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思い付いた話

あくまでクリスマス

作者: 雨森しと

雪の向こうには君がいた。

ついでに言えば画面の向こう。

君は誰かに向かって手をのばす。その手をとるのは黒髪の美少女。

二人はくすぐったそうに微笑んで、物語は幕を閉じる。

……。

「ああああああああ羨ましいいいい‼まぁ、わかってたさ‼二人が恋仲になるくらい‼わかってたが‼もう‼羨ましい‼」

クッションを抱き締めてバタバタと騒ぐ。

アニメの最終回。世間に合わせてなのか内容はホワイトクリスマス。あともう少しすれば現実でもクリスマス。

彼には恋人ができたが、自分はそうもいかない。今年もひとりぼっちのクリスマス。

なぜ自分には恋人ができない。

町に溢れる恋人たち。モール街のツリー前なんて石を投げればリア充に当たる。熱々のリア充たちのせいできっとそこだけ真夏、のろけで茶がわく。

こうなってくるといっそクリスマスという言葉さえ憎らしくなる。

「私だってきゃっはうっふしたい‼もぉぉぉ‼リア充爆発しろー‼」

「やぁお嬢ちゃん。その言葉本当?」

私が心からの叫び声を上げると同時、部屋の窓がガラッと開いた。

近所に挨拶しに来たみたいなノリで窓枠に手と足をかけている男の人。

びっくりしたぁ。

「僕は冬の悪魔さ。君の願いを叶えに来たよ」

「願い?」

「そう。さっき言ってたでしょ。リア充爆発しろー‼って。僕ならリア充を爆発させる方法を知ってるよ」

私は悩む。悪魔の甘言に乗っていいものか。

「確かに言ったけど、それは言葉のあやというか……」

渋る私に悪魔だという男はさらに続ける。

「あ、代償とかはいらないよ。願いを叶えるとは言ったけど、僕は君に協力して欲しいだけなんだ。僕が持ってるこの弓は当たったリア充を爆発させることができるんだ」

そう言って悪魔は白い弓を取り出す。一見何のへんてつもない弓。

「それがあるんだったら自分で弓を引けばいいじゃない。なんで私が協力する必要があるの?」

「そう、そこだ。この弓は悪魔には引けない。人間しか引けないんだ。だから僕は君に協力して欲しい」

なるほど。理由はわかった。でもいざやるとなると少し腰が引ける。リア充たちは羨ましいけど爆発するまでじゃないと思う。

私がそう悪魔に告げると

「本当に?君は本当にそう思ってるの?腕を組ながら町を行くリア充。我が物顔でイルミネーションの前を占拠して、まるで世界には自分たちしかいないかのように周りをはばからずきゃっはうっふ。リア充である自分たちが一番偉いかのように振る舞う。ああやだやだ。君はほんの少しもこのリア充たちを爆発したいとは思わないのかい?」

あ。乗った。


そして来るクリスマス。

私はこの日のために毎日の厳しい修練に耐えた。

毎日腕立て、腹筋、背筋、ランニング。他には名前も知らないようなトレーニング。そうしてやっとこの弓が引けるまでになった。辛いことも苦しいこともやめたいと思うこともあったけど全ては今日のためだと思えば乗り越えられた。

そう全ては今日のため。

「いよいよだね。気分はどうだい?」

「最高」

向かうはモール街。巨大クリスマスツリーが立つ広場。

標的はリア充。自分たちが爆発するとはいざ知らず幸せそうに笑っている。

まずは手近なのから。あ、あれなんか丁度よさそうだ。

会話は聞こえないが何かを話している。やがて女の方が鞄から袋を取り出す。照れながらそれを男に渡した。開けるようにうながしているのだろうか、また女の口が動いた。男は頷き袋を開ける。中身はセーターだった。手編みなのだろうか。形はいびつで何より袖が片方無かった。……あれでいいのか?

男は無かったかのようにセーターを袋にしまった。

「あ、あれナポレオンの憂鬱編みだね。彼女すごく頑張ったんだねぇ」

「目いいんだね」

「まぁ、悪魔ですし」

そんなことはどうでもいい。

私は依然幸せそうなリア充に狙いを定める。

また女が話し出す。何かを聞いた男が笑う。男が笑えば女も笑う。幸せそうで、まるで世界には自分たちしかいないんじゃないかとさえ思ってそうな二人。

羨ましくて妬ましかったリア充。

爆発しろと何度思ったことか‼

今やっとその力を手にいれたのに、いざ弓を引こうとすると

「……引けないよ……」

「え?」

悪魔が驚きの声をあげる。

「ごめんなさい。私にはやっぱりできない。何の罪もないただ笑ってるだけのリア充を爆発させるなんて」

やっぱりだめだ。今日まで頑張ってきたけど。こんなのよくない。

「僕じゃだめかな?」

「え?」

今度は私が驚く番だった。

「君を毎日見ていて、辛くても頑張り続ける君を見て、その、好きになっちゃったみたい。悪魔やめて人間になるから、僕じゃ、だめ?」

辛いときも苦しいときもいつも一緒にいて励ましてくれた悪魔。

言われて気がつく。

私もいつの間にか悪魔のこと好きになってたみたい。

私は無言で頷く。

「ありがとう。幸せにするよ」

そして私たちは抱き締めあった。お互いの体温が伝わる。なんだかく初めての感覚ですぐったくて二人で笑った。


瞬間。

殴られたような衝撃。次には吹っ飛んでいた。

そう、それこそ爆発したかのような。

アスファルトの上をごろごろところがる。やっと回転が止まったとき誰かが私の横に立った。

顔をあげてその人物を見る。知らない青年と少女。しかし青年のその手には見知った弓。

青年が口を開く。

「自分だけがリア充を爆発させられるなんて思った?」

ほとんど深夜テンション

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