングっていうのは、井戸の釣瓶のように上に支点を設けて、そこでロープを折り返して、クライマーを確保(ビレイ)する方法のことなんだ。

 釣瓶は人がロープを引いて持ち上げるけど、トップロープではまずクライマーが登って、それからビレイヤー(確保する人)がたるんだロープを引き上げて、いつ落ちても構わないように備えている。

 だから、いつ落ちても確保できる、初心者向けのビレイ方式なんだ。

 二階堂さんはこの、トップロープ方式のビレイのやり方まで教えると、あとは好きに登っていいよと、受付の仕事に戻っていった。

 そして素人三人だけでも、勝手に登れるようになったわけだが……


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