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ユリの花と思ったら

作者: 五里霧中

春です。習作です。

 春、それは出会いと別れの季節。

 春、それは桜の舞う季節。

 春、それは……頭のおかしい人が出没する季節。


 青空に桜吹雪が舞う中、都会から少し離れた駅近くの住宅街の、とある家の朝の風景を見てみよう。


 築10年になる2階建てのこじんまりとした庭のある白い洋風住宅は、1階がリビングと食堂、2階には寝室となっている。なお、ローンはあと30年は残っており、完済まで先はまだ長い。


 1階からはスリッパの歩く音とトースターの音が鳴り、コップにオレンジジュースが注がれている。ジュースを注いでいるのは、栗色のふわっとした長い髪のエプロンをつけている美人な女性と、新聞を読んで顔が見えないが、短い黒髪で体格の良い、紺のスーツを着た男性だ。


 そんな落ち着いた風景の中、2階から1階へ降りる木製の階段がきしみ、リビングのドアが開かれる。


 目をこすりながら、ぼさぼさの栗色セミロングの髪に、黒色の上下ジャージを着た若干背の低い少女――千倉日向がリビングに掛けられている時計を見ると、時間は既に7:00を回っていた。


 今日は4月2日の高校入学式。今年高校2年生になる彼女には、今日高校に入学する1人の妹がいるのだ。


「おはよぉぉぉ……」


「日向。朝ごはんできたわよ」


「はーい。ちょっと楓を起こしてくるー」


 彼女の母親が声をかけると、気だるげに返事をして2階へゆっくり上がっていく。彼女は低血圧のため寝起きがつらく、朝のテンションは常に最低である。しかし、母親から妹が寝ていることを告げられると、心機一転、元気溌剌……とまではいかないが、少し気分を上げていた。


 何故なら彼女は妹が大好きなのだ。――性的な意味で。


「ふふふ。ついに来ました、妹の部屋の前に居ます」


 彼女は口元に手を当ててリポータ風に小声で実況している。懐かしのドッキリ風である。

 ゆっくりをドアノブに手をかけて、静かにドアを開けると豆電球に照らされた暗い部屋が視界に入る。まだ寝ている様子だ。部屋は6畳ほど、そこまで広くはない。


「では、日向特派員、潜入します!」


 ベージュのカーペットが敷かれた床の上をゆっくり歩き、妹の寝顔が見える位置につく。彼女の背丈は153㎝だが、妹は若干低いくらいだ。長い黒髪の妹は、白いパジャマを着て横向きにぐっすり寝ている。

 これが出社するサラリーマンならば遅刻確定であろう。


 部屋の中はシンプルで、机とテーブルとベットと本棚が各1個置いてある。TVは無いがタブレットPCがあるので、そこまで不便ではなかったりする。


「んん……」


 目の前で妹は静かに吐息を吐き、掛かっている布団が若干上下しているのがわかった。


「はぁはぁ……マジたまらん……」


 彼女は荒い息をして肩を上下させている。口元はだらしなくゆるみ、涎が妹に垂れかかっていた。むしろ垂らしたいと考えていた。どうしようもない変態である。


 もしも許されるなら、妹の布団の中にもぐりこみたい。いや、妹の服の中にもぐりこみたい。いやいや、むしろ妹の体の中にもぐりこみを――と不埒な考えをしていると、妹が身をよじり眠そうな顔を姉へと向けた。


「おはようございます。お姉ちゃん」


 妹がゆっくり眼を開き日向の顔を確認すると、ふわりと花が咲くような笑顔に変わる。


「おぉ神よ――天使はここにいた。むしろ狼になりたい……」


 彼女は両手を胸の前で組み合わせ目を閉じ、信じてもいない神に取りあえず祈りをささげた。


「もう、お姉ちゃん……。早く食べないと遅刻するよ」


 楓の声に彼女が目を開けると、少し呆れ顔の楓は部屋の扉を開けて下に降りようしていた。


「まってまって」


 慌てた日向が楓の方へ早歩きで駆けていく。千倉家の毎朝の日常であった。


 千倉日向――今年高校2年になる彼女は、親や友人から時々「超シスコン」と評されている危険人物である。そんな姉の頭の中は、おはようからお休みまで妹一色であった。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまです。……いろんな意味で」


 パジャマ姿の2人の少女が手を合わせて食事が終わったことを告げると、時計の針は7時半を差していた。


 これから髪を整え、制服に着替えて登校するのだが――日向の呼吸はいつもの通り荒かった。というのも食事中、何時もの通り艶やかな妹の唇を見つめ続けていたからだ。


 流石変態、ぶれなさすぎであった。


 そのまま2人は2階の自分の部屋に移動する。小学生の時は1部屋だったが、姉――日向が中学に入ると1人1部屋になったのだ。その時の日向の顔は、何とかの叫びの様であったという。


 そんな妹命な姉が部屋に入りクローゼットを開けると、制服が目立つ場所に掛けられていた。制服はダークグレーの落ち着いた色であり、白いシャツに赤いリボンを結ぶのものだ。


「白いパンツはいいものだ――」


 そんなアホなことをしみじみと呟きつつ、下着は白いパンツと白いスポーツブラの格好のまま制服を手に取った。縞々もいいが、制服には白いパンツが似合うとのポリシーがあるのだ。そんな無駄なポリシーはあるのに、胸の肉は全くなかった。


 制服を手に取った彼女は首をかしげる。


「この制服。やっぱり前世のゲームで見た気がするけど……思い出せぬ」


 千倉日向は少女であるが、前世の記憶らしきものがあった。いつ思い出したのか既に忘れてしまったが、物ごろついて時にはボンヤリと思い出していた。はじめは夢かと思っていたが、妙に生々しさがあり、懐かしさがあった。


 夢の中の自分は男性であり、少年時代、青年時代を経て社会人として生活していた。ただし、何が原因でどうして死んでしまったのか、最後の瞬間は曖昧であったのだが。


「うーん……」


 静かな部屋の中、彼女は一人、ぼんやりと思考の海を漂う。


 ――そう、確かゲームだった気がする。

 当時、好きなジャンルは純愛ゲームだったはず。じゃあ何のゲームだろうか?ギャルゲーやエロゲーばかりプレイしていたので、多分そっち系だろう。鬱ゲーや陵辱ゲーは興味が無かったし……やっぱり純愛ゲームだろう。


 ふと枕元のデジタル時計を見ると、8時手前を表示していた。


「そんなことより、まずは妹だ!」


 彼女は服を乱雑に着て、駆け足で1階に降り、洗面台の前で適当に髪を整えると2階の妹の部屋の前へと陣取った。この間、わずか10分程度。とても花の女子高生の所業ではなかった。


「貴方のお姉ちゃん参上!」


「お姉ちゃん、着替えるの速すぎ!」


 妹の楓が制服に着替えて部屋から出ると、既に姉がデジタルカメラ片手に待ち構えていたのであった。

 妹は恥ずかしがって身をよじる。初々しい制服姿を見た、姉の行動は素早かった。


「うへへ……楓ちゃん~。こっち見て~。そう!いいよ!いいよそのポーズ!」


 ――ぐへへへへ。楓ちゃん可愛い。可愛すぎる。制服姿の楓ちゃんを見ながら白飯3杯はいける!ほんと、このまま氷結させて、部屋に飾りたいぐらいですわ。

 しかも、勉強もできず運動音痴な姉に似ず、優秀で身体応力の高く、さらに美少女!そんなことも鼻に掛けず、ダメな姉をフォローする優しさも備えているなんて、正に天使ですわ。


 そんなダメな思考の姉に撮影されている妹は優しく微笑んでいた。


****** 


 私の名前は千倉楓。今年高校1年になります。今は、お姉ちゃんが制服姿の私を撮影している最中です。


 私には大好きなお姉ちゃんがいます。けどもお姉ちゃんには秘密にしていることが一つあるのです。

 そう、あれは何時の日だったでしょうか。まだ小さい私が目を覚ますと、お姉ちゃんが目の前でしゃべっていた言葉で思い出したことがあるのです。


 私は目を閉じ思い返します。


「お姉ちゃん?」


「ぶひぃ……ぶひぃ……」


 私が首をかしげても、お姉ちゃんはボンヤリとした瞳で私を見つめています。口からは涎が垂れて、床にポタリ、ポタリと落ちていました。


「お姉ちゃん!」


 つい、私は大声でお姉ちゃんを呼んでしまいました。恥ずかしいです。


「ぶひっ!?ぶ……ぶぶぶ……あばば……」


「お姉ちゃん――」

 

 私の声に気付いたお姉ちゃんが私を見て、顔を真っ青にしたとその瞬間――私は思い出したのです。

 この世界と前の世界のことを。


 確か前の世界、前世では男性でいい年だった記憶があります。そんな私の最後は定かではありませんでしたが……。そして私は当時無類のゲーム好き。特にストーリー中心に選んでいた記憶があります。


 私は記憶が戻るとまっさきに鏡の前へ走りました。そして、そこには”あの”ゲームのヒロインの妹の少女が立っていたのです。


「あぁ……どうして……」


 あまりの衝撃に私が立ちくらみを起こすと、後から追ってきたお姉ちゃん――千倉日向が私を抱き留めました。

 そして私は決心したのです。彼女を救ってみせると――。


 このゲームは私が高校1年の夏にこの町の研究施設で研究されていた細菌が漏れ出し、町の人々に感染して大多数が死亡、少なく生き残った人間や動物は感染したが耐性ができ、体内の細菌が死滅した”耐性持ち”と呼ばれる人間と、感染したが発症していない”キャリア”と呼ばれる人間が生き残るのです。


 そして、この町は隔離され”耐性持ちは”国から武器を支給され、”キャリア”を街から全て”駆除”すれば外に出られることを告げられます。


 そして、惨劇の幕が開ける――というストーリーでした。


「楓ちゃーん?」


「今行きます、日向お姉ちゃん」


 撮影大会が終わり、2階の廊下で棒立ちになっていた私へ、お姉ちゃんが玄関から声をかけてきました。


 お姉ちゃんは脇がちょっと甘く……。いえ、基本的に甘々でスカスカですが、私と2人になると心の声まで駄々漏れ状態になったときの言動から、どうやら元男性の雰囲気がします。


 勿論、気がするだけで確証はありませんが。でもそんなことは関係ありません、だってヒロインの千倉日向は俺の嫁なのですから。


「先に外に出るよー」


「はーい」


 返事を返してカバンを背負い玄関を出ると、抜けるような青空に桜が舞っていました。その青空の下には手を大きく振って笑顔いっぱいのお姉ちゃんが立っています。

 少し強い風が吹き、ひざ上まであるお姉ちゃんのスカートがふわりと浮きますが、特に気にした様子がありません。


 夏まであと少し。私は一歩踏み出しました。


*****


 これは、ゲームクリアーを――その先のトゥルーエンド目指して、ひたむきに頑張る千倉楓の物語。

主人公?知らない子ですね……。

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