何? 元勇者だからって愚痴っちゃダメなわけ?
小説ではない何か。
ねぇ、ちょっと聞いてくんない?
貴方は知ってると思うけど、私最近まで勇者やってたのよー。
………ちょっと待ちなさい、どこいくつもり? 何? 聞きあきた? もう16回目だぁ?
こちとらねー、酒かっくらって愚痴りでもしなきゃやってけないのよ! ……ねぇ、聞いてくれるわよね?
うん、ありがとう。やっぱ持つべきは仲間じゃなくて友達よね!
あ、仲間と言えばさぁ、賢者いたじゃん。そう、あの如何にも僕はお前とは違って賢いんだよ。ハッあんた馬鹿じゃないの? 猿以下だね、いや猿に失礼か、謝罪するよ、猿にね。そもそも僕とお前が住む世界が違うんだ、仲間扱いしないでくれる? せめて同行者と言ってくれないかな。って雰囲気の奴。いたでしょ? 何、なんか細かくないかって? あいつ、独り言の多い痛い奴だったから駄々漏れよ、駄々漏れ。
そんなことより聞いて。その賢者がね、何を血迷ったのか、新しい異世界から来た勇者に告って振られたのよ! もう、最高!
それでね、告白したことが王子に知られたみたいでね、王子が勇者のパーティーから無理やり外したのよ。ほら、王子ってば異世界の勇者にぞっこんだから、嫉妬ね、嫉妬。その時の賢者の絶望した表情が、もーっ最高で!
どうやって見たって? 私、こう見えても元勇者よ? それくらい楽勝よ。
今までに一緒だった仲間も皆、異世界の勇者ちゃんを狙ってるから味方も居ないし、独りぼっち。必死で、味方になりそうな私を探してる姿なんか、なんて滑稽なのかしら! 私、死んだことにされてるし、てか殺されかけたし、仲間だった奴らに。ついでに犯されかけたし。
おっかしーの。もう、パーティーの仲間がコロコロ替わっていくのに、勇者ちゃん気付かないだもの。笑っちゃうわ、もう8人目なのにねー。
ん? なにそんな難しい顔してるの。あら、眉まで寄せちゃって。美形が凄むと迫力あるわねー、アハハッ。
犯されそうになったって聞いてない? 当たり前じゃない、言ってないもの。ま、未遂だったし? 大丈夫、大丈夫。
ちょっと、なんで貴方が泣きそうになってるの。しんみりした空気は好きじゃないわ。
…………。
………愚痴っていいかしら。
良い? ありがとう。
ちょっと話題変わるけど、今思うと、勇者って痛いわよね。どこの厨二病だって叫びたいわ。あ゛ー、過去の私が恥ずかしい。死にたい、死のう。
……冗談よ、冗談。本気にしないの。
私ね、無理やり押し付けられて、嫌なのに祀りあげられて逃げ場を塞がれて、仕方なくだけど、きちんと勇者として頑張ってたのよ? ……そう、ね。貴方がその事を一番知っているわね。
それなのによ。それなのに、急に異世界から勇者ですって? 神の使い? 召喚?
ふざけんなってんだよ。
そいつが力秘めてるのか分かんないけど、私が偽勇者で、あちらが本物とか、頭大丈夫ですかー? って聞きたいわ。
誘拐よ、誘拐。しかも異世界から。でもねー、勇者ちゃんってば、帰りたくないよっ、とかほざいてるのよねー。私、いらない子なの。とか言ってさぁ。なんなの、あの甘ちゃん。喧嘩売ってるのかしら。いらない子なのー、だったらとっくに捨てられてるわよ。ちゃんと育ててもらった癖に。1人育てるのだって大変なのよ? 金も掛かるし、時間も掛かる。愛がなければ無理よ。もし無くったって育ててもらった事実は事実なのに、どんなに有り難い事なのか。気づきもしないで、よくそう言えるわよね。欲しくても手に入らない子なんて、世の中に溢れかえってるのに。
……酒の飲み過ぎ? そんなこと分かってるわよ。水ちょーだい。
でも、勇者じゃなくなって良かったとおもうわ、心から。
だって、目的果たしたら、勇者はお払い箱でしょう? だけど、大き過ぎる力は、国にとって魅力的なもの。そして脅威でもあるから、縛り付けておきたいらしいわ。
勇者ちゃんに、ぞっこんな王子がいるでしょ?
最初、私が勇者として選ばれてから、よく絡んできたのよ。思わせ振りな態度して、終いには「貴女のことが好きだ。王族の俺が言うのも可笑しいが、本当は旅に出てほしくない。無事に帰ってきてくれ」なんてほざいたのよ。馬鹿よね、私がそんなのに引っ掛かるわけないじゃない。知ってるのよ、綺麗なお嬢さんとセックスしてたのを。見ちゃったもの。きっと、あのお嬢さんが本命だったのね、今は勇者ちゃんだろうけど。
王子のことが好きだったかって? なんでそんなこと………。
あら、呼んでるわよ。早く行ってあげなさい。……分かってるわよ。愚痴に付き合わせて悪かったわね。
え? 王子のこと聞いてない? 聞かなきゃ行かないって、何処の子供よ。
ほら、早く行きなさいって。部下さん困ってるでしょ。
……………。
…………………。
………………。
………………。
…………………………。
……………。
………………………。
…………………しょうがないわね。
負けたわ、言います、言えば良いんでしょ。
王子よりも、貴方のことが好きよ、魔王。
ちょっと、なに照れてるの。今更でしょうに。魔王が照れるとか。貴方の威厳ががた落ちしないことに、私は不思議で仕方ないわ。
あ、ごめんなさい。
部下さんが呼んでるわよ、仕事だって。
うん、いってらっしゃーい。
勢いで書いてしまったはなし。
設定とかよく考えてないけど、異世界勇者ちゃんは逆ハーレム(無論美形)を形成中。
元勇者は、瀕死だったところを魔王に助けられました。