悪役令嬢
私、アニー・ドリエッティ。
ドリエッティ公爵家の娘ですわ。
私の最大の秘密は、『前世がある転生者』であることですわ。
そうはいっても、前世があることは内政チートとかそういう面では全く役に立ちませんの。
どうやら、前世の私は頭がよろしくなかったみたいですの。
それなら、仕方ありませんですわね。
私は、乙女ゲーム『カバンから取り出すのは、ホワイト・キャット』の世界に転生しましたの。
私のゲームでの役割は、悪役令嬢。
最後には、ヒロインと攻略対象たちから『ざまぁ』される損な役割。
でも、そんなことさせませんわ。
見てなさい、ヒロイン!
この世界で勝つのは、この私よ。
私が、前世を思い出したのは大嫌いなお母様の死でしたわ。
お父様といると、お母様はいつも私を邪魔者扱いしましたの。
そのお母様もいなくなり、お父様は私に優しくしなくなりましたわ。
その時に、決意しました。
新しくできるお母様と弟に優しくして、ざまぁ回避しようと!
領内やお屋敷が荒れに荒れて大変な時に、国王様のご命令でお父様は後妻を迎えることになりましたの。
新しくできたお母様は、あのお母様より美しくないですがとても優しくて明るいお母様ですの。
それにそれに、弟ができましたのよ。
私は新しくできたお母様と義弟が早く屋敷に馴染めるように、使用人たちとの間を取り持ったりしましたの。
私による私のための『ざまぁ回避計画』のためですわ。
ふふっ、ヒロインの好きにさせませんことよ。
現実とゲームの違いをこの私が教えて差し上げますわ!
死んだお母様は、お屋敷の使用人たちに人気がありましたの。
あのお母様が人気だったなんて、私には理解できませんわ。
ですので、新しいお母様は使用人たちから嫌われていますの。
信じられませんわ。
新しお母様は、あのお母様が死んだ頃から放置されていた領地改革を領民のために頑張っていらっしゃるのに。
お父様は、今やだショックで何も領民のためにしないのですのよ。
なんのための爵位なのか分かっているのかしら。
新しいお母様がいるからこそ、この領地は今の状態を保てますのよ。
でも、今はそんなことより義弟の面倒を見なくては。
新しいお母様、義弟にとって実のお母様は領地経営をしてお忙しいので義弟を構う時間が少ないのです。
私よりも、実のお母様から愛情を注がれているにもかかわらず、そのことに義弟は不満。
あのお母様が死んでから、お父様は私に対する愛情が全くなくなってしまいましたのよ!
ですが、私はそんなこと気にしませんわ。
その分、新しいお母様が私を愛してくださいますから。
ヒロインが、義弟ルートに入ると私は処刑されるのでそれを防ぐためにも、新しいお母様のためにも義弟に優しくしますわ。
といっても、すべてのルートで私は処刑されるのですわ...
引き籠りから社会復帰したお父様にある日突然、婚約が決まったといわれましたわ。
正直なことろ、前世の記憶がなければお父様にブチ切れていますわ。
だって、普段は私のことを気にかけることすらしませんのに、政略道具として扱う時だけ私に話しかけますもの。
前世の記憶があって、初めてよかったと思えましたわ。
実は、お父様は権力欲がとても強い方ですの。
ゲームの悪役令嬢、つまり私が処刑された理由の大半はお父様が原因ですの。
ヒロイン(農民)を公爵令嬢がイジメただけでは処刑にはなりませんものね。
過ぎたる権力欲の『道具』がなくなれば、下手なことができないと国の思惑による処刑ですもの。
ここからが新しいお母様の腕の見せ所ですわ。
義弟のことは私にまかせて、お父様の権力欲を去勢してくださいませね。
新しいお母様はお父様を社会復帰させた方ですもの。
それくらいできると私は信じていますわ。
ちなみに、私の婚約者はゲーム通り、第一王子ザイヤー・ホワイトプロジェクト様ですわ。
そして、ついに最悪のことが起きましたの。
新しいお母様が原因不明の病で倒れてしまいましたわ。
お父様の権力欲を去勢させた矢先のことですの。
私がショックで何もできないでいると、義弟が私を支えてくれましたわ。
「さすが、攻略対象者」と思ってしまいましたの。
でも、いつまでも義弟に甘えられていませんわ。
お姉ちゃんは、もうすぐいつも通りになるから安心してくださいませね。
お姉ちゃん、頑張りますわ。
私と義弟の看病もむなしく、新しいお母様は今にも死にそうです。
そんなの絶対にいや!
お願いだから、なんでもするから、ゲームと同じように新しいお母様を殺さないで!
そんな時に、ボロボロになったかろうじて虎と分かるというようなものが突然現れて、新しいお母様の病気を治して下さったのですわ。
ありがとうございますわ。
奇跡のようなことが起きて、私は新しいお母様に抱きついて嬉し泣きしましたの。
私の頭を撫でる新しいお母様の手がとても温かいですわ。
それから数日後、義弟はこの屋敷から何の前触れもなく突然いなくなりましたわ。
新しいお母様によると、国王様のご命令でこの屋敷を出ることになったそうですわ。
新しいお母様は、国王様の妹。
国王様の血筋なら、当然のことかもしれませんわね。
寂しいけれど、仕方ないですわ。
新しいお母様の体力が回復し、国王様に安心していただくために登城する日が来ましたの。
義弟に久しぶりに会えるのかもと期待したのですが、新しいお母様が「今日は、婚約者になる王子様との初顔合わせのためにも来ているのだから無理よ。ごめんなさいね」と言われたのです。
新しいお母様から言われたら、仕方がありませんわね。
お父様はどうでもいいですけれど、新しいお母様には迷惑をかけたくありませんので、今回は諦めますわ。
その後も、登城や社交界デビューやお茶会と色々あったのですが義弟とは一度も会えませんでしたわ。
ひょっとして、嫌われたのでしょうか?
でもでも、ショックを受けている場合ではありませんのよ。
攻略対象である第一王子ザイヤー・ホワイトプロジェクト様とその将来の側近たちとお近づきになって、彼らと仲良くし、心の傷を作る前にそれを癒し解消させなければいけませんわ。
ふふっ、悪役令嬢であるこの私がヒロインの出番を失くして見せますわ!
...まだ見ぬヒロインに敵対心を燃やし、意気込んでいた過去の私。
恥ずかしさ、極まりありませんわ!
そう、なにを隠そう乙女ゲーム開始になったのに、この学校にヒロインが現れませんの。
一体、全体、どういうことですの!?
今までの私の苦労は?
こんなことになるなら、王妃教育をあんなに血反吐吐くほどやりませんでしたのに。
攻略対象(義弟除く)たちに、日々愛を囁かれる現状に周りの女子生徒たちに『ビッチの烙印』を押され、どうしてこうなったと頭を抱える日々。
私は、婚約者一筋ですのよ!
早く来て、ヒロイン。
婚約者以外の攻略対象たちを押し付けてあげますわよ。