モブとすら呼ばない~ヒロインの下僕~
我は、シルヴァードラゴンのシルヴァである。
シルヴァは、我の主が付けてくれた名前だ。
主のネーミングセンスとは不思議なもので、各種族の規格外たちの名前を候補に挙げてそれを付けようとする。
いや、我はそんな竜外な竜になるつもりはないぞ。
ごくごく普通の竜だ。
特に、人族の規格外は指先一つでマ物たちを殲滅した人外だぞ。
我でも、そんなことはできん!
主は本気で真面目に考えてるのだが、我はそんな者たちのようになれないので竜生かけて必死で説得した。
主は我の説得の不承不承ながらも納得した。
それで、覚えやすく我の名は『シルヴァ』となったのである。
主と出会ったのは、プンクピッグの匂いに誘われた時だった。
プンクピッグは、捕獲するのは簡単だが適切に焼くのが難しい。
我が覚えている限りは、片手で数えれるくらいだ。
冒険者らしき者たちが、プンクピッグを取り囲んで焼いていた。
その芳しき匂いに我は抗うことができなく、焼きたてのプンクピッグをその冒険者らしき者たちから、無断拝借した。
ものすごくうまかった。
ただその時、プンクピッグを彼らから持ち去った時に背筋が凍るような殺気を感じた。
人間如きだ。
きっと、気のせいであろう。
人間は矮小な存在だ。
我に、比べればちっぽけなのだから気にしなくてよい。
そんな思い込みがいけなかった。
あの冒険者らしき者たちの中で、一番か弱き者が我の前に現れた。
主のことだ。
はっきり言おう。
見た目だけで、侮っていたのがいけなかった。
我が使う魔法は人族にとって強力すぎるのだが、主は魔法の理を物理的に無理やり捻じ曲げて我の魔法を破壊した。
普通のマ物たちや他種族、ましてや真王でも絶対にできないであろう。
真王でさえ勝てない人族最凶の魔法使いマリーナでもできない。
人族最凶の魔法使いマリーナ。
その昔、真王は魔物とマ物の頂点に立つ者としては相応しくない調子に乗った痛々しい奴であった。
そんな痛々しい奴であった時に、真王はマリーナ(当時、幼女)に出会った。
自分の方が強いと思い込んでいた真王は、あっさりマリーナに敗北。
以降、真王は 幼いため無邪気で残酷なマリーナの気が済むまで魔法による真体実験を受けたそうだ。
その時に、真王は色々なモノがマリーナの手によって折られたらしい。
そして、月日が流れマリーナは新たな獲物を求めて真王の元から旅だった。
我たち、マ物の望みを知っているだろうか?
それは、自分より強い者に仕えることだ。
弱者などいらん。
かんたんに言えば、主は我の求める要素を満たしていたのだ。
主の得意魔法を知った時は頭を抱えたものだ。
だが、それこそ他人を騙すための偽り。
主によると、それを知った時の周りの反応が面白いとゲスい思考で笑って言っていた。
そんな主は、現在では廃れた『10の水晶玉を集めると願いが叶う』を実行しようとしているようだ。
水晶玉は、『この世界のために、本当に叶えなければいけない願い』を持つ者でないと集めれない。
主が、それを実行する経緯を聞いた。
ホワイトキャットが原因だと断定しかできない事件が起きているのだ。
主の出身地の国の国王の妹が、原因不明の病に罹ったと噂で聞いたそうだ。
その噂を語る主の笑顔が、寒々しいほどでものすごく怖かった。
この時、我は主に逆らわないことを固く決意をした。
我は、その水晶を知っているので主の所属する冒険者パーティーの人族と連携して、水晶を順調に集めて行った。
その間に、主に冒険者パーティーの仲間たちについて聞いた。
その中に、真王を恐怖の底に落としたマリーナがいたのには心底驚いた。
マリーナは圧倒的な暴力(魔力)で他者を蹂躙するが、主は最小限の力(魔力)で他者を圧倒する。
主の所属している冒険者パーティーのことを聞いている時に思ったのだが、主とマリーナだけで世界征服できそうな気がしたのは気のせいではあるまい。
主の所属している冒険者パーティーだが、リーダーはその日の朝食を兼ねた会議で全力で押し付け合う。
我は主の下僕なのだが、そんなの関係ないとばかりに我にも、責任が降りかかってくる。
これは、負けてられんぞ。
我も、責任を押し付けようではないか。
「年長者なんだから、お前がやれ」なんて奴もいるのだが、我に責任を押し付けようとしているのが見え見えだぞ。
そんなこと考える奴の思い通りになってなるものか。
気が付けば、我も残念集団の仲間入りしていた。
願いを叶えるホワイトタイガーを呼び出すための聖地に着いた。
ホワイトタイガーは、水晶玉を集めれば呼べるものではない。
正確な場所、正確な呼び出し方法、本当に叶えなければこの世界が禍に見舞われる願いでないと、ホワイトタイガーは願いを叶えたいと思う者の呼びかけに答えることはない。
そして、我らの呼び掛けに答え現れるホワイトタイガー。
主たちの願いを聞いたホワイトタイガーは、「その『願い』を叶えることは、この世界の守護神ホワイトキャットに禁止されているからできない」とほざきやがった。
ホワイトキャットがこの世界の守護神だと。ふざけるな。
アレは、世界に災厄だけをもたらす禍津神だろう。
それを聞いた主は、即座にホワイトタイガーを強力な魔法で魔法攻撃。
驚くホワイトタイガー。
攻撃を魔法で追撃するマリーナ。
ここは出番だとホワイトタイガーに私怨を込めて炎を吐きだす我。
さらに、逃げ場をなくすために追い打ちをかける仲間たち。
止めとばかりに、最悪最凶の魔法をホワイトタイガーに超全力を出して魔法を放つマリーナ。
追い打ちをかけるように、超巨大ハンマー(我を倒した時よりもはるかにデカイ。もちろん、重力軽減魔法をかけている)で、重力を千倍以上乗せてホワイトタイガーをぶん殴ると同時に精神攻撃をする主。
主とマリーナによるホワイトタイガーへの攻撃を見ていた我と仲間たちは涙目。
主に、主による精神攻撃で心が抉られていくホワイトタイガーの様子を見て。
ホワイトタイガーに早く屈服しろと祈った。
変わり果てて何の生き物か分からなくなったホワイトタイガーは、主とマリーナに涙ながらに屈服し這いつくばって許しを請うように願いを叶えさせられた。
去り際に、ホワイトキャットへの恨みを言うかのように国王の妹が原因不明とされている病気にかかった経緯を暈しまくってバラしていった。
主と我には、暈しまくっても意味がなかったわけだが。
その後、ホワイトタイガーは主たちの願いを叶えて国王の妹は病から回復する。
そして、我らはギルド経由で国王に呼び出された。
国王は、我らに褒賞を与えようとした。
主と仲間たちは、必死に全力で拒否している。
そこまで拒否しなくても思ったのだが、主によると大人しく褒賞を受け取ると後々面倒なことに巻込まれるから、受取りたくないのだという。
なるほどなと思った。
本日の我ら冒険者一行のリーダーのカーライルは褒賞の件を有耶無耶にすべく、我と主の共同制作の報告書を国王に受け取らせた。
その報告書を読んで視線を険しくさせる国王一同。
国王と近くにいる偉い身分の一人は、怒りが突き抜けているようだ。
褒賞の件を有耶無耶にさせるべく我が主が、国王の妹を病にした元凶の処罰を進言した。
処罰としては軽すぎる『自害』を。
国王は難色を示したのだが、主はホワイトキャットが関わっているのだから、手早く処罰が実行できる方法をと求めたのだ。
ホワイトキャットの代々の被害者であるこの国の王たちのためにと。
ホワイトキャットの野望を挫く一つ目の方法としては最適だろう。
国王は納得し、ホワイトキャットが動く前に迅速に動くことを約束した。
そして、その話し合いの最中、我らは城から脱出した。
翌日、ギルド経由で国王の妹殺害未遂犯を国が処罰したことを報告された。
ホワイトキャットは、自分のための遊戯が我らに阻止されたため次の遊戯をするための準備をしているようだ。
カーライルがそれに気付いて、真王を倒そうと言っている。
この世界で、真王が一番平和的な生き物なのだが...
それを聞いた主とマリーナが、爆笑しているのを視界の端に見た。
それを見た我は複雑な気分になった。
カーライルに、主とマリーナの方がヤバい生き物だというべきなのだろうか?
真王城に着くと、マリーナの元に全力疾走して真王を見た。
次の瞬間見たのは、土下座をしている真王の頭を全力で踏みつけているマリーナだった。
我は、目を逸らして見なかったことにした。
そして、真王はマリーナの下僕になった。
あの真体実験の快感が忘れられなかったらしい。
我は、真王の性癖に恐れをなした。
一応、各種族の王に真王のことをギルド経由で報告した。
もちろん、彼らはそのことを当然のように知っていたのだが、実績のある我ら冒険者一行の報告としてこの世界の住民に正式知らせ、各種族と手に取り合って平和を築いていこうと建前を得られた。
各種族のトップに立つ者としては知っていても、下々の者たちに説明するには決定打が欲しかったのだろう。
我と主の本当の目的、『ホワイトキャット殺し』。
我と仲間たちは、傍観することしかできなかった。
そう、主とマリーナが本気の本気で魔法攻撃をホワイトキャットにしたからだ。
主とマリーナの殺気と気迫が半端ない。
そこにあった小さな島の一つ二つ消滅している。
主の怒りは当然であろう。
主の持つ魔力は、ホワイトキャットに弄ばれるはずの運命を持つ者の魔力であるのだから。
だが、マリーナはどうなのであろう。
何かホワイトキャットに恨みでもあるのだろうか?
考えても分からぬことだが、ホワイトキャットのことだ。
人族史上最凶の魔女マリーナの不興を買っていたとしてもおかしくない。
ホワイトキャットは抵抗したのだが、主とマリーナの手によって殺された。
無残な姿になっていたのは言うまでもない。
すぐさまホワイトキャットの死体を灰塵に帰すべく、主は強力な炎の魔法でホワイトキャットの死体を跡形もなく燃やした。
この世界が、守護神という名の禍津神の手元から離れ、本来の世界の在り方に戻った。
長い月日を生きていたが、この瞬間に立ち会ったことは感無量だ。