1章 ―茶会―
本当にお待たせして申し訳ありません&前触れなく数話削除して申し訳ありません&説明全然無くて分かりにくい文章で申し訳ありませんの舞い(/_;)/~~
「……………え…………………………?」
………い、嫌だ! 無理に決まってんだろ!!
何でこんな事になったんだよ!? だって!
俺の、俺のせいだって言うのかよ!? ふざけんな!!
やっと全部終わったんだぞ! それなのに!!
これで良かった? どの口がほざいてんだっ!!
これじゃ、全部、無駄にするって事じゃねえか!!
俺がっ!! んなもん認めるはずねえだろうがぁっ!?
……そうだよ。俺が望んだ、「正しい世界」だ。
でも、違うんだ。正解だけど。皆、幸せだけど。
やっぱり、俺にはできねえよ……。
……てか、皆って誰だよ。もういねえじゃん。
……そうだよ。あん時、自分で捨てたんだっけ。
……もう、皆は俺の隣にはいてくれねえんだな。
…………じゃあ、俺、何の為に死んだんだろう。
~ U・リューグナーの手記 11冊目 1章 より ~
――殺していた。何度も、人を、殺していた。
妙に、吹き付ける風が、心地よかった。
明々とした景色が続いている。一面の炎。森の中だろうか? 草木が炎の中を泳いでいるようだ。
振りかざした槍の下に、人が横たわっていた。
逃げない。足は無事なようだ。だが……、逃げようとしない。
「 ……、 れ ……、わた――――、だ…… 」
……笑って、いる。何が面白いのだろうか。この人は、今から死ぬというのに。
背景が消える。不思議な森も、燃え盛るナニかも。視界に入っているのは、振り上げられた貧相な槍。そして……、人。表情が、よく見えない。前屈みになって、顔を覗きこむ。
不意に、人が歪んだ。揺れて、溶けて、踊るように……。
――突然の浮遊感。世界が、崩れ始めた。ボロボロと、周りの暗闇が剥落していく。その人も、落ちてゆく。
その時、やっと、思い出した。何だ、またか。
飛んでいる様な感覚。いや、飛んでいたのだろう。押し潰されそうなほどに白い壁が生まれてくる。その中を、たった、1人で……。
視界の隅で何かが動いた。落ちていく。……槍だ。視界の中央、もう遠く離れた、その人へ…………。
――――パリン――――――
……もう、飽きたぞ。そろそろ、やめにしろよ。疲れただろ?
僕は…………、俺は、これが夢だと、確信した。
「………………」
……不意に感覚が戻った。夢から覚めたようだ。ベッドの端の方に、もぞもぞと手足を伸ばす。
(眠……)
掛け布団を身体にひしと巻き付ける。今日は空気がとても冷たい。肌を刺すような寒さに、俺は思わず身震いした。
(……起きたくねえなぁ……。今日もあいつがまたグチグチと難癖をつけに来るだろうし……)
「……起床なさるお時間です。無視なさるのならば、お望み通り難癖をつけさせて頂きますが」
「うわっ」
突然、頭上から声が降ってくる。二度寝を決め込もうとしていた俺は、慌てて飛び起きた。俺の心の内を見透かした、この声は、まさか……。
「何とお呼び頂いても一向に構いませんが、難癖をつけられたくないのでしたら、ご自身でお起きください」
寝起き直後に、辛辣な一言。恐る恐る、下から窺うように横をむくと……。そこには、俺の思った通りの、今一番会いたくなかった人物が立っていた。
雪の結晶をあしらえたかのような、純白のサイハイブーツ。そこからスラッと伸びた長い足を、薄い緑色の流線模様が入った、シフォン・スカートがそっと包んでいる。時折吹く、淡い風にあおられてなびく。ここだけ見れば、麗しく清楚な若い女、なんだが……。
俺は、更に目線を上に上げる。……ゴツい、黒革のコート。ウチの前衛戦闘員用の。しかも、フラムベルジュとかぶら下がってる。これ、仮にも嫁入り前の華奢な女が着る服じゃねえ。
俺は、闖入者の顔をじっと見つめる。
「……お前、今日も今日とて変な服の着方してんな」
「お忘れかもしれませんが、今日は、王の皆様がおこしになります。戦闘用の衣服を着用しているのは、至極当然と思われます」
「そうか……」
「それと、大切な会議に遅れそうだからと、パジャマで飛び出して行ったお方に、服装のことでとやかく言われる筋合いはありません」
「うぅ…………」
「早くお起きください。そろそろ行かなければならないお時間です。また、今回も失敗できないのでしょう?」
……そういや、そうだったかな。未だ夢うつつだった俺は、もう一度ベッドに倒れこみ、上を仰いだ。高い天井には、いつものように、何処の景色とも知れない、白み始めた空が映っている。ゆっくりと流れていく薄い雲の切れ間から、光の筋が降っていた。
昨日、俺がこいつに、準備を命令した、らしい。そうだったか。霞みがかったように動かない頭で、昨日の事を思い出そうとする。昨日、俺がした事、言った事、考えた事……。
――すうっと、頭の奥が冷える。眠気が瞬時に雲散霧消した。……ああ、そうだったな。思い出したぞ、昨日の俺。
眺める空が、黒い靄に覆われた、気がした。目の奥の辺りがチリチリと痛む。己の視線が、刺すように鋭くなったのを感じる。俺の人格が書き換えられていく。
鍵が、胸の所で、音を立てて、閉まった。
「…………お目覚めですか、盟主」
「……ああ、今起きた。」
短く言葉を交わす。それだけで事足りた。
ゆっくりと体を起こす。俺をずっと見下ろしていた顔が、すぐ隣にいた。その目線に急かされるように、ベッドから降りる。少し古ぼけた大理石に足をつくと同時に、爪先からゆっくりと黒いヴェールに包まれていく。俺が緩慢と立ち上がる頃には、足全体を包む漆黒のブーツになっていた。
「盟主、これを」
「ああ」
俺は、差し出された厚手のコートを羽織る。こいつらのような前衛戦闘員とは違い、俺はこんなもん着なくてもいい。危険など欠片も心配する必要が無いからだ。しかし、これから俺が顔を出す場所と状況を思えば、これでも足りないぐらいだろう。
だだっ広い部屋を、足早に突っ切る。大きなベッドが物足りなく感じる程、この部屋は広い。乾いた床に、二人分の足音が反響する。眼前では、厳かな扉が、俺の歩みと同調して開いていく。石の扉を尻目に、俺達は歩く。
「盟主、先程、全小隊と王の方々が揃ったとの報告が」
「首尾は?」
「皆様滞りなく。ですが、やはりあのお方が……」
「終わったら全員に聞く。死者は?」
「勿論おりません。下級戦闘員から将に至るまで……」
「違う。分かっているだろう、俺が何を聞いているか」
言葉が途切れる。いつの間にか、頭上を覆っていた大理石の建造物が消えている。俺は、渡り廊下を歩いていた。風が強い。吹きさらしの廊下を、早足で歩く。
すぐ横を見ると、雄大な自然と、白み始めた空のパノラマが広がっている。この空中に掛けられた橋からは、全てを一望できた。遥か彼方の空で、不可思議な模様が輪転している。
「……はい、盟主。死者は、おりません。もちろん……、双方ともに」
「そうか」
自分で聞いておきながら、随分と気の無い、冷たい返事だと自覚している。しかし、それが当然だと言うように、俺達は歩く。俺が望む事は、こいつには全て分かっているだろうから。伝え無くても、全部、全部。
再び、巨石の建造物に入る。より重厚に石材が組まれ、陽光を遮っていた。
「……」
そんな重厚な空間とは不釣り合いに、ポンと置かれた机。そこには、不恰好な錆びたロングソードが立て掛けられていた。剣の側で、俺は一瞬立ち止まり、そっと、剣に手を伸ばす。しかし、指がその柄に触れる前に、躊躇してしまう。逡巡した俺は、ぐっと奥歯を噛み締めて、錆び付いたそれを手に取った。
「御準備は、終わりましたか?」
斜め後ろから、声が尋ねてくる。
「ああ、終わった。これぐらいあれば大丈夫だろう」
「では、私は先に向かっています。王の方々が騒ぎだす前に、盟主の到着を知らせておかなければ」
後ろにいたやつが、コツコツと歩き出していく。……いつも通りの風景だった。
「盟主。……今回も、負けられませんね。」
「……ああ」
「……どうか、御武運を。我らの救世主」
「……失敗するなよ。Φ」
遠ざかる透明なその髪に微かな光が反射して、七色に輝いた。
独りになった俺は、歩きながらこれからの事について考える。 この先では、また一歩俺の目標に近づく事が出来るだろう。……だが、それが何の為だったのか、俺にはもう思い出せなかった。
目の前に、見上げる程大きな扉があった。装飾の施されたそれに、手を合わせる。
顔をそっと撫でる。ちゃんと自分が演じているか、不安になった。理解されないようにと騙し続けていても、やはり孤独が嫌になる。弱くなった、と自分でも思う。
力を込めて押し開ける。明るい光が溢れてきた。俺はもう一度、仮面を被り直して、強く一歩踏み出した。
……目が眩む程に白く、広い部屋だった。半球形の空間の中央に、大きな丸い机が一つ。周りには、十数名が各々の椅子に座っていた。魔神種、獣牙種、人類種、天翼種……。この世界の様々な種族が、1つの空間に集っていた。
「ほらー、こっちの方がカッコいいじゃーん! テータのはおかしいよー!」
「あら、そのような軟派な絵より、私の耽美で崇高な芸術の方が、盟主様はお喜びになるはずですの」
「……まだ10時だぞ。何故呼んだ。眠い」
「もう10時ですわ。傲血種はこれだから……」
「……水の底で惨めに貝と戯れるしか能のない海姫種に、言われる筋合いは無い」
「お前ら止めとけってー! お天道様様が見てるぜー!?」
「「大陽に目は無い(わよ)」」
「お前ら意外と仲良しじゃねー!?」
「それでさ、そのお店の看板娘? って子がさ、もう超可愛くてさ!」
「ノンノン、バベル。そこは君が紳士的に手を差し伸べて、こう言うんだよ。『嗚呼、アリウムの花のように麗しい姫君よ。貴女のそのたおやかな指で、私の心のスカーフを紡いで貰えまいか……?』とね!」
「超良い感じの事言ってるけど、アリウムって超臭かったよね。ほぼネギの匂いだよね」
良かった。今日は皆、普通に話している。上座の隣で、静かに立っていたΦと目が合う。俺が軽く頷くと、スッと前に出て声を張った。
「皆様方、御静粛に。盟主がお越しになりました。」
瞬間、騒々しかった部屋が静寂に包まれた。絵を描いていた姉妹も、口論をしていた男女も、軟派な話をしていた男二人も。今までの雰囲気とは一転、冠する名に恥じない程の覇気を纏った。部屋にいる全員の視線を浴びながら、一番奥の席、Φの待つ椅子まで歩く。椅子の前で立ち止まり、声をかける。
「……茶会を始める」
全員が椅子を蹴立てて立ち上がった。
「御身の為にのみ、我等の生に意味があらん」
真紅のローブの男が、涼しげな声で述べる。
「我等が最後の盟主に、勝利の凱旋を」
「「「はっっ!!!」」」
この部屋にいた全員が、それぞれの心臓の位置に右手を添えて、絶対の服従を俺に誓った。
「いい。座れ。……揃ったな。Φ、頼む」
「はい」
片手をかざしてΦが呟く。
「『澄み渡る鏡影・ホロプリズム』」
すると、眩い瑠璃色の光が円卓に降り注いだ。鈴のような音を奏でるそれは、瞬く間に大きな鏡面となった。Φが更に指を空中で走らせると、鏡に映像が映し出される。
「……それでは、茶会を始めます。まずは三日前、バベル様の小隊が戦闘を行った、帝国側の近衛騎士団についてですが……」
次回ちゃんと色々説明会になります。
気長にお待ち頂けると幸いです。