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七、しかし、計画通りにいかないのが世の常というもの…

「うーん……あーよく寝た」

 私はそう言ってむくっと起きた。何せ地下だからお日様とは無縁だし、時計はないし……で、まるっきり時間がわからない。

 でも放っとくと十五、六時間は寝てる私がよく寝た、と思ったんだから、きっともう昼過ぎだろう。それにしても、いつどうなるかもわからない身で、石畳の上で布団もなくてよく眠れるものだ……我ながら感心する……。


「ムルー!おはよー!!」

 言ってみたけど返事がない。ムルーは檻のある部屋の外で番してる筈で……そこにいる限り、聞こえてないってこともないと思うんだけど……。


 おっと。足音だ。少し慌て気味の。


 足音は私のいる部屋の前で止まり、次にはガチャガチャと鍵を開ける音。そして入ってきたのは……。

「ムルー!どーしてたの?いないから、心配しちゃった」

「ああ、俺も心配した。突然王から呼び出されたんでな。計画がばれたかと……」

 言いながら檻の錠を外す。

「で結局、用件は何だったの?」

「お前を連れて来いだと!――一応、また厳重に縛るが……悪く思うなよ」

「うん勿論。怪しまれたら元も子もないもんね。だけど私に、一体何の用な訳?王は」

 縛りながら、ムルーは言った。

「とりあえず脱走計画のことじゃないらしい……から、この間の続きじゃないか?」

「あの、魔がどうとやらっていう――?」

 疲れるんだよね、あの問答は。


 で、以前と同じく沢山歩いて、目隠しを取られて部屋に入ったら、今回は王子はいなくて、カーテンの奥で王が席に着いて待っていた。そしてムルーが退場し――王が口を開いた。

「魔よ。もう一度訊く。そしてこれが最後だ。――お前の目的は?」

 こーなったら煙に巻いてやろう。


「現社会において、目的意識を持って動いている人間がどの位いるか、なんて知りませんが多分少ないんじゃないでしょうか。まあ、進学率九十八%の進学校の高校三年生としましては、とりあえず目的は大学合格というところなんでしょうけど、かといってとりたててやりたいことがあるわけでもなし……まー私は普通よりも目的意識のない高三生だと思いますが」

「……この翻訳機、壊れたのか?何だかわけのわからない言葉しか聞こえぬが……」

「壊れてませんよ、多分ね」

 素直な私はそう言ってあげた。

「ということは――わけのわからないことを言って一体どうするつもりだ?何か事態が進展するとでも?」

「いーえ別に。遅れも進みもしないでしょうよ。でも別にわけのわからないことを言ったつもりもありませんがね」

「……もう一度だけ言うぞ。目的は何だ?」

「おーや、さっきのが最後じゃなかったっけねー?」

「ふざけるのもいいかげんにするんだな」

「間違ったことは言ってませんよ。そーですね、でも真面目に言えというのなら……本心を言ってみましょうか」

 で、思いっきり息を吸い込む。どーせ本心を言うのなら、本心並の音量で。せーのぉ、

「んなもんないって言ってるだろ!!このすかたん!!!」

 あーあ。ばいばいと言っただけで叱る、うちのがっこの校長先生が聞いたら、絶対怒り出す言葉遣いだな。


「――お前の本心はよくわかった。そしてお前の未来も決まった。――処刑だ!明日の……正午に」

 あした……?ま、まずい。せめてあさってにしよう!明日の夜逃げるから。


「いや、待てよ」

 そ、そうそう。考え直そうねっ。

「お前は、私の顔を見るという言葉を恐れなかったんだったな……。興味がある。一度、私の顔を見せてみよう。万一生きていたら……お前はトーレを気に入ってるようだし……丁度良い。トーレの母親になるんだな」

 母親……ははおや……ってことは、ええー冗談じゃない!十七才で十二才の子の母親になってたまりますか!――いや待てよ、論点がずれてる……そーだ、どーして好きでもない奴の奥さんにならにゃあかんのだ!冗談じゃないっ!


 ……っていうのに……王はムルーを呼ぶとこう言った。

「明日の正午に私の寝室にそいつを連れて行け。――処刑になるかどうかは、まだわからぬが、な」

 し、しんしつだと~~。冗談ではない!というのだ!!

 でもまだ明日で助かった~~今日これから、じゃ、何の手も打てないとこだった……。顔を見せること、すなわち処刑、になるかもしれないから、予定の時刻は変わらなかったのね……。


 えーと、顔見せられても死なない自信はあるけど――だけど、どういう根拠で自分の顔(?)にあんなに自信持ってるのかね、あの王は。やっぱ過去の実績かしら。とするとやっぱり危ないかなぁ……うーむ。

 いいや!誰が死んでやるもんか!!しかし、死んでやらないにしたってあんな奴の嫁さんになるのはごめんだ。とするとやっぱり……手を打つしかないだろうなあ……。


 そんなことを、牢に至る道中考え続けて、で、牢に着いて目隠しが外されるなり私はムルーに言った。

「ムルー!王子と連絡とって!全部揃わなくてもいいから、物を揃うだけ揃えてって」

「じゃあ……」

「私の都合で予定変更して悪いけど――今夜決行よっ」


そういえば、一番最初、このサブタイトルは「しかして、……」でした。読んでくれた友人に「しかしてってそしてって意味だよ」と指摘されて、「しかし、……」になったのでした。知りませんでした、「しかして」の意味。

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