不死身
駄文ですが。
遥か昔、妖怪や化け物、精霊は、当たり前のように存在していた。
しかし、何十年、何百年、何十年と文明が発達していくにつれて、彼等は人類に住みかを壊された。
守護していた人間にも、存在を否定された。
人類を怨み、反撃しようにも現在は全く歯が立たない。
ならば、彼等は現代社会をどう生きているのか…
ごく普通、としか言い様のないコンビニに客が一人。
「いらっしゃいませー」
若い店員が特別清々しくもない、普通の挨拶をした。
どうやらケータイゲームをしているらしく、顔を上げなかった。
しかし、その客は明らかにおかしかった。
入店すると、まず店員が一人ということと、客が他にいないかを確認した。
そして、素早く雑誌コーナへ移動した。
客の格好は、黒のパーカーとスウェット、パーカーのフードを被り、黒いサングラスと白いマスクをつけている。
身長は優に190を越えていた。
怪しい、とてつもなく怪しい。
客は雑誌の陳列棚から一冊本を取り、レジに出した。
店員の視界に『カロリー計算ハンドブック』という本が映り、パッと顔を上げた。
目の前にあるのは客の顔ではなく、鋭利なナイフだった。
「10万だ」
客ではなく、強盗はナイフを店員の喉に突きつけた。
「10万円だせ」
「…あ、強盗か」
外人の様な顔つきの店員は酷く呑気に言った。
「黙れ」
強盗はそれが気に食わなかったのか、店員の喉をスパッと切った。
店員が血の流れる喉元を抑える。
その隙をつき、店員の体を2、3回切りつけた。
次に、脇腹に突き刺した。
ナイフは器用に肋骨を避け、肺へと刺さった。
更にナイフを右へ左へと、抉るように回す。
青いストライプの制服に、みるみるうちに血が染みていった。
もう動けないであろう店員に、強盗はまだ腹部を刺し続けている。
声が出せないよう喉を切ったし、逃げられないよう何ヵ所か刺したが、どうも違和感がある。
最初に切った喉は、手で抑えていて見えないものの、付着した血が消えている。
脇腹の傷は、とっくに服が真っ赤になるぐらいにひどい筈だが、少量の血しか染みていない。
何か言い様のない恐怖を感じ、腹からナイフを抜いたが、離れようとする手を、ガシリと店員に掴まれた。
「気づきました? 」
店員が言った。
複数の人間の声を重ねた様な、不気味な声だ。
その声を聞いた途端、逃げ出したくなった。
けれど、床に足が縫いつけられたかのように動かない。
声も出せない。
「少し記憶を消しますよ」
店員が緑色の瞳を、強盗へ向けた。
危機的状況というのに、急に強烈な眠気が襲ってきた。
強盗がぐるりと白眼を剥き、勢いよく後ろへ倒れた。
「斉藤さん! 本当にすみませんでした! 」
バイトが終わった帰り際、バックヤードで爆睡していたもう一人の店員が、斉藤という青年に頭を下げた。
青年よりも年下らしく、高校生ぐらいの年齢だ。
謝る高校生に対し斉藤は、「いいよいいよ」と苦笑している。
「な、何かありませんでしたか?」
「全然何もないよ。暇すぎてゲームしてたし…」
斉藤の頭の中に、あの強盗の事が浮かんだが、すぐに消した。
「あ、それより電車は? 」
「え…あ、しまった! 」
高校生は、腕時計を見て驚愕した。
「あの! 斉藤さん、今度お詫びを…」
腕時計から顔を上げ、目の前を見た。
しかし、今いた斉藤がいない。
「…あれ? さ、斉藤さん…? 」
古代から存在する、科学では証明できない様な生き物。
彼等の中には、社会に順応し、人混みへ紛れることを選んだ者もいた。
他にも、部屋の隅、押し入れの中、視界の端、様々な場所にいる。
もしかしたら、あなたのすぐそばにいるかもしれない。