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いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
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いつかのプロローグ

 出会いってやつは、いつだって唐突だ。

 

 たまたま深夜バスで富豪令嬢と乗り合わせたり、介抱した酔っ払いがプリンセスだったり、曲がり角でジュースをぶちまけてしまった相手が女優だったり。……

 俺が体験した「出会い」ってやつも、これらに負けず劣らずの物だったと思っている。

 時は、俺が晴れて入学した地元の高校の入学式、場所はその学校の駐車場。

 折よく桜も満開で、花びらが目の前をちらちらと舞い降りていくんだが、俺はそんなものを愛でる余裕なんてなかった。

 と言うのも、入学式で学園長がのたまったスピーチに苛立っていたからだ。


――そもそも、最近の若者は昔と違って冷めていますね。夢がなく、目標もない、やる気や情熱もなくて、目が死んでいる。もっとこう、グローバルに羽ばたくような云々――


 なんと紋切り型な若者批判!

 しかもこの学園長がクセ者で、大学を出てからは職にも就かず、国内外各所を遊び歩いているうち、見かねた前学園長である父親が、その席を譲ってくれたらしい。

 ま、つまりは世襲だよ、世襲。

 そんな、だらしない中年に説教を食らったんだからたまったもんじゃない、こんな入学式なんてこちらから願い下げだと俺は体育館から外へ逃げ出したわけだ。

 入学式を執り行っている体育館の横では、新しい体育館を建てようと騒がしく工事を行っていた。

 これも、学長が学生集めの目玉として(生徒のお金で)投資したらしい。ハコモノは成果としてアピールしやすいからね。


「まったく、なんであんなオッサンに説教されなきゃいけないんだ……」


 長々と学園長の批判を履きだしてしまったけど、何も俺に後ろめたいところが一点も無いわけではない。

 確かに俺は、毎日ゲームやアニメ、マンガに昼寝と、今のところ何の目標もないがゆえに、人生をお漏らししてしまっていた。

 ただ注意してもらいたいのは、「今のところは」って点なんだ。

 俺だってやりたいことさえ見つかれば、ありったけの情熱をそれに注ぎ込んで、でっかい夢でもなんでも叶えてやるさ。

 ほかの同世代のやつらだって、ただ俺みたいに目標がないだけで、何も冷めて生き方をしているわけじゃなく、……


 何? 言い訳が見苦しい!?


 いやいや、ちょっと待ってくれ。俺は見苦しくなんてないし、まして学園長の言うような今どきの若者だなんていわれる気はさらさらないぞ!

 例えて言うと、……そうだな。風に散る桜の花びらみたいな感じだ、今の俺は。

 枝をしならせて、今を盛りと咲き誇る桜の花ではないけど、かといって地面に踏みつぶされて「もうあきらめました」って感じに薄汚れた花びらでもない。

 あくまでひらひらと美しさを保ったまま、何かを求めて風に揺られているだけなんだ。詩的だろう?

 ――さて、話を俺の出会いに引きずり戻そう。

 俺は職員通用門から抜けようと、スマホしながら駐車場に沿って歩いていたんだけど、さっそく歩きスマホの天罰なのか、校舎の竪樋に頭をぶつけて派手に尻餅をついた。


「きゃっ」


 ……と、なぜか転んだ俺ではなくて、別の誰かの悲鳴が頭上から降って来た。

 俺も驚いて、尻餅ついたまま見上げたら、栗毛の少しウェーブのかかった長髪の女の子が竪樋に、それも地面から六メートル(!)くらいのところに、制服姿でへばりついていた。

 俺に気がつくと、その娘はニコって微笑んで、壁にポスターか何かを貼り始めた。

 その娘がまた、ゆるふわ系って言うのか、とにかくめっちゃかわいい娘で。てか、天使だったね。

 あ、スカートの下にはちゃんと、ジャージの短パン履いてたぞ?

 そもそも、なんでそんなところにいるんだよって話だよな。てっきり俺の、運命の人かと思っちゃったよ。

 で、その人が一体何をやっているのか、確かめようと立ち上がりかけた瞬間、


「……ヘンタイ」


 突然、変態呼ばわりされたことにも驚いたけど、その声の主が、立ち上がる俺の目の前に突っ立ていたものだから、二重に慌てて俺はすっ転んでしまった。

 今度は何かと見上げると、そこにはロングの黒髪を春風になびかせた、切れ長の瞳が美しい女子高生が、――それも紛うことなき美少女が!――仁王立ちしていた。

 まさかの二人目の運命人に見惚れていると、その黒髪JKがまた何かをつぶやこうとして、それを見た俺はなぜか反射的に逃げ出した。

 もちろん俺にやましいところなんて一つもなかった。さっきも言ったように、壁にへばりついていた娘はちゃんと、ジャージを履いていたんだから。

 だけど冤罪の悲劇か、はたまた変態の本能なのか、俺は黒髪JKが何かを口にする前にあわててその場から逃げ出してしまった。

 あの状況だと「いやいや、見てくださいよ! あの娘はスカートの中にジャージ履いてますぜ? だからセフセフ」だなんて言ったところで、俺の無罪を受け入れてくれるとは思わなかったからね。

 

 ――と、まあ。今話したのが、俺の体験した出会いの顛末だ。

 入学早々、美少女二人と劇的な邂逅をしちゃったもんだから、興奮して長々と話してしまった。

 ハハハ、……だが残念。ここは二次創作の世界ではない、現実だ。

 この後は別に、何の進展もないだろう。いつも通り、引っ込み思案の生徒の宿命として教室の隅っこでかわいい娘を覗き見する日々が始まることだろうね。

 できたら今話した二人のうち、どちらかが一年生で、それも同じクラスだったなら眼福なんだが……

 何? 何だよ! そんなことしか学校生活の楽しみがないのかって?

 うるさいなあ、テキトーに過ごしていれば、夢だってそのうち見つかるだろうし、そしたらやる気を出して生きればいいわけで、とやかく言ってくる学園長みたいな熱血漢なんて、ほっとけばいいんだよ。

 別に目標がどうとか、夢が何とか、暑苦しい青春生活を送っていなくたって、俺もこうしてちゃんと生きている! それでいいじゃないか?

 まあ見てろって、こんな俺だっていつかはきっと、本気出すんだ!

 

 そう! いつかは。……

 


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