攻略対象 二人目~ヒロインの冒険者仲間の一人~
この世界の守護神ホワイトキャット。
一体だれが、ホワイトキャットからもたらされた被害を前にせず、この世界に都合よい表現で守護神と呼ばれていることに気付くのだろう。
ただ一人の少女を除いて。
俺は、無知だった。
いや、何も知ろうとしなかったのだろう。
世界は、自分に都合よくできていないことを。
俺カーライル・アンビシャスは、知ってしまった。
ホワイトキャットの被害に遭ってしまったことで。
俺の両親は、死んでしまった。
ホワイトキャットのシナリオ通りに、俺を動かすために。
このことに気付いたのは、ほんの偶然、些細なきっかけ。
両親が死んでからは、弟に家を継いでもらうために相続を放棄し学校の教師になった。
これこそが、ホワイトキャットのシナリオに必要なこと。
だが、後悔はしていない。
弟は、外で働くには向いていない性格だ。
俺がホワイトキャットが両親を殺したことを知ったと同時に、弟や屋敷に勤める者たちもそのことを知った。
それと同時に俺は、教師を辞めて冒険者になることにした。
弟は、「俺が冒険者になるから、兄さんが家を継いでくれ」と言ってきたのだが、『お前が冒険者になるなんて無茶すぎだろ』と思い全力で執事セバスチャンと止めた。
執事セバスチャンは、チート級の能力の持主だ。
俺は、彼が地上最強であると信じている。
執事セバスチャンがいる限り、この家は安泰だ。
俺は、心置きなく冒険者に転職することができた。
それなりに、冒険者として経験を積んだ頃、一人の少女がギルドに登録しに来た。
『女の子が興味本位で来る所じゃないだろ』と思ったのだが、ギルド職員が丁寧にもてなしてた。
なんと、少女は放浪癖のあるギルドマスターを何度も捕獲し拉致できる実力の持主だとか。
少女は、伝説の冒険者の愛娘だと後で知った。
伝説の冒険者は、息子もいるそうだがギルド職員によると息子の方は冒険者として全く期待できないと言っていた。
彼に会ったら、冒険者になるのは絶対に無理だと分かるらしい。
ともかく俺は、少女を一目見た瞬間に分かってしまった。
少女は、ホワイトキャットに弄ばれる魔力のある運命の持主だと。
少女を俺と同じような不幸に堕としてはいけないと思った。
その少女は、エレノア。
彼女が容赦なく引き摺って来た物体をこの場にいる奴らは見なかったことにした。
白目を剥いて後頭部から血を流して見えるのはきっと気のせいだろう。きっと...
エレノアが冒険者のランクが上がった頃、俺たちのパーティーに加入してきた。
きっかけは、パーティーを組んでいる仲間の一人がバカに絡まれたところを助けたからだ。
それはともかく、俺たちには欠点があった。
一人でマ物たちを相手にするのは過剰戦力といわれる、俺たちに。
そう、何も隠していないからギルドにいる奴らは誰でも知っている『料理が下手』集団。
エレノアは、料理は『焼く』ことだけ。
ちなみに俺は、『野菜・野草の採取』だけだ。
料理に関してだけは、パーティーで組んでいる仲間たちと合わせて一人前。
そんな、料理の焼くことが得意なエレノアの独断場なプンクピッグの丸焼き。
プンクピッグという豚は、希少種であったり、捕獲するのが難しいというわけではないが、最高に美味しく食べるにはプロの料理人でも焼くのが難しすぎる豚だ。
だが、今回は大丈夫。
エレノアがいるからだ。
エレノアの得意魔法は、『生活密着型』。
生活に密着する魔法のみ、万能だ。
他の馬鹿な冒険者たちはこの魔法を馬鹿にするが、冒険者だからこそ無視できない魔法の使い方だ。
水のない所から水を作り出し、食後の調理器具や食器洗い、着ている衣服の洗濯をする。
火は、もちろん料理の調理過程で食材を焼く。
重要なのは、焚き火に火を簡単に点けれて水を使うことなく消せること。
この魔法の恩恵に預かれば、微妙な魔法だと思っていた思いは遥か彼方に吹き飛ぶ。
そうこう考えているうちにプンクピッグの焼きあがる頃だ。
見よ、愚かなる冒険者たちよ。
これが、本当の『火』の使い方だ!
俺たちが、プンクピッグの焼きあがりを見て悦に浸っていた時、急にシルヴァードラゴンが現れ、俺たちのプンクピッグを奪い去って行った。
この時、俺たちの心は一つになった。
「あの竜、絶対にボコる!」と。
旅の途中で、国王陛下の妹様が危篤だと知った。
そして、エレノアは不穏なことを言った。
「ホワイトキャットを殺そう」と。
なぜだ?と俺はエレノアに問うた。
すると彼女は、「守護神といわれるわりに、なぜホワイトキャットをこの世界全体で、信仰することを禁止するのか?」と。
そうだ。
守護神とするなら、世界全体で信仰を禁止するはずがない。
「一番の決定打は、ホワイトキャットを祀る神殿がないことですね」
そうだ。
普通に考えるなら、神殿があるはずだ。
なぜ、俺はそのことを考えなかった?
「それに、ホワイトキャットの絵姿が一切ない」
そうだ。
ウソでも何でも、なぜ絵姿がどの文献にも存在しない?
「気になるのは、ホワイトキャットの功績が一つも語られていないこと。それって、都合の悪い事件を隠すためじゃないですか?」
これは、貴族にとっては当たり前のことだ。
都合の悪い事件なら、隠すに決まってるじゃないか!
自分は貴族であったにもかかわらず、なぜその可能性に気付こうとしなかった?
エレノアの不穏発言から、パーティーを組んでいる仲間たちと色々『ホワイトキャットの様々なウワサ』を検証した。
その結果、団体行動を一時的に止めることにした。
そして、ギルド内で最も胡散臭い噂で『10の水晶玉を集めると願いをかなえる』を実行することにした。
熱弁するエレノアは、俺たちの方を見ずに明後日の方向で。
まあ、気持ちは分かるがな。
俺個人としても、この胡散臭すぎる噂にすがりたい。
俺は、国王陛下に個人的に恩がある。
学生時代に両親が死んだので、学校を辞めようとしていた時に支援して下さり、学校を辞めずに済んだのだ。
今思えば、俺の両親がホワイトキャットに殺されたことを知っていらしたのだろう。
そんなこともあり、国王陛下の妹様をお助けしたいのだ。
エレノアや仲間たちは、国王陛下の妹様が出身領地の治安向上に貢献してくださっているからだろうが。
ある意味心配なエレノアは大丈夫だろう。
この日のために、学校で習うあらゆる教育を学校に行かずに済むように叩き込んだからな。
国王陛下の妹様を助けるために、仲間たちと別行動を開始した。
マ物たちを退治したりするのはどうってことないのだが、困ったのはエレノアの魔法に頼り切った部分だ。
これは、一刻も早く伝説の水晶を見つけ出さねばならない。
仲間たちと随時連絡を取り合いながら、伝説の水晶をすべて見つけ出した。
そして、新たな仲間が加わった。
エレノアの自称下僕シルヴァだ。
シルヴァは、あのシルヴァードラゴン。
どうして、自称下僕と名乗っているのかは絶対に聞かないことにした。
聞いたら負けだ。
実は、俺たち冒険者パーティーはその日によって『責任者』を選んでいる。
壮絶で全力の責任の押し付け合いなのは言うまでもない。
自称下僕だからといって、責任者の人から逃れられると思うなよ。
伝説の水晶を滝壺に全力で落として、願いを叶えてくれるマ物を呼び出すことにした。
呼びだした願いをかなえるというマ物は、ホワイトタイガーだった。
そのマ物は、「ホワイトキャットからミリエル・ドリエッティの病気を治すことを禁止されている」とふざけたことを言った。
俺たちの苦労は(おもに、エレノアの魔法に頼っていた部分)?
俺たちのあの心細い食生活はなんのために?
このことに、シルヴァがキレた。
「もう、焼くだけの料理なんてイヤなんじゃ」と。
なに言っているんだ、このドラゴン。
エレノアの料理魔法の『焼き』はプロの料理人以上の腕前なんだぞ。
焼くだけで、料理になるんだぞ。
別行動していた期間、俺たちの中で一番安定した食生活じゃないか!
続くエレノアは、「ホワイトキャットの好きにはさせませんで――――!」とフード食堂のおばちゃん風に言って、血の付いたハンマーでホワイトタイガーを全力で力の限り連続でぶん殴る。
そんなに、フード食堂のおばちゃんの手料理を食べたいのか。
俺だって、おばちゃんの手料理が食べたい!
こうしてはいられないと、俺と仲間たちもシルヴァとエレノアの後に続く。
ボロボロになっていくホワイタイガー。
多少は憐れに思わ...思わないな。
とにかく早く屈服させて、願いを叶えさせよう。
俺たちに心まで折られてしまった(大半は、エレノアによる精神攻撃)ホワイトタイガーはなすすべもなく俺たちの願いを叶えに行った。
去り際に、国王陛下の妹様の病気の原因をかなり暈して言った。ヤケクソ気味に。
ケンカを売るなら、相手を選べと思ったのは言うまでもない。
国王陛下の妹様の病気が全快されてから、ギルド経由で王城への呼び出しがかかった。
国王陛下が経緯を知られて、ギルド経由で俺たちを呼び出したのだ。
国王陛下にご報告し終えた時に、国王陛下は褒賞を俺たちに与えようとしたのだが、俺たちは全力で拒否した。
当然のことをしただけで必要ないと言って。
その時に、俺がパーティーの代表として仲間たちと調べてまとめた『国王陛下の妹様が病気になられた経緯』報告書を渡した。
国王陛下やここに集っている皆様には知る権利があるだろう。
ただ、エレノアが調べた情報はどうやって調べたのかは知らない方がいいだろうと本能的に思ったとだけは言っておこう。
国王陛下や国王陛下の妹様を妹同然に愛している宰相様の部下(国王陛下の幼馴染)は、報告書を読み終えて激怒した。
エレノアは国王陛下と宰相様の部下に、ここぞとばかりに国王陛下の妹様を病気にかからせた罪人を迅速に処罰することを求めた。
『自害』という方法で。
普通の重罪人なら、こんな楽な方法で罰されないだろう。
だが、今回はホワイトキャットが関わっている。
だからこそ、軽すぎるが迅速にできる処罰で決着を着かせねばならない。
そんなこんなで、俺たちは褒賞の件を有耶無耶にし王城から全速力で脱出した。
次々に起こる出来事で、黒幕がホワイトキャットの仕業だと断定できる事件をホワイトキャットが発生させていることが分かった。
その結果、異世界から少年少女を拉致し使役する『勇者召喚』をこの世界がすることになる。
平和な世界から少年少女を拉致させるわけにはいかないと、俺たちは魔物とマ物の頂点に立つ『真王』のいる真王城に向かった。
襲い来るマ物たち。
即座に返り討ちにする俺たち。
真王城の玉座に着いた時には、全力で俺たちに向かってくる何かに反応しきれなかった。
パーティーの中で、いちばん大人しくて常識人の魔女マリーナがその土下座をしている何かの頭を踏みつけていた。
気が付けば、パーティーの中で俺以外が、マリーナの奇行から全力で目を逸らしていた。
真王は、マリーナに何かしたのだろうか?
俺は恐いので聞かないことを決意した。
俺はマリーナを一度怒らせてしまったことがあるのだが、アノコトだけは思い出したくもない。
そしてなぜか、真王はマリーナの自称下僕になった。
真王なのに。
これで、俺たちは異世界からの少年少女の拉致を阻止したことでいいのか?
真王情報によると、俺たちの予想通り異世界の少年少女の拉致計画はホワイトキャットによるものだそうだ。
実は、真王はこの世界を征服する気は全くないそうだ。
それどころか、人間や他種族と手を組みこの世界に平和をもたらして争いのない世界を作りたいと言っている。
いい奴じゃないか、真王。
それにしても、ホワイトキャットの情報操作は恐ろしいな。
このことを、国王陛下やその他の王(他種族の王も含む)にも伝えた。
各王たちは、ホワイトキャットの被害者たちでもあるのですぐに納得して下さった。
これから、自国の国民に他国や他種族たちと手を取り合い争いのない世界を作ることを発表して理解を得られるよう努力して下さると言って下さっている。
俺たちは、これからホワイトキャットを倒しに行く。
なにより、シルヴァと真王がいるので負けることはないだろう。
結果、俺はエレノアとマリーナを絶対に敵にしてはいけないと心の手帳に書いて赤線を太く太く引いた。