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四、プリチュ王になりたくないプリチュ王子トーレと

 ガチャッと部屋の鍵が開いて中に入ったところで目隠しと体に巻き付いている縄を解いてもらえた。

 ガチャガチャッと檻の錠を開けて、私を中に入れ、ガチャガチャッと錠を閉めたところで番人らしい男が言った。

「手を出せ」

 それで檻の隙間から手を出して、両手首を縛っていた縄を切ってもらった。

 うー、縄が結構きつかったからな、痕になってる。痛いったら……。


 番人らしい男は、部屋から出て鍵を閉めると、そこで番をしてるらしかった。

 ――どうやら本当に番人になったな。

 結局、話が進展しないんで、私を連れていった男がもう一度呼び出されて、私をここに戻したってわけなんだけど……。


 うーん一体どういうことなんだろう???私がどうして他の星にいるんだろう、って事じゃなくてね。私のことは考えたってきっとわからないだろうから、とりあえず置いといて、あの王子様と王様の事。

 どーも台詞から言うと、あの王子は養子みたいなんだけど、かわいくて養子にしたわけじゃなさそうだしなー。憎らしいって言ってたもんね。憎らしくて養子にするっていうのは、一体どういうことなんだろう?


 うっうっうっ元の疑問符に戻ってしまった……。この世界の知識がないから考えにくいのかなあ……。


 ――と。外で足音がしたような気がした。耳を澄ますと――確かに。

 それから、番人がその新参者と何か議論を始めたようだった。小声で話してるんだけど、たまーに番人の興奮した声が聞こえてくるんだよね。「しかし!」とか「ですが!」とか。


 しばらくすると声はおさまって、部屋の鍵を開ける音がした。

 どうやら新参者は私に会いにきたらしい。誰だろう。今の状況を多少なりとも変化させてくれる人だと有難いなー。


 すると、番人の「どうぞ」の声の後に入ってきたのは、トーレ王子だった。


「トーレ王子?!」

 叫ぶと、すっと番人が入ってきて、檻の隙間から剣を持った右腕を入れて、刃を私に向けて、言った。

「大声を出すな。トーレ王子はお前との会談を望まれている。――だが、王子をどうにかしてみろ、俺のこの剣が黙っちゃいないからな!」

 何かこう、時代劇あたりで聞きそうな台詞だな。――まぁ口答えをしてみる。

「どうにかったって、檻ごしでどうしろっていうのよ」

「――魔であるお前なら、檻をものともせず何かをするかもしれないだろう」

「――檻をものともせず何とか出来るなら、剣つきつけてるお宅なんて、とっくの昔にどうにかなってると思わない?」

「……」


 王子がくすくすっと笑って言った。

「もういいよ、ムルー。どう考えてもあちらが正しいよ。――大体、僕にはお前や王の言うように、この人が魔だとは思えないけど?ね、マツウラリナさん?」


 やあっと私のことを魔扱いしない人が現われたので、当然私の態度もやわらかくなる。

「里菜でいいです、王子様」


「そうですか?じゃ、僕のこともトーレって呼んで下さい」

「でも、トーレだなんて呼ぶと、許してくれなさそうな人がそこにいるけど?」

と私は言った。

「構わないよね、ムルー?」

「……王子の御命令とあらば」

 ムルーという名らしい、その番人は、しぶしぶそう答え、王子が剣をちらっと見ると、しぶしぶそれをしまった。


 王子は続けて言った。

「それに僕は、貴女に仲間になって欲しいんだし」

「仲間?何の?」

「――この国を脱出する、です」

「脱出?!ったって、あなたこの国の王子なんでしょう?だったら何で逃げる必要が……。あ、それにその前に――」

と私はムルーを見て言った。

「この人、あなたにすごく忠実に仕えてるみたいだけど、その前にあの王に仕えてるんでしょ?そういう話して大丈夫?」

「大丈夫じゃなきゃする訳ないだろ」

 うっムルーに逆襲されてしまった。そりゃそのとーりなんだけど……。

「大丈夫なんです。表向きはムルーは王に仕える身として、僕に仕えている訳なんですが、実際は王に仕える以前に僕に仕えてるんです」

「ん???」

 どういう事だ?

「ま、ちゃんと説明しますよ。どうやら本当にここの事ご存じないみたいですしね」

 それで、やっと私は、ここの知識を多少なりとも得られることになった。


「僕と王が本当の親子じゃないのはもうお気付きでしょう?」

「ん、まぁおぼろげには」


「僕はもともと、隣国の、ハーレ王国の王子なんです。――七年前に、ここプリチュ王国のロッフ王が突然戦争を仕掛けてくるまでは。


 何分、ハーレは小国でしたので、大国プリチュの突然の攻撃に耐えられるわけもなく、そのうえプリチュは魔王ロッフを迎えたばかりで勢いにのってましたので、ハーレ王国はあっさりと敗退しました。そして――ハーレ王城にロッフ王がのりこんできました。


 城の者は皆、王が来ると目をつぶるなり顔をそむけるなりして、死から逃れました。だけど僕は全然目をつぶらなくて――でもまるで何ともありませんでした。それでプリチュ王ロッフはハーレ王に向かって言ったのです。


『ハーレ王、取引をしよう。もし、この王子を跡取りとしてくれるのなら、全ての者の命ばかりか、貴殿が王として存在することすら許そう。――勿論、毎年何かを納めてはもらうが』


と。要は植民地になれ、ということですが、それをのむ以外に国民を救う手立てはありませんでしたので、ハーレ王は目をつぶったままうなずきました。そしてロッフ王は、約束通り国民にも勿論王にも手を出さず、僕を連れて引き上げました」


 ううむ…。何てゆーか…えっとぉ…。


「――僕の身柄と引き替えに国が助かった、と言えば聞こえはいい。だけど実際にはそれは、いくらハーレの国力が充実しても、僕という人質がいるために、ハーレ王国は植民国としての生活を余儀なくされている、ということです。……そんなことには耐えられない!!」


 子供にしてはやけに淡々と、他人事のように話していた王子は、そこで初めて押さえていた感情を爆発させたようだった。

 私の入っている檻につかまって、ひざをつき、うずくまるようにして泣いている――。


 ムルーは、泣いている王子をどうしたらいいかわからないようだった。私にもわからない。でも――。

「――ハーレ王国の国力は、この国、プリチュとやらを打ち倒せるほどアップしてるの?」

と言ったら、トーレは顔を上げて答えた。

「はい!ハーレのみんなはプリチュに税を取られてもめげずに働き、貯えはかえって七年前よりも多いですし、戦力も――これは、七年前さっさと敗退した為に、ほとんど無傷だったことが幸いしたんですが――かなりアップしてるとのことですから、僕という要因さえなければ必ず勝てます!!いざとなれば、この命を土に還してでも……!」


 ふう。七年前、魔王一人のために国をあけ渡した人々が、いくら戦力アップしたからといっても、勝てるのかなぁとは思うんだけど……黙ってると、実際に自害でもしそうな勢いだもんな。ここはひとつ……。

「わかった」

「えっ」

「やってみよ。ここのこと、全然わからないし、何故お宅が私を仲間に選んだのかも全然わかんないけど」


「あ、それは、あなた色々な事知ってるみたいだったから、絶対この脱出行の力になってくれると思ったし、悪い人じゃないと一目見た時から思ってたし、大体、僕の目の前に現われたんだから、きっと運命の巡り合わせだと思ったし、――何より、いずれ死刑の身じゃ手伝ってくれざるを得ないでしょう?」

 ……何だって?


「死刑って……どーして?!」

「どーしてって、魔と言われた者の運命ですよ」

 あー、ジャンヌ=ダルクなんかもそうだったな――。


「じゃ、どうして魔王は死んでないわけ?」

「だって――死刑を決定するのは王ですよ。魔王に誰が死刑を宣告するんです?」

「……」

 ううん、それは難しい問題だ。


「とにかく、なるべく早く実行に移したいんで、計画をたてないと……」

 王子がそう言いかけたらムルーが口を出した。

「王子!そろそろ帰られないと、王が……」

「あ、そうだね。じゃ、リナ、また来ます。あっと、ムルー。リナにここのこと教えてあげてよ。頼んだよ」

 そして、王子は走り去った。


 ――しばしの沈黙の後、ムルーがいやいやという感じで口を開いた。

「――何か聞きたいこと、は?」

「え、そりゃ山程。――でも、そうだな、最初に訊いとこうかな。……ムルー、ハーレ王国がプリチュ王国に勝てると思う?」


 そんなことを訊くとは思っていなかったらしく、少々驚いたような顔で、ムルーは私の目を見た。で、私は言った。

「正直なところをさ、言ってよね」


「そう、だな。――本心で言うと勝てない、と思う。……国力が増そうと戦力が増そうと。七年前ハーレが勝てなかったのは、そのせいじゃない。――敵の前で王自ら目をつぶってしまうような国が、どうして勝てるというんだ?……そう、一番の敗因は精神力だ。そしてそれは七年やそこらで身につくものじゃない」


 ははあ、やっぱりムルーもそう思ってたか。王子がハーレの国力について熱弁してた時、王子の後ろでなんか渋い顔してたから、おや?と思ってたんだよね。


「――私もそう思う。でも『自分さえいなければ』なんて思ってる王子見てると、たとえまた負けるとしても、いっしょに脱出したいと思っちゃうな。――わけのわかんないうちにわけのわかんないところで殺されるのもやだしね」


 ムルーは、唇のはしを少しゆがめた程度の笑みを浮かべて、そして言った。

「しょっぱなっから思ってたんだが、お前は外見も中身も何か変わった奴だな。――まぁ最初は魔だからだろうと思ってたんだが……。中でも気の強さは……凄いな」

 凄いって言われると、一体どう答えたものやら。


「えーと、まぁそのー……。うん、気の強さには自信あるんだ、私」

 何たって昔、痴漢さんにすら気が強いなーと感嘆(?)された程の人間ですからね、私は。(何やったかっていうと、ただ、声出すと殺すぞって脅されて、首絞められかけたんで、反対にカッター出して脅したってだけなんだけど……)


「だけどな」

 ムルーが言った。

「だけど俺は思うんだ。もしかしたらってな。――五歳の時、無意識に目を開けていて死ななかったトーレ王子は、十二歳の今、意識して目を開けていても十分王と渡り合える。それだけの精神力の持ち主がハーレ王国に戻ったら、多少なりともハーレの国民に影響を与えるんじゃないか。そうしたら、もしかしたら……ってな」


 ムルーの目は夢見る目だった。

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